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タッピングホールの付け方(3)

ふだん何気なく見ているアルミサッシなどのアルミ押出材のうち、一番不可解(?)に見える「タッピングホール」について解説する。


タッピングホールの曲げ応力度

次は、これはちょっとマニアックになる。実はあまり問題にならないので検討しないメーカーもあるが、一応記載しておく。ちなみにスーパーゼネコン相手の場合を除き、正直やらない。検討する時間だってタダじゃないからだ。
なお、マニアックすぎて、自分でも経験があまりないため、特に個人的な見解が多く入り込む。「違う!」という考えの人もいるのでご了承いただきたい。

計算を単純にする

前回算出した各せん断応力

前回見たとおり、今回は合力で斜めの力が働く。しかしながら、斜めのまま計算するのはめんどくさい。なので実践的には計算上不利側に単純化することが多い。
「不利側で計算しても安全ということは、実際も安全ですよね?」
というわけである。

不利側に計算する

<断面係数> Z=bh^2/6より
Z=29x1.4^2 / 6 =9.47mm3
<曲げモーメント>
650.7x2 + 403.1x1 = 1704.5N・mm

<タッピングホールの曲げ応力度>
σ=M/Z ≦110N/mm2(アルミの短期許容応力度)より
σ= 1704.5/9.47 = 179.99N/mm2 > 110N/mm2 ・・・<NG>

NGになったため、必要な断面性能を逆算する。

必要断面係数Zn
Zn = 1704.5 / 110 = 15.5mm3

ビス深さは原則決まっていると考え(今回は29mm)
Z=bh^2/6より、必要形材厚hnは
hn= √(15.5 x 6 / 29)= 1.8mm 
よって、1.8mm以上の厚みがあればOKということになる。
検算すると
Z=29x1.8^2/6=15.66
1704.5/15.66=108.85N/mm2 < 110N/mm2 ・・・<OK>

今回はギリギリの設計でも、そもそも安全側を見ているので問題ない。

検討結果

あまり検討しない理由

現実は大抵の場合、ここにシーラーが間に挟まっているためだ。シーラーとはいわゆるゴムのことで、これをかますことでメタルタッチをなくし、漏水を防ぐ。これは長年の実績があり、ここから漏れたという話はない。
想像するとわかるが、相当の摩擦抵抗力がある。そのため、タッピングホールに力がほとんどかからないのだ。
じゃあ、検討してと言っている場合は何を懸念しているのかというと、施工不良である。シーラーの貼り忘れなんてまったく聞いたことはないが、タッピングビスの打ち忘れならまれに起こるようだ。それで十分な摩擦抵抗が起きなかった場合、深刻な問題が起きることを懸念しているのである。
不良率0.01%の可能性を0.0001%にするような世界であり、スーパーゼネコンといえども、ここまで気にするのは四桁億円規模の工事でしかやらない(はず)。

母材の支圧

支圧とは、局所的に力がかかること(この場合ビスが当たる面積)をいう。
正直なところ、実際の工事で検討した経験はない。これこそあまり気にしたことがない。ほとんどの場合、支圧でNGになるより先に別の検討部位でNGになるからだ。
あくまで、参考程度にとどめておきたい。

ビス径4mm、形材厚3mm

アルミの許容支圧応力度(短期)は206.2N/mm2である。
前回のせん断応力度の計算と同じく、面積で見る。
算出した合力765.4Nが働いたとき、
τ=N/A≦206.2N/mm2より
= 765.4 / 12 =63.79N/mm2 < 206.2N/mm2・・・<OK>

なぜ検討しないかというと、アルミの支圧許容応力度は、鉄の許容せん断応力度をゆうに超えているからだ。
アルミの支圧許容応力度(短期):206.2N/mm2
鉄のせん断応力度(短期)   :135.6N/mm2(ただし、SS400)

つまり、アルミの支圧よりも先に、鉄製のビスが切れて飛んでいくほうが早い。

<参考>支圧の検討が必要な例

では、支圧を注意しなければならない場面とはどういうときか、ということを参考として提示したい。なぜなら、「支圧は検討しなくていい」という言葉が一人歩きして、誰も確認せずに問題になったケースがあるからだ。
一番ありがちな例として、下記のような縦材と無目材の緊結である。

ボルトホルダー型の押出形材

例えば13000Nの引抜力がかかると仮定した場合、M10のボルトは抵抗できる。有効断面積58.0mm2、スチールの許容応力度235N/mm2で見た場合、
M10の許容引抜力=58.0 x 235 =13630N > 13000N

ところが支圧が持たない。
支圧面積A = 28.1 x 2 = 56.2 mm2
τ=N/A≦206.2N/mm2より
τ = 13000 / 56.2 = 231.32N/mm2 > 206.2N/mm2・・・<NG>

この場合は、四角ボルトにして受圧面積を増やすなどの対策をとる必要がある。

次回は、外装材必須の「シーラーとの関係」について解説する。(続く)


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