野に、咲く。11
野に、咲く。 第十一話 「二人の人生」 子は親を選べないが、親もまた然り。 僕は親に甘えた記憶がないが、どうか可哀想と思わないでください。 コレが僕の普通なのです。大なり小なり、少し他とは変わっていたり、いい思いをしたり 悲しかったり。 40歳をすぎると人それぞれのなのだと思うようになった。 母は幼少期から貧困な家庭で育ち、15歳で家を出て自由を手に入れたが、結婚してからの母は実際どうだったのだろうと、母が60歳になった時に話したことがある。 「60年生きてきて、楽しかった? 幸せを感じることはできたか?」と聞いた。 母は何も答えることができなかった。 結婚した時、家族ができた時、子が生まれた時 幸せを感じる時は星の数ほどあっただろう、母は心に残る幸せを感じることができず 気づいたら60歳になっていた。 現在、母は姉の家族と県外で孫の面倒を見ながら 週に何度か趣味の教室に通い余生を穏やかに暮らしている。 もう鬼の顔ではない。 一方、父は僕が小学3年生になった頃、行方がわからなくなり10年以上会っていなかったが 僕が27歳の時に再会した。相変わらずの父だったが、その後、数年連れ添った女性と 死別し、一人福岡でその日暮らしをしていたが、大病して人生を改めたのか、70歳を過ぎ シルバー人材センターで、働くことの素晴らしさを知ったとのこと。 ビルの清掃から保育園の警備など「お父さんは町の役に立ってるよ」と言っている。 父は母と同じように幸せを感じることはできたのだろうか? 死ぬよりも辛く、寂しい時が多かったのだろうと、僕は思うのだった。 「君には、愛情を示さなかったもんねぇ」 と、しんみり父はつぶやいた。 子は親を選べないが、親もまた然り。父と母は共に76歳、まだまだ人生は長いので どうか幸せを感じてほしいです。 僕の理想とは程遠いが、この両親が父と母であってくれて、よかったと思います。 ありがとうございます。 つづく
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