見出し画像

地域団体と日本型福祉社会に関するお話〜あるいは20世紀を懐かしんで追悼する話。

 日本の地域社会におけるまちづくりは、地域団体のみなさまが一生懸命守ってこられました。その点について僕は大いに敬意を表するところです。

 しかし一方で、組織の維持に困りを抱えている地域団体から「しんどい」という声もお聞きするようになって久しいです。担い手不足や継承者不足、高齢化、加入者の低下などなど。

 そのような事情に対し、様々な処方箋を色んな人達が書いています。しかし、そもそもなぜそうなっているのか、という全体像の説明は意外に多くありません。

 地域団体がしんどくなってきているのは、そもそも地域組織が一部を構成する、この国の仕組み自体がしんどくなってきているからです。地域団体の事を考えるわけですけど、一歩ひいた目線から見ることで、処方箋の選択肢が広がりえます。今回はそんなお話です。

1.「日本型福祉社会」の一部としての地域団体

 戦後、先進諸国は、「国民の福利厚生は国家が面倒見ますよ」という社会へ舵をきりました。これを「福祉国家」といいます。例えば福祉先進国の英国でも、医療の無料化制度、国民皆保険制度と生活保護制度が成立しました。いわゆる「ゆりかごから墓場まで」というのは、このとき英国が掲げたスローガンでした。

 しかし、60年代には早くも福祉国家のしんどさが明らかになってきました。例えば英国では、製造業の海外移転、一方労働者は賃上げを要求してストライキなどが頻発、国内生産性が低下していきます。まるで現在の日本のようですね。そこに加えて、73年の第一次オイルショックでこの傾向が加速します。さらに強い累進化税が、社会保障負担の増大と労働意欲の減退を引き起こしていました。これを「英国病」といいます。

 英国ではその後、サッチャー政権が出現し、福祉国家的政策から、新自由主義国家政策へ転換していきます。バブル崩壊後の小泉政権の出現は、このときの繰り返しだったわけですね。

 さて、このような英国病を見てきた後進国日本では、「福祉は大事だが、英国病にはなりたくない」というムードに入っていました。このようなムードを受けて、自由民主党の政策研修叢書は『日本型福祉社会』(1979)の中で、以下のような方針を提案しました。出典はこちら。

1.国家による「救済」はハンディキャップをもつ場合に限る
2.リスクは基本的に個人、または家族や親類が負担する
3.「結果の平等」を追求するような政策は、「堕落の構造」を生むからやらない
4.企業と競争的市場にまかせたほうが効率的

 これはすなわち、個人の生活を支える福祉は、家庭と企業を基本とし、市場から購入できる各種の福祉によってそれを補完し、国家は最終的な保障のみを提供する、という作戦だったわけですね。これを日本型福祉社会といいます。

 日本型福祉社会では、「国家から個人に直接」ではなく、「家族を通じて間接的に」分配される政策がとられました。いわゆる「家族優遇措置」というやつです。例えば所得税、住民税等における配偶者控除によって家族福祉を優遇しました。年金でも、被扶養妻を優遇しました。とはいえ、家族福祉は国家福祉ではなく、各企業による配偶者手当(家族手当)や、社宅などの企業福祉に大きく依存していましたが。

 福祉の対象としての「家族」とは「標準世帯」のことでしたもっぱら、福祉政策は「標準世帯」を対象として設計されました。フルタイムで働く会社員のお父さん、専業主婦のお母さん、お父さんに扶養される二人の子供達からなる世帯です。国の統計や税金の試算などは、この標準世帯が基準として利用されています。当時、共働き世帯は標準として想定されていませんでした。旧総理府の1969年の家計調査では、有業者は世帯主一人だけと定義されています。

 さて、戦後、朝鮮特需などの影響で超好景気であった日本も、オイルショックによって成長が鈍化しました。国家は、福祉は国家が提供する(公助)のではなく、地域住民による連帯と協働による助け合い(共助)に期待するようになりました。共助に期待する一方で、一般的に行政は、地域団体へ介入的に援助することにはかなり消極的でした。戦中の翼賛体制下で、国家が地域社会に介入して戦争動員装置として利用したことの反省が色濃かったためといわれています。

 結果、行政は地域福祉の多くを、町内会や各種団体といった地域住民組織による主体的な地域活動に依存するようになりました。主体的な地域活動は、もっぱら専業主婦や退職高齢者が支えてきました。そんな専業主婦や退職高齢者を支えたのは、正社員のサラリーマンの給与という形で、家族を通じて分配される富でした。

2.地域団体の黄金時代から黄昏の時代へ

ここから先は

2,119字 / 7画像
まちづくり絡みの記事をまとめたマガジン「読むまちづくり」。 月額課金ではなく、買い切りです。なので、一度購入すると、過去アップされたものも、これからアップされる未来のものも、全部読めるのでお得です。

まちづくり絡みの話をまとめています。随時更新。

サポートされると小躍りするくらい嬉しいです。