見出し画像

簡単なのは難しいからです【昔のこと】

亡くなった父は几帳面な人でした。特に整理とメモが大好き。実家の家電に不具合が起きると相談を受ける今の私。生前の父のおかげで取説が簡単に見つかるので助かります。

実家の取説は全て残っています。そして余計なものがありません。ちゃんと在る家電の分だけ。廃棄した家電の取説は父が都度処分していました。100均で買ったであろうクリアファイルが4冊。①~④と番号が振られ、調理家電・生活家電・娯楽家電・その他とカテゴリー分けされて取説が収まっている。それ以外に目次のような厚紙のペラが1枚、①~④の各々で前から順番に家電の名前がまとめて並べ記されている。例えばエアコンであれば、ペラには②の4番目となっているので辿っていくとその取説に行きつくという、まぁ、そういう整理の仕方です。買い換えと同時に取説も必ず入れ替えていた父。だから余計な取説も一切無いということなんですね。

そういえば初めてパソコンを買った時にも驚かされました。「あんな文明の塊は要らん!」とずっと拒絶していた父が孫の写真欲しさにメールが必要だからと何食わぬ顔で簡単に翻した。帰省して初めて見た実家に不似合いなデスクトップの横には1cm幅もありそうな当時の取説が3冊、早くも汚れて置いてありました。よく見ると付箋が数枚挟んである。1冊手に取ってペラペラ捲ってみると満遍なく随所に蛍光ペンでのアンダーラインが。まさかと思って残りの2冊も確認しましたが、案の定、同じ状態の蛍光ペンまみれで小さな書き込みすらありました。

「オヤジって、コレ、全部読んだの?」
「当たり前だろ。読まないでどうやって使うんだ。」
「読んだというか読み込んでない?」
「だから読み込まなきゃ使えないだろ。パソコンって難しいんだぞ。」

いやいや、こんな分厚い取説を読み込む方がよっぽど難しい。しかも3冊。知らない単語や解らない用語も多かっただろうに…
でも、この思いは言葉にせず飲み込みました。もうお解りだとは思いますが、私の父は几帳面なうえに気難しい人だったんです。

「すげぇなぁー。オヤジの世代で読んで使いこなしてるなんて凄いよ!」
「当たり前だろ、誰だと思っているんだ!お前ちょっとビール持ってこい、少し早いけど一緒に飲もう!!」

ただ、ご機嫌をとるのもまた簡単な人ではありましたね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?