見出し画像

<閑話休題>建築専門書の分類と解説

建築の専門書には「一般向け系」「技術系」「教科書系」「建築論系」「作品集系」「図面系」「雑誌系」があり、多くはその混合だったりする。
図面から入るもよし、いきなり建築論に飛び込んで混乱するもよし、自分のやりたいこと、興味のあることから勉強をスタートすることができる。
その「建築専門書」という分野について、超個人的な解説を付記する。

「一般向け系」

文字通り専門家が平易な文章で一般向けに書いた専門書。
般向けとはいえ侮れない内容だったりする一方、興味を持ってもらうためにやや過激な表現になっていたり、宗教じみたことを書いてる本も存在し、門戸が広いぶん、怪しいものも多い系統。
なまじ勉強した大学3、4年生あたりから「このくらいわかってるし」という謎プライドで手を出せなくなり、せっかくの良書もその謎プライドがなくなる30代後半あたりまで読めないという状況に陥る人多数。
とはいえ変な信仰の本を読むと道を踏み外すので、信頼ある専門家から紹介された良書を読むほうが無難ではある。

「技術系」

建物を建てるための具体的なメソッドを説明した一番専門書っぽい系統。教科書系と親和性が高い。主にプロやプロになりたての人向けに書いているため、その道に精通していない人にはチンプンカンプンなことが多い。
いっぽうで、実はその道に精通したガチプロ向けではなかったりするため、平然とウソが載っていたりする危険が潜む。
自分の周りにちゃんと精通したプロがいて、バックアップ体制がないと、実は危ない。その最たるものがこの系統を読んだDIY大家

「教科書系」

真の学生向けなだけあって、平易な文章でありながら、少なくともその本が書かれた当時では真実しか書かれていない。当然良書も多い。
しかしながら、学生にとってはクソつまらない内容であることも事実で、手を出しずらい系統ではある。
ところが技術系と違い、じつはガチプロが読むと、
「え、これを学生の時に知ってたらあんな苦労はしてないのにウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
と愕然とするものすごく大切なことが書いてあったりする。
おそらく多くのプロが激しい後悔に襲われている
。本当に、ままならない。

「建築論系」

古くは古代ローマ時代の『建築について』/ウィトルウィウス(通称:建築十書)から始まる、建築家が著す建築理論書の系統。
そもそも建築が「住むとは何か」から簡単に「生きるとは何か」「人間とは何か」といったふうに、哲学的な世界とかなり親和性があり、建築実務的な部分を除いてはほとんど哲学書みたいな感じになるため、非常に難解なことが多い。
自分がいわゆるカッコ書きの「建築家」になりたいなら、自分なりの建築論を持たなければならず(建築論を持たないという建築論を含む)、避けては通れない系統。
正直なところ、文章が得意な建築家というのはそれほど多くないため、難読な場合が多く、たいていの人にとっては読むのは苦行。いうて小難しい言い回しをしているだけで、内容が全然大したことなかったりする。
最近はそのことを散々いじられてきた歴史を反省し、平易な文章で建築論を語る人が増えてきたが、ベールがはがされてしまったせいで、大したことが記述できず、結局技術論に陥っていることも多い。
とここまで散々けなしてきたが、まれに自分の人生観・建築観をガラリと変えてしまうようなすごい本と出会うのもこの系統

「作品集系」

建築家あるいは組織設計事務所の設計した建築の写真集。「建築論」とセットになっていることもある。出版社が売れるとにらんで出したものと、建築評論家的な立場の人が紹介する形式のものと、建築家が自費出版したものがある。建築家が玉石混交であるように、この系統もまたひどく玉石混交
たまにその設計事務所の内情を赤裸々に語っているものもあり、そこに就職活動する場合には買っておいて損はなかったりする。

「図面系」

建築家の作品集的な意味合いの図面集と、例えば「図書館事例集」といった機能別の図面集の2つに分かれる。詳細図を示したディテール集もこの範囲内。
かつては有名な建築家の図面を模写することが、建築家への一番の近道とされ、多くの建築学生がル・コルビュジェの図面を模写したことだろう。
現代はどうかわからないが、最近の有名建築家は「賞を獲った学生コンペの作品を模写・分析したら、自分も賞を獲れるようになったし、プレゼンのやり方がわかるようになって、仕事も取れた」という話のほうがきこえるので、コンペの入賞作品集を買うのがいま一番のトレンドかもしれない。

「雑誌系」

いってしまえばその雑誌が出た当時の建築家の近作を紹介するだけの専門雑誌なのだが、寄稿や対談や月評で幾度も論争を巻き起こし、おそらくどの本よりも建築界を揺るがせた系統。
その起きた論争は本でまとめられることは存外に少なく、日本近代建築の歴史を知るうえで一級の資料になっている。
竣工当時と現在残っている建築が変わっていることがわかることもあり、いっぱしの「建築マニア」を名乗るなら、絶対に買っておくべき。
だが、エポックメーキングな出来事や建築が載っている雑誌は、当然のごとく超プレミア価格となっており、一介のにわかでは無理。
というか、この世界に突入することはマジでお勧めしない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?