正義とは何か、ずっと考えている。

大衆の共通意識の中にある正義、わたしの価値観の中の正義、あの子の価値観の中の正義。
どれが本当の正義なのか。

わたしの価値観の中の正義を他人に説くことは果たして正解なのか。それはただ、"正義感の押し付け"になってしまうのか。それでも自分の正義だと思えば押し通すべきなのか。

今、報道番組やネットニュースでよく見かける、『自粛警察』と呼ばれるひとたちは、まさに"正義感の押し付け"だとどこかの記事で読んだ。
自粛警察の代名詞といえば、県外ナンバーの車だとか、営業の自粛をしていないお店に対して張り紙をする、といったものだろう。

彼らのしていることは間違っていると思う。中には本当に不要不急の外出者に対して行っている人たちいるのかもしれないけれど、だとしても、だ。
ミイラ取りがミイラになる、という表現がわたしの中でとてもしっくり来ている。
"ウイルスが危ないから自粛しなければならない"ということを呼びかけるために自粛せずに外出する。感染拡大防止のための行動で自分を感染の危機に晒す。なんだかひどく滑稽に感じる。

バカバカしい、と思っていた自粛警察の行動だけれど、緊急事態宣言の中で1ヶ月半ほど生活した今、わたし自身が「自粛警察」になってしまうのではないかと、少し怖くなっている。

インスタグラムのストーリーズを見れば、やれ友達の誕生日祝っただ、やれ彼氏とラーメンだ、やれ〇〇ちゃんとお泊りだ、もうそんなのばかりだ。
勘弁してほしい。なんのためにわたしは家にいるのか。最後の学生生活の大事な2ヶ月をなぜ家の中で消費しなければいけないのか。

「4月の舞台、コンサート、5月のライブも、全部中止とか延期になっちゃったんだ」と友達とのオンライン飲み会で話したとき、「それはマジつらいね」と言ってきたのは、毎日のように色んな人の家で宅飲みをしている子だった。
おまえのせいだ、という言葉をグッと飲み込み、愛想笑いをした。
もちろんきっとそんなことはない。彼女ひとりが家にいたところで、舞台もコンサートもライブもきっとなかっただろう。
だけど、わたしの友達を含むたくさんの外出しているひとたちが、ずっと家にいてくれたら。
感染拡大は抑えられて、もっと早く自粛が解けて、ライブだってなんだって延期せずに済んだかもしれない。
奇しくもこれを書いている5月15日は、大好きなCreepy Nutsのツーマンライブがあるはずだった。
本当はライブハウスにいたはずのわたしが家にいる中で、彼女は今日も宅飲みに行くというのだから、腹立たしくて腹立たしくて、悔しくて涙が出そうだ。

怒りは、ライブが中止になったせいではない。
それが仕方ないことも、どうしようもないこともよくよくわかっているからだ。
なのに怒りが湧いてしまうのは、彼女が、『わたしの中の正義』に反しているからだと思う。

感染拡大が続く札幌市に住んでいる私は、北海道の端にある実家に帰ることもできなかった。当然、学校も休校で、本来あるべき姿での勉強の機会も失われた。学校には行けないけれど今年卒業するため、自力で就職先を決めなければいけない。
不安とストレスがどんどん積もっていく。自分ではっきりとわかるほどに大きくて重たい。

実家に帰れずひとりきりで不安を抱え過ごすわたしと、家に家族がいるのにも関わらず毎日飲み歩く彼女。
どう考えても、わたしの中ではわたしが『正義』なのだ。
正義に反するものに対して怒りが湧くのは当然のことだと思う。
そして、自分の正義と反するものに対して制裁を与えるべきと考えてしまうのもまた、当然ではないか。

自分が主役の勧善懲悪ストーリー。それは絶対に気持ち良いに決まっている。不安やストレスを払拭するのにちょうどいいはずだ。

結局、自粛警察と呼ばれるひとたちだって、そういうことなんだと思う。
自分に直接的な危害を及ばさないものにしても、悪者（=自粛をしないひと）を成敗すれば気持ちがいいのだ。一生懸命自粛している自分が、ヒーローになれる。

だけど果たしてそれは正解なのか。
県外ナンバー車に張り紙をするひとたちは、自ら外出をし、感染リスクを上げている。
もしわたしが、自粛をしていないインスタグラムのストーリーにいちいち反応していれば、まずきっと友達はいなくなるだろう。
「外出する→感染リスクがあがる」といったようなはっきりとしたものではないけど、「注意する→嫌われる」でほぼ間違いないと思う。

自らの感染リスクをあげること、自ら友達をなくすこと。これらは、『正義』なのだろうか。
それを考えていたらもうキリがない。またひとつ、ストレスが蓄積される。

こんな繰り返しで、きっといつかわたしは自粛警察の仲間入りをしてしまうんだと思う。それがひどく怖くて仕方がない。
だからずっと、『正義とは』と考え続けるしかない。正義とは何か、正義の押し付けは正義なのか、そんなことをずっと考えて、自分の行動に歯止めをかけている。今はそれしかできない。

早くそんなことを考えなくてもいいようになればいい。きっとこのコロナ禍はまだ続いていく。だからみんなが本当に怖いんだと早く気づけばいいだけ、本当に単純なのに。
きっと「コロナ禍はまだ続いていくからみんなが早く気づけばいい」という文章すらも、誰かにとっては正義や価値観の押し付けに感じられてしまうんだと思う。正義とは一体なんだろう、答えは誰が持っているんだろう。