7、父母のこと

当時、わたしには、父と母がいた。
らしい。
らしい、というのは、その頃のわたし自身は
「父」と「母」という人を認識していなかった。
実際にはこの、父と母は おそらく、
半月か、ひと月に一度くらいのペースで
わたしに会いに来ていたのだと思う。
いや、そう感じている。
そういう人たちが、たまに 客人のように、
あの狭い部屋に来ていた記憶がある。

あの部屋には たまに、客人が来ていた。
おじいちゃんに会いにくる人がほとんどだったが
その中に混じって、
たまに、男女が二人で来ることがあった。
客人はたいてい、男の人が一人で来ることが
多かったのだが
何故か、その男女の二人が来る時、
わたしに会いに来たように感じるように
いつのまにか、なっていた。
そして、いつのまにかわたしはその二人を
「パパ」「ママ」と呼ぶように教えられていた。
この時わたしはまだ、
その単語の意味を把握していなかった。
「父」「母」というものさえ、
知らなかった。

わたしの、
父のような存在が おじいちゃんで、
母のような存在は、おばあちゃんだと、
本気で思っていた。

だから、会いに来ていたのであろう彼らに
バイバイの手を降ることには、
なんの抵抗も感じていなかった。

ずっと、
「この人たち、誰なんだろう?」
としか、思っていなかった。




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