電車に俺と風俗嬢11人

・12月の話です。

・学校に行ってきたんすよ。そりゃ、俺も大学生だから、学校ぐらい普通に行くわけで。遅刻すらしたことない皆勤賞のくせにガリ勉でもないというよくわかんねえカスなんだけどさ。

・それはともかく。でね、その日はなんか半ドンみてえな授業でね、午前中で帰ったんすわ。で、その帰りの電車の中の話。

・当然、11時とか12時とかに帰るわけだから、通勤ラッシュとも退勤ラッシュとも被らない時間じゃん? だから電車がめっちゃスッカスカだったのよね。一両目に、俺と、女の子だけ。でも別にその女の子とは席もめっちゃ離れてたからどうとも思わなかったのさ。

・2駅目のところで、ジジイが乗ってきた。なぜかこんなガラガラの電車なのに俺の向かいに座ってきたから、ちょっと殺したくなったワケ。おおい! 何やっとんじゃジジイ! 悠々と景色が見れへんやんけっ! って。

・まあ俺はその時景色見てたわけでもないし、ただBookLiveで「ふたりえっち」の試し読みしてただけだったから、キツいこと言っちゃったけど、そのジジイは別にいいのよ。

・問題はその次の駅で乗ってきた人たちよね。結構人が多い駅だから、そりゃ、いっぱい乗ってくるだろうと身構えてて、俺もそろそろ偽装かむふらーじゅのためにワンピースの公式アプリでも開くかーと思ってたのよね。

・そしたら。

・そしたら、七人連れの女の子たちが乗ってきたのよ。七人も。彼女たちの描写はあまりしません。詳細的に書いても意味はないので。ただ、その時の俺の感想だけ書いとくね。それで分かるから。

・「あ、風俗嬢だ」って。風俗嬢どもが攻めてきたぞ!って。本能的に分かったもん。こいつら全員風俗嬢だ!って。嘘みたいだけど、本当にそう思ったのよね。

・なんで分かったのかとか、そういう理屈抜きで。みんなも自分の思う一番の風俗嬢を想像してみ?

・まんまそれが乗ってきたの。しかも七人組で。もし風俗嬢=ドラゴンボールだったらすでに神龍が出てきてぼくは即座にギャルのパンティいや風俗嬢のパンティを頼んでますわなって感じで。

・風俗嬢のパンティおくれーーー!!!!って。

・まあ、はい。当然風俗嬢はドラゴンボールじゃないんでそんなことはしてないんですけど。風俗嬢のパンティは風俗で頼むか、エロ本屋の端に売り出されてる3000円くれーの中古の汚ねえパンツを買ってください。

・でね、その七人は座らずに立ち話(二重の意味で)をしてんのよ。ヤバくない? この状況。

・ふと向かいの席のジジイに目をやると、その爺さん、口をふがふがさせちゃってめっちゃ慌ててんのよ。長く生きてるだけあって、目の前の女が風俗嬢だってすぐに分かるみたいで。老練の勘ってやつなんだろうな。

・それで、そのジジイの股間に目をやると、うすらぼんやり勃起してんのよ。そりゃこんな風俗嬢の空気に揉まれりゃこうなりますわな。ジジイのくせに元気だねえって納得してたけど、でも、よく考えろ。

・もしかしてこのジジイ、俺に見られたから勃起してんじゃねえか? って。

・だからすぐに目は逸らしました。

・で、ジジイはその次の駅で降りて、入れ替わりで3人組の女子が入ってきたのよ。もうこの時点でヤバいよね。電車に、女の子と、風俗嬢7人組と、女子3人組と、俺。AVか!?ってめちゃくちゃ緊張したたんだけど。

・そこで入ってきた女の子たちを見たらさ。なんかおかしいんだよ。あ、あれ? なんだろう、この女の子たち、まさか……。

・風俗嬢だ!!!!!!!

・もう俺の体はガタガタよ。なぜか俺の目の前に座るし。もうどこに目をやればいいか分からなくて、視線フラフラで、とりあえずスマホに目をやったのよね。

・そしたら、「ふたりえっち」開いてんのよ。ゆらさんがめっちゃ喘いでんのよ。ふざけんなじゃあ俺はどこを向けばいいんだって感じで。

・そこでふと、考えた。素数を数えて落ち着いてから、考えてみたら。

・ん……?

・待てよ?

・この7人は風俗嬢で、目の前の3人も風俗嬢で、じゃあ最初から乗ってた1人の女の子はどうなんだ?

・って思って、恐る恐る見たのよ。

・おい、風俗嬢じゃねえか!!!

・マジかよ。この女の子も風俗嬢かよ。髪型と仕草見たら分かるもん。こんなぱっつんの女の子なんて風俗嬢しかいねえよ。

・わーお。オーマイガー。俺がアメリカ人でここがサブウェイだったら完全に叫んでたね。ファッキンビッチ!って。いや、ファッキン・エッチか? 電車に俺と風俗嬢11人。こんなことある????? ヤバくね??? この街こんなにエロかったっけ????? 桃源郷に名前変えない?????

・そこで、俺はジジイの思惑がなんとなく分かった気がした。ジジイが俺の目の前に座って、そしてすぐに出て行ったのは、同じ電車の女の子が風俗嬢って一瞬で分かったからなんだろうね。それで同類である俺に助けを求めてたのよ。おまえも分かるよな? って。

・さすがジジイ……70年の人生をシコって風俗に通い続けて無駄にしてきただけはある。抜け目ねえ。いや、「抜き目あり」かな?

・ともかく、俺はどうしようかと迷ったんだけど、結局目的地の駅まで乗ってたんだよ。

・乗ったんだけどさ、もうその間乗ってくるみんな全員風俗嬢に見えるのよ。

・いや、さすがにそれはないと思うけどさ。最初の11人だけだと思うけどさ。あまりにも電車に風俗の匂いが蔓延しすぎてそう思っちゃうんだって。

・クスクス笑いながら乗ってくる女子高生。あまりの風俗オーラに顔を顰めるサラリーマン(なぜこの時間にいるんだ?)。オドオドして乗る直前で引き換えす童貞ボーイ。

・目的の駅についてもさ。そこがめちゃくちゃソープの多い街だから、風俗嬢全員降りてくるのさ。

・うわーーー!!!!!

・風俗通勤ラッシュじゃーーーーって!!!!!

・全員がいなくなった後、1人ぽかんと立ち尽くす俺。そこに駅員さんがやってきてね、囁くんすわ。こうね。

・「あの、どうかしましたか? あら、もしかして風俗行ってきたんですか?」

・いや、行ってねえよって言おうと思ったけど……ある意味あれは風俗だったかもしれない。うん、きっとそうだ。

・20歳の冬、思い出の風俗トレイン。奇跡の10分間を、電車はシコシコと走り続けた。ぼくはその月のクリスマスを孤独くりぼっちに過ごした。



〈完〉

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