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暴力脱獄と実存主義

Sometimes nothin' can be a real cool hand.
時にはなんにも持ってないやつが一番強いのさ

暴力脱獄は1967年のアメリカ映画。
刑期2年程度にも関わらず主人公ルークは何故か何度も脱獄を繰り返す。刑務所内では過酷な労働を陽気でこなして刑務官を挑発、リーダー囚人のドラグラインにも全く従わない。

ルークはありとあらゆることに反抗するが何故かいつもニコニコしている。寡黙で悟ったような顔で全てに逆らう不思議な男だ。

多くの人が語る通りこれはニヒリズム、実存主義の映画である。私たちは生きていくのにやりたくもな仕事をやり、様々なルールに従わなければならない。

刑務所は我々の生きる世界、看守は資本家、囚人は労働者に例えることも出来る。

ペーパーナイフはものを切るという本質(目的)がありその後に存在する(本質が実存に先立つ)。だが人間は違う。ある日突然この世界に誕生し、生きることになる(実存が本質に先立つ)から人間に生きる理由がないのは当たり前で、神が存在しない以上人間はどのように生きるかは全くもって自由である(人間は自由の刑に処されている)としてサルトルは実存主義を提唱した。

一方でニーチェは神は死んだと言い、この世界は意味や目的がなく虚無なる生の繰り返しで、そんなこと百も承知でダークサイドに陥らず、デカデンスに全力で抵抗して力強く生きるべきだと続けた。永劫回帰と呼ぶ。

戦争で心に深い傷を負い、恋人に捨てられこの世の全てに絶望したはずのルークはいつだって優しく微笑む。三度目の脱獄で逃げ込んだ教会で神様よ、いるなら返事してみろよ!と叫んでみても、もちろん返事はない。取り囲まれた警官の銃弾に倒れても尚、ルークの口元には笑みが見えた。

絶望に負けるなんて御免だねと彼は最期まで抵抗した。生きる意味なんて無いなんて百も承知で世界に抗って微笑んで見せた。

そういう人に私はなりたい。

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