「愛してるよ」――ドラマの恋人たちのことばのターゲットは，その恋人だけではない．真のターゲットは見ている私たち〈同席者〉である．同席者が存在するこうした言語場のありようを，〈言語場の同席構造〉と呼ぶ．

実はあらゆる言語場には原理的に，同席者が存在し得る．

伝統的な言語論は〈私が話す〉ことを見てきた．やがて〈私が話し，あなたも話す〉のだということに気づいた．そして今日私たちは〈私が話し，あなたが話す，そしてそれを誰かが聞いている〉という構造に思いやらねばならない．言語場の今日的な変容は〈見えない同席者たち〉を顕わにしたのである．

『言語 この希望に満ちたもの』野間秀樹 著　　
　北海道大学出版会  2021.7.1発行　四六判 350頁 ISBN978-4832934139
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