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【第2回カロク・リーディング・クラブ】@東京会場を振り返って

2023年4月15日に、2回目のカロク・リーディング・クラブが開催されました。こちらでは東京会場(Studio 04)の様子をレポートします。

カロク・リーディング・クラブとは、過去の災禍の記録やそれに関わる表現(映画、絵画、戯曲、手記、小説など)をさまざまな人と一緒に集まって鑑賞し、それぞれが考えたこと・感じたことを話してみる対話の場です。

今回は名古屋の書店On Readingさんとつないで実施しました。題材は2つ、昭和34年9月26日に起こった伊勢湾台風で被災した名古屋市立南区白水小学校の児童による作文を収めた『台風記』、および大正12年9月1日に起こった関東大震災で被災した東京市内の小学生による作文を収めた「震災記念文集」。2つの作文集を読み、それからじっくりと対話をしていきます。

震災記念文集と台風記

『台風記』は名古屋市博物館が伊勢湾台風60年事業として行った「特別展 治水・震災・伊勢湾台風」にあわせて刊行されたもの。名古屋市博物館に問い合わせていただければ購入できるようです。

「震災記念文集」は、国立国会図書館デジタルアーカイブで誰でも読むことができます!
こちらは3年生の巻。


2つの時代に書かれた作文を読む

まずは名古屋の会場と東京とをZOOMでつないでご挨拶。東京の会場は今年度オープン予定のカロクリサイクルの新しい拠点、東京都江東区にありますStudio 04です。当日はしとしと降る雨のなか、参加者の方々が無事合流。

ここがStudio04。遊びに来てください~

名古屋の会場には「台風記」の編纂に携わった名古屋市博物館学芸員の瀬川さんが来てくださり(!)、「台風記」の経緯をレクチャーしてくださいました。

その後、一度通話を切り、各地でまずは作文を読む時間。
「台風記」も「震災記念文集」もそれぞれ、当時1年生から6年生が書いたものが掲載されているのですが、今回は3年生と6年生のものから3本ずつ、合計13本の作文をピックアップして、読んでいきました。

読んだ作文のタイトルを列記します。

「台風記」 6年生

  • おそろしかった台風、相根美弥子 p.54

  • 救援物資を手にして、太田克嘉 p.94

  • 姿の見えない友、海野春義 p.96

  • 伊勢湾台風を省みて、川窪巧 p.113

「台風記」 3年生

  • いなかへいったこと、岡庭美恵子 p.278

  • なくなったお友だち、山口栄子 p.295

  • りょうの二かい、無津呂誠 p.337

「震災記念文集」 6年生

  • 震災後の流行、岩田榮夫 p.52

  • 弔詞、加藤喜代子 p.112

  • バラツクの生活、梶原一雄 p.602

「震災記念文集」 3年生

  • 大地震大火事、澁澤亨 p.54

  • 勇ましい大工さん、伊藤登志子 p.84

  • 新しい学校、畔野栄子 p.422`

声に出して読む参加者

東京会場では、4人ひと組のグループに分かれて、それぞれがまず声に出して読んでみます。都度、お互いに感想を話したりしながら、声に出して読むことを味わいます。たとえば台風記6年生から川窪巧さんの「伊勢湾台風を省みて」の一節、

“あの台風や流木さえなかったら、なんとかして、あの台風や流木を止めることが、できなかったのだろうか。(中略)にくらしい流木や台風をなんとかして、止めることができなかったのだろうか、にくらしい流木、にくらしい台風を止めて、人々を助けることが、できなかったのだろうか”

台風記(2019)

のように、一見すると同じ言葉の繰り返しにもみえる部分の、微妙な助詞や句読点の差異などから、テキストのニュアンスがよりはっきりと感じられるような気がします。

てつがくカフェ形式で対話する

一通り読み終えたところで輪になって、「てつがくカフェ」形式で対話がスタート。NOOK八木のファシリテートにより、なにか特定の作文の感想を言うというのではなく、まずはそれぞれ感じたこと、考えたことをざっくばらんに話しはじめます。

てつがくカフェ、スタート

先述の台風記の作文については、なんども繰り返してでてくる「なぜ、なぜ」や「憎らしい」という言葉を、実際に声に出してみることで共感した、という感想。あるいは、「台風の被害のなかったところへいくとみんながジロジロ見てきた」や、「(関東大震災によって家を失ったことを)あの人は焼けてこんなところまで来たんだなあ」などと、他所の人間から奇異の目で見られたという類似する体験を、阪神淡路大震災のときの“震災ルック”と結びつけて考えた方、福島で読んだ高校生の前向き(に書かされている)な作文と比較して考えた方など、様々な感想・意見がかわされます。

震災記念文集3年生の巻 pp54~56に載っている「大地震大火事」を締めくくる言葉「大正十二年九月一日をわすれるな僕たちはあの時から生れかはつたんだもの」の「生まれかはる」という言葉のニュアンスについても「すがすがしい」という一方で、「本当にそんなふうに言い切ってしまっていいのか?」という発言もあるなど、いろんな意見が交わされました。

続いて、話しあいを踏まえて感じたことを「キーワードにする」と言う形で抽象化し、さらに一歩踏み込んで、「問いの形」にしていきます。
でてきたキーワードと問いはこちら👇👇

名古屋のみなさんと再会


さあ、お互いの対話の経過を持ち寄って、再びZOOMをつないで話し合います。

気になったことを相手の会場に質問していくなかで、関東大震災という、首都で起こった災害に対する語り方について焦点があたりました。
「震災記念文集」で子どもたちの作文に頻繁に出てくる「帝都復興」という言葉。失ってしまった風景や起きてしまった出来事に対する寂しさに思いを馳せる(もちろんそういう作文もあるのですが)というよりも、壊れてしまったこの街を一体どういう風に新しく作り直していくか、今新しい生活をどのように送っているかというところに語りの比重が置かれているように感じます。大正という時代の雰囲気なのか、東京という街の特性か。
土地の風景を文脈として共有している人たちが、その風景を失うことにくらべて、災害などなくても目まぐるしく変わり続ける都市では、そもそも共有する風景がないこととの関連もあるのかもしれません。

また、2つの作文を読むときに東京の人々が東日本大震災の体験を自分の経験として紐づけながら考えているのに対し、名古屋の方々が特定のなにか個人的な体験と結びつけて読まなかった、と応えていたことも印象に残っています。

気づけば予定時間を超過した対話の場。ZOOMを切って名古屋のみなさんとお別れです。またどこかでお会いしましょう~

おわりに

今回、東京会場は新拠点での初イベントということもあってネット回線が弱かったりとトラブルも色々有りましたがなんとか無事終えることができました。
ご参加いただいたみなさま、名古屋のみなさま、ありがとうございました。

カロク・リーディング・クラブは映像や資料を読み込んで、じっくり対話をしていくこのイベント。今回でいうと13時から結局18時くらいまで、合計5時間(!)かかって終了しました。前回もだいたい同じくらい。
こうしてかかった時間だけを切り取るとその長さにちょっと見構えてしまいますが、対話のイベントというのははじまってすぐみんながエンジン全開で話せるわけではありません。はじめましての人同士で、「これくらいなら話していいかな」という了解をお互いに取り合う、そういう雰囲気が醸成されるまでにはどうしたって時間がかかる。むしろ、5時間積み重ねてやっと語りはじめられることがあるのだし、忙しない生活のなかでそうした場を確保するのは難しいよなあと日々思います。

ゆっくりと積み重ねていく対話の時間、ぜひ体感してみてください。

写真のように、Studio04は色々な資料があってライブラリー的な機能を持つ予定です。エアコンがまだついていなかったり、グランドオープンまではもう少し時間がかかりますが、このようにイベントなどで少しずつお披露目していけたらと思います。ぜひぜひ、遊びに来てください!!!

担当:中村大地(作家・演出家)

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