謎のしぐさ「狐の窓」ってな~に??


 皆様初めまして。
 好きなしぐさは「ラーメンを食べるときに髪をかき揚げる」こと、狐ノマドと申します。

 皆様は「狐の窓」というものをご存知でしょうか。

 調べてみると意外と出てこない。
 私自身、名前にもなっているのにあまり情報がない。
 何せ天下のWikipediaにも記事がない(2022年6月現在)。


でも、


絵本になったり、


漫画の題材になっていたり、


割と知名度が高い。「狐の窓」謎だ。

俺たちはまだ狐の窓を知らない。


偉大なるグーグル先生によると

・決められた形に指を組み、その中から覗くことで、人間に化けた妖怪や狐の正体を見抜くことができる
・天気雨である「狐の嫁入り」を見ることができる
etc.

とのことらしい。
どうやら妖怪、特に狐に化かされたときに行うしぐさらしい。

 でもこれじゃちょっと物足りない。ので、「いかがでしたか?」と締め括れるくらいには調べてみます。


  • 「狐の窓」とは何なのか

 伊藤最子(1939)は『民間伝承』四巻十一号のなかで、神奈川県の狐火の伝承が報告されていることをまとめています。

キツネッピが出た時は指を組んで指の間からキツネッピを見ながら、ソーコーヤ、ソーコーヤ、ハタチガカドニモンタテ、トウヤヒガシヤランヤ、アランヤ、アララン、ランランと三度言って其の指の穴をつッつッとふくと、ぱっとキツネッピが消える
伊藤最子(1939)『民間伝承』四巻十一号pp.130より

 このことから、指を組んで作った窓から覗き、呪文を唱えて息を吹き込むことで、狐を退散させる方法が伝えられていること見て取れます。


ではその窓はどうやってつくれば良いのでしょう。

 高田十郎(1923)は、「各地のいはならはし 其五」『なら』において、「狐にだまされた疑のあるときには、手の指を二本ずつ分けて一方は表を向き、一方は裏向きにして組合せ、中央のあなからのぞいて見れば分かる」と、和歌山県有田郡での伝承をまとめています。

 以下の画像は常光徹(2012)が図解した、狐の窓の作り方です。

狐の窓の作り方
常光徹(2012)「異界を覗く呪的なしぐさ」『第3回国際シンポジウム “カラダ”が語る人類文化 —形質から文化まで』pp.54より


 これをみると、まず①で両手を狐の形にし、②でそれを交互に組む、③で指を開いて、④で開いた指を親指で抑えている様子が見て取れます。 

 常光徹(2006)は『しぐさの民俗学』のなかで、狐の窓の手の形が、手の平と甲が同時に両面にある点に注目し、次のように述べています。

これは裏と表が同時に存在するという形で、象徴的に解釈すれば、異なる二つの世界に接していながらそのどちらでもないという境界性を表現している
常光徹(2006)『しぐさの民俗学』pp.150より

 手の裏と表を一度に見ることができる両義性が、怪異の潜む異界を覗き見る隙間という意味を帯びているといえるのでしょう。


 常光は、「狐の窓」の発想が家の上部に取り付けられた格子窓を「狐の窓」と呼ぶことからきているとして、「こちらの窓(穴)から相手を見ることができても、相手には容易にこちらの姿を見られない、つまり、身体の肝要部分を覆い隠したうえで相手を覗き見ることを意識しているのであろう」とまとめています。

 狐の窓以外にも、こちらの姿を隠しながら向こうを見るというしぐさは多くあり、

・幽霊船を見分けるには、怪しいと思った船を股の間から逆見する(山口県)
・袖の下から覗くと通常では見えないものの正体がみえる(徳島県)
・狐に後ろから憑かれると振り返っても見ることができないため、股の下から覗くと正体が見える(青森県)
・山で妖怪にあったときは銃のスリワリ(銃の照尺の小穴)から覗くと本性が分かる(高知県)
etc.
常光徹(2006)『しぐさの民俗学』より

など、全国各地で散見されているようです。

 隙間や物を隔てて見るということが、相手と直接かかわることを防ぎながら、相手の正体を見破る手段として用いられているという共通点があるのは面白いですね。

 人を化かす、驚かすといった妖怪変化については、正体を見破ることでその力を失わせ、人間側が優位に立つという話は数多いです。

 逆に言えば自分の正体が知られると危うい状況になるということ、相手にばれることなく相手のことを知りたいという想いが、この「遮りながら見る」という行為の共通点を生み出しているのではないでしょうか。




いかがでしたか?


 もう言っていいくらいにはまとまったと思います、多分。


 これを読んで少しでも気になった、もっと知りたいと思っていただいた方がいれば是非とも、より深く調べて学んでいただければと思います。



 最後に、人を呪わばなんとやら、今回のしぐさを気軽に使うのは避けたほうがよいかもしれませんね。



では。


引用・参考文献
安房直子(1977)『きつねの窓』ポプラ社 
天郷アジト(2020)『狐の窓』ジャンプルーキー!
伊藤最子(1939)『民間伝承』四巻十一号 pp.130
高田十郎(1923)「各地のいはならはし 其五」『なら』
常光徹(2006)『しぐさの民俗学』 pp.125-174
常光徹(2012)「異界を覗く呪的なしぐさ」『第3回国際シンポジウム “カラダ”が語る人類文化 —形質から文化まで』国際シンポジウム報告書Ⅲ pp.49-56


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