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読書家よ、積ん読を誇らしげに語ることなかれ!

「積ん読」は誇らしいことなのか?

1年を振り返って、今年読んだ本、買った本について語るラジオを聞いていた。読書家であるらしいパーソナリティーが、「積ん読」になっている本の数をため息まじりに、少しばかり誇らしげにも聞こえる口調で語っている。

リスナーとしての私は、「積ん読」が誇らしいという感覚を公然と電波に流すのはちょっと変ではないかと直感した。

フードロスを放置できますか?

どういうことかと内省してみたら、こんな答えが浮かんできた。

たとえばBard によると、農林水産省と環境省が共同で推計している2023年度の日本のフードロスは、523万トンに及ぶらしい。

このうち家庭で発生するフードロスは、およそ244万トンで全体の46.7%を占める。また、食品関連事業者において発生するフードロスは、およそ279万トンで全体の53.3%を占めているらしい。
家庭で発生するフードロスの原因は、食材の買いすぎや食べ残し、賞味期限切れなどが主なものだという。事業系フードロスは、小売店や飲食店での売れ残りや食べ残し、規格外品などの発生などが主なものである

貧困、飢餓、不平等、気候変動、環境汚染など、地球規模の課題を解決し、誰ひとり取り残さない持続可能な世界を実現するための国際的な取り組みであるSDGs のことを考えれば、日本のフードロスはきわめて深刻な問題である。

このことに異論をさしはさむ人は、まずいないだろう。

ブックロスは放置してもいいですか?

よく似た構造が紙の本の流通にも見いだせる。

言わばブックロスである。

出版科学研究所の出版指標によれば、日本国内で年間6億冊ほどの一般書籍が紙媒体で流通していると推計できる。このうち売れ残って返本される本は、およそ35%に達する。おおよそ2億冊あまりが「書店→取次→出版社」という形で出版された時とは逆ルートで返本されるという。
もちろん、倉庫から再度出荷されるものもあるだろう。しかし、返本された本の大半は、断裁されて廃棄処分となることが知られている。出版指標のデータに基づけば、1年間に少なく見積もっても1億冊もの一般書籍が断裁されていることになる。
マンガや新聞や雑誌を入れたら、いったいどれだけの紙とインクが無駄になっているか。印刷機を回すためのランニングコストがかかっているのか。途方もないことである。

そして、美味しそうだからと思わず買い過ぎて食べきれなかったものが無駄になる家庭で発生するフードロスに相当するのは、書店で見かけて思わず買い漁ってしまった本やネットで見かけて思わずクリックしてしまった本のうち、「積ん読」状態のまま放置され続けているものである。
時間をかけて「積ん読」状態から脱却するものもあるが、「読書家」を公言することが許されるぐらいに本を買い漁っていた私の経験から言うと、「積ん読」状態のまま書庫に死蔵されている紙の本はかなりある。
私の場合、この5年ほどはほとんど紙の本は買っていないが、それ以前のものだけでおそらく100冊は下らないだろう。

(長期間にわたる)「積ん読」は恥ずべき行為では?

必ずしも必需品ではないのに、何となく買ってしまう行為、購入欲、所有欲に基づく衝動的で過剰な購買行動は、SDGs的な価値観に反するはずである。
だとすれば「積ん読」は、それが「死蔵」という状態になるほど長期間に及んでいる段階でSDGs 的には恥ずべき行為であると言えなくもないのだ。

もちろん食品とは違って腐ることはないわけだし、ある程度の無駄は、バッファとして許容されるべきだとも言える。ただ、日本中で食べられることなく廃棄される食品の量を推計した時に浮かんでくるフードロスの量は、バッファとして許容されるレベルを超えている。

同様に、多くのコストをかけて製本され、書店を通じて日本中の読書家によって購入され、「積ん読」の状態になっている本の数を推計することができたら、これもまたバッファとして許容される量を超えているのではあるまいか。

読書家のみなさんに聞きたい。
あなたの書棚や書庫に、いったいどれぐらいの本が「積ん読」のまま放置されているだろうか。
なぜあなたは、紙の本をそうやって「積ん読」状態にしてしまうのだろうか?

問題の認識は、行動変容の第一歩である。デジタル化の進展により、電子ブックは紙の本の代替として環境負荷を減らす手段を提供している。電子ブックの販売量が次第に増え、紙の本の販売量は減っている。どうしても紙の本が良ければ、図書館で借りることができるものも多い。
もちろん、紙の本を買うという選択自体を否定するつもりはないが、これから買う本がどうして紙でなければならないのかについては、熟慮することが必要だろう。
そして、この際、せめてこれだけは言っておきたい。

読書家よ、「積ん読」を誇ることなかれ!


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