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良品計画の23年8月期本決算を分析

無印良品を展開する良品計画は、10月13日に23年8月期の本決算を発表しました。どんな業績だったのか、今期の業績予想も開示しているので分析していきます。


今期経常は27%増で7期ぶり最高益更新へ

前期実績

4月に業績の下方修正を発表していましたが、売上は会社計画通り、営業利益以下は計画を大きく上振れして着地しました。

売 上  5814億円(+17.2%)
営業利益 331.3億円(+1.1%)
経常利益 361.5億円(-2.8%)
最終利益 220.5億円(-10.2%)
 

出典:株探

今期予想

同時に24年8月期の業績予想を開示しています。経常利益は27%増益で7期ぶりに最高益を更新する見通しです。最終利益も21年8月期の過去最高に迫る水準を計画していますが、これには本社売却益が含まれる予定です。

なお年間配当は40円で据え置いています。

売上   6400億円(+10.1%)
営業利益 480億円(+44.9%)
経常利益 460億円(+27.2%)
最終利益 330億円(+49.6%)

出典:株探

下期に国内増益転換も既存店苦戦で伸び悩み

通期では国内減益が響いて営業利益は1%増に留まる

良品計画の23年8月期は、積極的な新規出店で店舗数が前期末から116店増加したことで、売上は17.2%伸びましたが、営業利益は1.1%増益と伸び悩んでいる印象です。

小売業は店舗数を増やせば売上が伸びて、利益も比例して増えていくのが普通です。なぜ売上が大きく伸びたのに営業利益は伸び悩んだのでしょうか? 考えられるのはコストの増加による利益率の低下です。

営業総利益率 47.2%→46.7%
販管費率   40.6%→41%
営業利益率  6.6%→5.7%

粗利の営業総利益率が0.5%低下し、販管費率が0.4%上昇したことで、営業利益率を押し下げていることが分かります。決算説明資料に「円安と原材料高に伴う仕入れコストの上昇」で営業総利益率が低下したとあるので、コスト増を価格転嫁しきれていないことが分かります。

ただしこれだけでは分からないので、次は地域別に見ていきます。

        営業収益       営業利益
国 内    3428億円(+11.3%)   349億円(-12.7%)
東アジア   1716億円(+23.3%)   313億円(+41.6%)
東南アジア  314億円(+42.9%)     41億円(+70.8%)
・オセアニア
欧 米    354億円(+32.3%)     38億円(前期▲8億円)

国内の減益が足を引っ張っているのはこれまで通りのようです。

国内は下期に増益転換

通期では国内減益、アジアとオセアニアは大幅増益、欧米は黒字転換と明暗がはっきり分かれていますが、下期だけ取り出すと印象が変わります。

        営業収益        営業利益
国 内    1748億円(+11.1%)   215億円(+16.7%)
東アジア   895億円(+32.2%)     175億円(+68.1%)
東南アジア  160億円(+28%)      16億円(+4.9%)
・オセアニア
欧 米    175億円(+27%)      20億円(前期▲7億円)

国内も価格改定効果で下期は増益に転換しています。また営業利益率も上期8%→下期12.3%に大きく改善していて、国内の収益性回復が顕著であることが分かります。

出典:決算説明会資料

通期で営業利益が伸び悩んだのは、国内で価格転嫁が遅れたことによるもの、下期は価格改定効果で増益転換、営業利益率も1.5倍に急回復、確かに好材料です。しかし、思い出してみてください、1年前も営業利益3.7%増益の業績予想を開示しましたが、結局は半年後に下方修正を余儀なくされています。

既存店売上高は伸び悩み、客数は1割近く減少

次は月次の推移を見ていきます。

国内の既存店売上高は通期で前年比96.5%と伸び悩みました。店舗数の拡大で売上そのものは大きく伸びていても、既存店売上高が100%を割れてしまえば利益率は低下します。下期は99%、4Qは105%も、足元の9月は僅かとはいえ100%を割っているのはマイナス印象です。

出典:決算説明会資料

また客数が減少しているのが気になります。これは値上げで1回あたりに使う金額が上がって客単価は増えたものの、出費を抑えるために買い物回数を減らしていることを意味しています。

22年9月~23年9月までの国内既存店客数(単位%)

9月  10月  11月  12月  1月  2月 
93.3  96.7  95.8  100   96.5  92.4
3月  4月    5月    6月    7月  8月  9月
100.8  81.7   83.0  89.2  96.7  95.0  91.3     

本当に消費者に支持されている小売店なら、値上げしても客数は減らないはずです。7月8月は回復傾向でしたが、9月は再び減少幅が拡大していて戻りの鈍さが目に付きます。今後も客数減が続くようなら客離れが起きていることになり要注意です。

棚卸資産は前期末比でほぼ横ばい、過剰在庫は増加

次は貸借対照表を見ていきます。総資産は543億円増の4537億円、そのうち棚卸資産は37億円増の1332億円、為替影響が20億円なので実質の増加は17億円ということになります。

決算説明資料によると国内は適正水準に比べて56億円過剰、中国は39億円過剰、合計すると95億円の在庫過剰、3ヶ月前は国内12億円、中国50億円、合計72億円なので過剰な在庫が23億円増えています。

出典:決算説明会資料

在庫が過剰な状態が続くと、売れ残った季節外れのアパレルなどを値引きして販売することになり収益性の低下に繋がります。

営業CFとフリーCFが大幅に増加

最後にキャッシュフロー計算書を確認します。

営業CF +565億円(331億円増加)
投資CF -221億円(54億円減少)
財務CF -112億円(474億円増加)

+--なので本業でしっかり稼げていて、先行投資を行い、債務も返済していることが分かります。

営業CFは前期比で税引き前当期純利益は横ばいも、棚卸資産の増加が142.5億円→20.4億円に、仕入債務が67億円の増加から35億円の減少に転じたことなどで331億円増、投資CFは主に有形固定資産の取得で54億円の支出増も、企業が自由に使えるフリーCFは277億円増加の344億円。普通なら株主還元の拡充が期待できそうですが、年間配当は今期も40円で据え置いています。

会社計画を鵜呑みにせず月次の推移を見たい

良品計画の23年8月期は利益が会社計画を大きく上振れしたものの、売上の伸びに対して営業利益は1.1%増に留まり物足りない印象です。これは国内で円安と原材料高によるコスト増の価格転嫁が遅れたことで、営業総利益率が低下して減益になったことによるものです。それでも下期には増益に転換し、収益性の回復基調が続いていることから、今期は経常利益が7期ぶりに最高益を更新する強気な計画を開示しています。

しかし、1年前も営業利益3.7%増益の強気な計画を開示しながら、結局は半年後に下方修正を余儀なくされています。値上げ効果で客単価は増えましたが、客数の減少が続いているのが気懸かりです。本当に国内事業の収益性回復は続くのかどうか、会社計画を鵜呑みにせずに月次の推移を見たいところです。


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