私はプロダクトデザイナーとして働く上で、前々からサスティナブル（地球の自然環境の維持に役立つ事業や開発）やインクルーシブ（包摂的な）といった言葉をよく耳にするようになってきました。

深刻さを増す環境問題、新型コロナウイルス感染症のパンデミックに関連した人種差別と外国人嫌悪（ゼノフォビア）に基づく人種差別が問題になっている今日、さまざまなこと視野に入れてビジネスをデザインすることが求められていることは理解はしていますが、もう少し詳しく調べてみたいと思い、最近IBM Institute for Business Valueの消費者の好みや優先順位がどのように変化し続け、ブランドに与える影響を調査研究したものを調べてみました。

今日の消費者

今日の消費者は、価格比較を超えて、ブランドや、企業の価値の探求に動機付けられて商品やサービスを購入します。

根本的な変化が実際に起こったのは、スマートフォンの登場から10年ほどの最近のことです。eコマース革命はその予測可能な関係と活動を覆しました。店に行く代わりに、人々はますますオンラインで商品やサービスを購入し、目に見えないものになっています。

モバイル・テクノロジーとソーシャルメディアは消費者の行動に大きな影響を与えてきました。今日の消費者は、価格、材料、配送オプション、製造方法などに関する情報をえることができます。また消費者は「何かがほしい」「何かをしたい」と思った時に、スマホやタブレットなどのモバイル端末を使って検索したり、しばしば他の仕事をしている間に買い物をします。言い換えれば、今日の消費者は、いつでもどこでも、そしてますます好きな方法で買い物をしています。これは「マイクロモーメント」と呼ばれており、インターネットやSNSの発達によりマイクロモーメントの発生頻度はますます増えており、これらを活用したマーケティングが注目されています。

さらに、現在の消費者は、彼らが価値があると考えるものに一致する特定の商品またはサービスに対する彼らの欲求を明らかにする「マイクロニーズ」によって動かされています。業界は今までもマイクロニーズに基づいて、ロケールごとにわずかに異なる製品を製造および実施していました。例えば、オーガニックでフレッシュ、環境にやさしい、パラベンフリーなどの認定を受けた商品など、消費者の要求に合わせて調整された特定の品質に基づいた商品を提供することが重要になってきていましたが。2020年のIBMの調査の対象者の70％以上がマイクロニーズを満たすものを探しているとこたえています。

💡パラベンフリーとは、防腐剤のパラベンが入っていないものを指します。

これは逆説的な考え方ですが、消費者の買い物がデジタルタッチポイントにシフトし続けるにつれて、その役割が新しいものに変化したとしても、店舗という存在はこれまで以上に重要になります。

利便性と即時性を求めてオンラインでショッピングを希望する消費者にとって店舗はオムニチャネルの供給とフルフィルメントのエコシステムにおける重要なノードになっています。

💡オムニチャネルとは、企業とユーザーの接点であるチャネルを、 ECサイトなどのwebサイトだけでなく、メールやスマホアプリといったその他のオンラインの接点、さらには店舗などのオフラインの接点も含めて様々なチャネルを連携し一環した顧客体験を提供し、ユーザーにアプローチする販売戦略のことです。
💡フルフィルメントとは、一般的にはオンラインで商品が注文されてからエンドユーザーに商品が届くまで必要な業務全般を示します。 

体験型、またコミュナルショッピングを希望する消費者にとって、店舗はプロダクトやブランドと実際に関わるためのショーケースの役割を果たしています。

💡コミュナルショッピングは消費者が他の人に購入決定への参加を求めるショッピングの方法です。

これらの幅広い需要は、過去5年間で、小売およびブランドの展望を根本的に変えてきました。IBM Institute for Business Valueは、消費者の好みや優先順位がどのように変化し続けてきたのか、またブランドに与える影響をよりよく理解するために、National Retail Federationと協力して、28か国の18,980人の消費者を対象に調査研究を実施しました。この調査は2020年に実施され、消費者の買い物の習慣、ブランドや商品の選択の推進要因、消費パターン、さまざまな個人の価値観や信念に基づいて行動を変える意欲について調査しています。

IBMはデータドリブンの調査と専門家による分析によって新たなトレンド、課題についてビジネスリーダーに示唆に富む洞察を提供しています。

こちらから調査研究のレポートをダウンロードできます。
Repot by Karl Haller, Jim Lee, and Jane Cheung

ブランドが遍在性、敏捷性、持続可能性を実現しなければならない理由

レポートの概要
→消費者の買い物行動は根本的に変わった。
ショッピングは、計画された個別の活動ではなく、今日の常時オンの消費者の気分に合わせていつでもどこでもできるようになりました。調査対象の消費者の10人に7人は、いわゆる「マイクロモーメント」で買い物をしていると答えており、35％は少なくとも毎週買い物をしています。

→サスティナビリティは転換点に達した。
消費者がますます社会的な目的を受け入れるようになるにつれて、彼らは自分たちの価値観に合った製品やブランドを求めています。 調査対象の消費者の10人に6人が、環境への影響を減らすために買い物の習慣を変えようとしています。 回答者の10人に8人が、サスティナビリティが彼らにとって重要であると述べています。 そして、それが非常に重要であると言う人にとって、70％以上は、サスティナブルで環境に対する企業の責任を考え、実行しているブランドに対して、平均して35％のプレミアムを支払うと予測されています。

→価値を感じられることが重要
ほとんどの消費者は、次の2つのセグメントのいずれかに分類されます。
価値重視の消費者。価格と利便性に基づいてブランドを選択します。 目的志向の消費者は、個人の価値観との整合性に基づいてブランドを選択し、持続可能性を正しく実現しているブランドを求めています。

消費者の買い物行動は根本的に変わった

世界中の回答者の81％は、2つの買い物客セグメントのいずれかに属しています。価値を重視する消費者（41％）と、価値に合った製品やサービスを求める目的重視の消費者（40％）です。

消費者の57％は、環境への悪影響を減らすために購入習慣を変えようとしています。

トレーサビリティが非常に重要であると回答した調査対象者の71％は、トレーサビリティを提供するブランドに割増料金を支払う用意があります。

トレーサビリティとは、｢その製品がいつ、どこで、だれによって作られたのか｣を明らかにすべく、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にすることです。

消費者の71％は、「マイクロモーメント」（何か他のことをしながら買い物をする）で買い物をしています。 3人に1人以上が、少なくとも毎週、最大で1日に複数回そうしていると述べています。

調査の分析から、4つの異なる消費者セグメントが明らかになり、それぞれが異なる重点分野を表しています。（図1を参照してください）　

1.価値重視の消費者（全消費者の41％）
価値重視の消費者は、生活を簡素化するために価値似合って、便利な製品/サービスを望んでおり、それらの利益に対して喜んで支払います。
価値志向の消費者は主に価格と利便性に基づいてブランドを選択します。 また、他の顧客セグメントとは異なり、このグループは、環境への悪影響を減らすために習慣を変える傾向はありませんでした。価値重視の消費者が最も集中しているのは、北米、北ヨーロッパ、日本、韓国、中国です。 このグループの50％は、中所得または中所得以下のステータスだと報告されています。

2.目的志向の消費者（40％）
目的志向の消費者は自分のライフスタイルや健康/ウェルネスのメリットを備えた製品やブランドを求めています。 彼らは自分たちの価値観やライフスタイルに合った製品やサービスに割増料金を払っても構わないと思っています。 目的志向の消費者はまた、環境への影響を減らし、持続可能性やリサイクルなどの問題に気を配るために、買い物の習慣を変えようとしています。 ヨーロッパと東南アジアおよびラテンアメリカの一部は、このグループの最大の代表です。このグループの半分強（51％）が、中所得以上の所得を報告されています。

3.ブランド主導の消費者（13％）
ブランド主導の消費者はブランドを信頼しており、ブランドは購入決定の主要な要素です。他のグループと比較して、最も高い平均収入で、彼らは買い物をし、より多くを費やしています。 ブランド主導の消費者はそれをすべて望んでおり、買い物をたくさんします。そして、彼らは彼らのライフスタイルに合った品揃えに割増料金を払っても構わないと思っています。 インド、中東の一部、およびラテンアメリカはそれらの最も高い集中度を持っています。 全体として、ブランド主導の消費者の37％は、中所得以上の収入があると述べています。

4.製品主導の消費者（6％）
製品主導の消費者（6％）は製品の機能を重視しており、これらの消費者は全体的に買い物にあまり従事しておらず、ブランドや製品の属性に縛られていません。これらの消費者は、製品の信憑性を保証する透明性に対して割増料金を支払います。それらの半分強（51パーセント）が中所得以下の収入であると特定しています。

消費者グループが全体的に興味深いだけでなく、各製品カテゴリに関して重要度がどのように変化するかも注目に値します。たとえば、アパレルの買い物に関しては、消費者の46％が価値重視です。逆に、食品を購入する場合、消費者の44％は目的志向であり、目的志向の消費者にとって自分が身に付けているものよりも自分が自分の体に入れているものにもっと気を遣っていることがわかります。（図2を参照してください）

サスティナビリティは転換点に達した

世界中の小売および消費者製品企業は、過去5年間、持続可能性への注目を高めています。 2014年以降、世界の持続可能な環境に責任のある投資は68％増加し、現在30兆米ドルを超えています。

地球環境問題への意識は、どこに住んでいても消費者の習慣をますます変えています。すでにかなりの数の人々が基本に立ち返る考え方を採用しており、シンプルで新鮮で、防腐剤や加工元素をほとんどまたはまったく含まない製品を選んでいます。

これらの態度がブランドの選択を後押ししています。消費者の10人に7人以上が、ブランドが「クリーンな」製品を提供すること（78％）、持続可能で環境に配慮すること（77％）、リサイクルをサポートすること（76％）、または天然成分を使用すること（72％）が少なくとも中程度に重要であると述べています。（図3を参照してください）

信念が購入を促進：消費者は「善のために」買い物をする
消費者の10人に6人（57％）が、環境への悪影響を減らすために購買習慣を変えようとしています。サステナビリティが重要であると言う人の間では、これは77％に跳ね上がります。さらに、これらの特性が非常に重要であると言う人のうち、10人に7人以上が、リサイクルをサポートし、サステナビリティを実践し、また環境に責任を持つブランドに割増料金を支払う意欲があります。（図4を参照してください）

サスティナビリティの優先事項は時代を超えている

ミレニアル世代がサスティナビリティの認識において主導権を握っている可能性がありますが、すべての年齢層は、サスティナビリティ、環境、および/または個人の健康属性がブランドを選択する際の重要な考慮事項であることを示しています（図5を参照してください）。Z世代は健康とウェルネスを最優先事項として挙げていますが、他のグループにとってはクリーンな製品が最も重要です。 興味深いことに、自然/有機的な属性は、年齢層を超えて重要性が低くなっています。

Baby boomers（ベビーブーム世代） = 1945 – 64 年ごろの生まれGeneration X（X世代） = 1965 – 80 年ごろの生まれ
Generation Y（Y世代またはミレニアル世代） = 1980 – 95 年ごろの生まれ
Generation Z（Z世代） = 1995 年以降の生まれ

💡Y世代またはミレニアル世代は1980年代序盤から1990年代中盤までに生まれた世代のことで、インターネット普及前の時代に生まれた最後の世代で、幼少期から青年期にIT革命を経験したデジタルネイティブの最初の世代でもあり、ミレニアム（新千年紀）が到来した2000年前後か、それ以降に社会に進出する世代という意味で、ミレニアル世代（英: Millennial Generation）、あるいはミレニアルズ（英: Millennials）と一般的に呼ばれています。

💡Z世代は1990年後半頃から2012年頃に生まれた世代を指し、デジタルネイティブであり、SNSネイティブ、さらにスマホネイティブでもあるといった特徴を持ちます。

ロケーションに基づくサスティナビリティの優先順位

サスティナビリティの重要性は広まっていますが、地域や国によって買い物客の優先順位に顕著な違いがあります。地域によって異なる要件に対応するために、企業は各地域の市場で消費者にとって何が最も重要であるかを真に理解する必要があります。これには、「サスティナビリティの高度化」または持続可能性が各市場にローカルに組み込まれ、実施されている程度を知ることが含まれます。 たとえば、健康とウェルネスのメリットを提供することは、北欧よりもイタリアとスペインで比較的重要です。 一方、中国とインドの人々は「クリーン」な製品を最優先事項と評価しています。

信頼はしているが検証も怠らない

サスティナビリティを前面に押し出し、消費者はラベルの成分リストをチェックするだけではありません。彼らは、製品素材の調達、また製造方法または処理方法、および製品の配送方法に関する詳細を求めています。調査対象の消費者のうち、73％が、製品のトレーサビリティが重要であると回答しています。この特性が非常に重要であると言う人のうち、71パーセントはそれに対して割増料金を支払うと言われています。

買い物客はまた、企業のサスティナビリティポリシーに関する情報を求めています。多くの人は、ブランドがリサイクルをサポートしたり、慈善活動に資金を提供したり、社会的責任を示すその他の行動をとったりすることを保証したいと考えています。

消費者がサステナブルな製品を選ぶことを念頭に置いて、84％の対象者はブランドの信頼が重要であると述べています。驚くべきことに、消費者がブランドをどれだけ信頼しているかに関係なく、購入する前に徹底的な調査を行います（図6を参照してください）。ブランド主導の消費者の75％でさえ、購入する前にかなりの量の調査を行っていると述べています。したがって、信頼と信頼を絶えず強化する必要があります。

サーキュラーエコノミーからの影響

現在、廃棄物量の増加や、資源・エネルギー・食料需要増などの懸念も深刻化しており、グローバル規模での経済活動の見直しが求められています。従来の大量生産・大量消費・大量廃棄のモデルから、モノを長く使い、廃棄を削減していく考え方として、「サーキュラーエコノミー」が注目されています。

消費者のサスティナビリティへの関心の高まりの一環として、消費者は多くの従来のブランドを混乱させ、新規参入者に機会を創出している新しい購入および消費モデルに目を向けています。 

レンタルや中古品の購入など、商品を手に入れるための代替方法を提供する「サーキュラーエコノミー」の台頭を考えてみてください。中古、修理、または更新された製品の購入に関しては、回答者の70％がそのような慣行を試したか、試したいと考えており、試した人の84％が今後もそうする予定だと回答しています。また、Z世代とミレニアル世代の10人に8人近くが中古品を購入したか、購入したいと考えています（図7を参照）。 商品のレンタルについては、調査対象者の60％近くが試したことがあるか、やりたいと思っており、すでに行っている人の77％が再利用を計画しています。

サスティナビリティの大切さ

消費者がよりサステナブルな製品に引き寄せられ続けるにつれて、ブランドはもはや、製品が個々の消費者のために何ができるかという単一のレンズに対して判断されなくなりました。製品の属性と企業価値に関する消費者の好みは、彼らが買い物をする場所に大きく影響します。これは、成熟市場と新興市場の両方に当てはまります。実際、回答者の57％は、環境への影響を減らすために購買習慣を変えても構わないと言っています。そして、新興市場のより多くの消費者（62％）は、成熟市場の消費者（54％）よりもそのような変更を喜んで行っています。

まとめ

今回はIBM Institute for Business Valueの消費者の好みや優先順位がどのように変化し続け、ブランドに与える影響を調査研究したものを調べてみました。こちらでレポートをダウンロードできます。

サスティナビリティを無視する大規模なグローバル消費者ブランドは、評判とビジネスのリスクを高めつつあります。サスティナビリティが消費者の意思決定プロセスの重要な部分になっていることを考えると、ブランドや小売業者は焦点を絞り、これらの好みを満たす能力を向上させることが不可欠です。これにより、あらゆる規模の競合他社に、特に目的志向の消費者との信頼関係を築く機会が提供されます。

製品の環境への影響の80％は、デザイン・フェーズで固定されてしまうと言われています。私たちデザイナーもサスティナビリティを支える重要なパートを支えていることを忘れないようにしなければいけないと思いました。

私も、色々勉強中なので、皆さまの、ご意見・ご感想をお聞かせください。お読み頂きまして、ありがとうございました。

メルボルンを拠点にプロダクトデザイナーとして働いています。 主にデジタル・プロダクトの制作に携わっています。