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嘘は、ハッピーを生成するか…?

生成変化とは…

変わることは、うそではない


10年目の『あまちゃん』再放送を視て、いろいろ妄想してきた。

あまちゃんから受けるイメージを単語であげたら何だろう。

海、東北、海女、地元、復興、絆、アイドル、友情、純心、などなどいろいろあるが

2023年の『あまちゃん』再放送から
あらためて感じたイメージはなんとウソ

嘘、インチキ、フェイク…


そんなのインチキだべ!


アキが嫌がった
あんべちゃんの〝落武者〟

ウニが採れないアキのために、観光客に見えない海中で、こっそりウニを渡す秘密工作。

アキは、ユイが言う「需要と供給」も、夏が説く「観光海女はサービス業だ」も、受け入れられなかった。

しかし、そんなアキの純心さが、周囲の人々を変えてゆく。


東京へ旅立つアキは、泣きながら春子に尋ねる。

わたし、変わった?

一年前と
ずいぶん変わった?


なぜか「おら」ではなく「わたし」に戻っている。

「二度と帰りたくない東京」へ向かう不安から、気持ちが飲まれかけているのか?

春子は答える。

変わってないよアキは

あんたじゃなくて
みんなが変わったんだよ

自信持ちなさい

それはね、案外
スゴいことなんだからね



① アイドルになりたい!ユイとの出会い

② 夏が残した屋根裏の春子の部屋

③ インチキ弟子入りのミズタク

④ 春子の歌う「潮騒のメモリー」

⑤ 鈴鹿ひろみ主演のビデオテープ



これだけ揃えば、アイドル志望への運命も奇跡に近い。

しかし、最初に導いたのは
大吉の〝嘘メール〟だった。


生成変化とは何か…?


哲学者アンリ・ベルクソンのアイデアをもとに、哲学者ジル・ドゥルーズが発展させた概念。人が狼を見て、おれは狼になる、なりたいと念じ、その結果として狼に分身する。星を見て、自ら星になったような気になる。花を見て花になる。そのような心理的動きの中に、錯覚にとどまらない本質的なものがあり、それをフランス語で「devenir(成る)」(日本語訳は生成変化)という概念とした。

wikipedia『生成変化』より


海女になりたい

アイドルになりたい


そう思ったその時、すでに半分は成っているのかもしれない。

マーメイドのように。

それは、本人の意志なのか
運命の導きなのか…

黒川アキの生成変化は

天野アキになりたい!


から始まったのだろう。

夏の尻押しによって、黒川アキから、天野アキに生まれ変わった。

春子は「変わってないよ」と言うが、春子自身も驚くほど、変わったのだ。

ユイは、アキの訛りを「嘘だ」と言うが、それはウソではなく〝ホンモノ〟に「生成された天野アキ」と、言えるかもしれない。

春子が言う「あんたじゃなくて、みんなが変わったんだよ」が、大嫌いな東京でも発揮される。

アキは、東京の空気に飲まれることはない、芯の強い子だった。

むしろ飲まれてしまった人々に、気づかせた。

何を…?



慈善事業ちゃいまんねん
商売やってまんねん!

どうせ売れんのに
いらん金使いたないねん


と、まくしたてる太巻

太巻は本来、そんな人間だったのか?

どこかで変わってしまったのか?

春子から、二度目の手紙を手に
再び東京へやってきたアキ。


アキのナレーション…

おら、また鈴鹿ひろみの付き人に
復帰しました
鈴鹿さんと、ママと、太巻さんの
過去を知る必要があると思ったからです

一見天然なアキだが
内面はとても冷静で客観的。

「そんなのインチキだべ!」という一本気は、スーパーで『半額シール』が貼れない忠兵衛ゆずりの気質だろうが、「去るもの追わず」冷静な夏や、おとぼけ上手で「イラっとくる」黒川パパのDNAもミックスされているのだ。

そんなアキに、自ら真相?を
話し始める、ほろ酔いの鈴鹿
無頼鮨で…

天野さんも
隅に置けないわね


種市とヒロシの三角関係だと
揶揄するが
アキは

おらたちGMTは
恋愛御法度ですから


鈴鹿

バレなきゃ平気よ
みんなやってるわよ

バレてもね

しらばっくれてりゃいいの…

それが芸能界なの


しかし
そんな豪語をひっくり返すように

バレなきゃいいんでしょ


と言う有馬めぐは、スッパ抜かれた。

やがて、アテレコの真相がバレ始めて慌てる〝ちっちゃい細巻〟は図太いホラ吹きの鈴鹿に動かされているのか?

見事にしらばっくれているような鈴鹿はさすが演技の大御所?

ちょっと飲み過ぎ
じゃねえですか?


と、気づかうアキをよそに

太巻さんが
恋愛御法度にこだわる
理由、教えてあげよっか


と、うそぶく鈴鹿

私のせいなのよね、実は

私たち、昔つきあってたの

アキ

うわぁ!聞いちゃった


そして
太巻が、アイドル志望の子に
目をかけていたことをほのめかす。

食い付くアキ

それいつの話?

思い出してけろ
なるべく正確に!



鈴鹿

へいせい…



…元年だわ


アキ

(ママだ!まちがいねえ)


鈴鹿

でも〝その子〟は結局

デビューできなかった
みたい


アキは、黙って聞き続ける。

あつかましい女よね

そんなの私が
許可するわけない

私の代わりに太巻が
NOを出したってわけ


春子のアイドルへの夢を潰してしまったのは、太巻が鈴鹿との関係を優先にしたためだったのか?

鈴鹿との出会いが太巻を変えたのか…?

鈴鹿

結局は、運よね

運がなかったのよ
その子は

そんな無茶な!
アキの憧れる鈴鹿ひろみは
そんな無慈悲な人間だったのか?


寮に帰って食べる
あんべちゃんのウニ丼

うめえ…💦


アキが泣ける時はなぜか
ウニ丼がなぐさめてくれる。

アキの原点の味…

酔った勢いの鈴鹿の言葉は
純心なアキにはショックが大きすぎる。

春子への理不尽さと
鈴鹿ひろみ自身への失望。

嘘みたいな現実を知らされた
二重ショック。

憧れの鈴鹿ひろみは
映像の世界の人物像だったのか?

正直に生きるのをやめたの…

私にとって

嘘か本当かなんて
どっちでもいい…


移ろいやすい音程のように

本音と嘘が、不協和音のように
入り交じっている鈴鹿ひろみ。

でも春子が

この子、すごいんです

と、売り込むまでもなく
鈴鹿がアキに惚れこんでいるのは
本当だろう。

天野さんがいないと
迷惑メールの
拒否の仕方もわからない

なんて言ってるけど
本当は、アキを手放したくない…

鈴鹿も、太巻も
かつては持っていたもの

アキが持っている光るもの

それを、自分も取り戻したい

そう気づかせたのが

アキであり春子だった。


春子もアキも、復讐や〝罪滅ぼし〟など望んではいない。

鈴鹿に歌のレッスンを授ける
春子の熱心さが、それを物語っている。

アキは、太巻、鈴鹿、春子らの
カルマ、心の奥に宿るわだかまりを
解消する役割を果たした
アイドルだったのだ。

大吉の嘘メールによって
動き始めたアキは
今度は周囲の人々を動かしてきた。

ビリヤードの玉のような
器用さはないが
分子のブラウン運動のように
不器用にぶつかり合いながらも
皆をハッピーな方向へ…


怒りから赦しへ、不安を勇気へ
失望から希望へ、みんなを導いてゆく
アキのミラクルパワーに
視聴者も癒やされるのだろう。

演技やフィクション、歌などのエンターテイメントは、ハッピーを生成する、いい意味の〝嘘〟かもしれない。

『潮騒のメモリー』に感涙するアキも
あまちゃん、天野アキに惚れる自分も
そんな〝嘘〟に心酔する一人だ。

では、現実の世の中はどうだろう。

フェイク動画、フェイクニュースとは裏腹に、政界、エンタメ界をはじめとする企業や組織から次々露呈されてくる嘘のような事実。


パラノイア(夢)のような都市伝説が
でっち上げ(嘘)ではなく
本当だった…?

何が本当か、嘘なのか

何を信じてよいのか

わからない時代。

垣間見えてきた現実は、氷山の一角であり、朝ドラのように、簡単に解決できるものではないだろう。

自分は、のん(能年玲奈)ちゃんファンになった2013年あたりから、メディアのあり方に、不信感を持ち始めた。

民間のメディアに、完全な公正さや
不偏不党などを求めたりはしないが
いわゆる〝忖度〟という流行語に
象徴される〝偏向〟に対して
違和感が否めなかった。

それが、まちがいではなかったことが
次々と明らかになってくる。

それは、どんな情報も鵜呑みにしないで、自分のアタマで、主体的に判断することの必要性に気づかせてくれた。

そんな不条理な世界に負けずに、健気に活躍するのんちゃんは、「世の中への不信感」を超越して、勇気を与えてくれる、天野アキのようなミラクルなアイドルなのだ。

生成AIテクノロジーによる、現実と見紛うほどの再現性には驚かされるが
本当に人を感動させるものは、人間ならではの「◯◯になりたい」という「生成変化」への情熱が作り出す、リアルな再現力だと信じたい。