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それ、ずっと履いてるんですか?

 昨日、所用のついでに靴を買いに行った。
その時に、ちょっと考えさせられたことがあったのでメモを残しておく。

私は2004年子宮がん治療のため下肢リンパ郭清をしたので、リンパ節をとっている。これをなぜやるかというと、がんがリンパを通じて転移すると言われているから。だからリンパ周りも多めに切除する。その際、リンパ管もいじるわけだが、それでもリンパはバイパスを伝って流れてゆく。人間の体って不思議だ。そのリンパ管は失って再生されなくても、他のリンパ管を通じリンパ節を通過してリンパ液は流れてゆく。だから、リンパ節やリンパ管をとラざるを得なかった患者は術後の後遺症に気をつける。私は10年経ってもリンパ浮腫という後遺症がでずにきたが10年後でも発症するという放射線医師の予告通り、10年後に発症。
以降、作業療法士によるリハビリを受けたり自分で気をつけるようにしている。

症状は、下肢リンパを切除しているので、下肢のリンパ液の流れが悪くなることで生じる、むくみ、リンパ浮腫と呼ばれるものだ。私はあれこれ試したところで、やっとこの5年くらい今の作業療法士さんのリハビリを受けるようになって
徐々に改善されてはいっている。そのおかげで、カナダまでいって就労することができた。そして現在も普通に仕事もし日常も送っている。駅の階段、山歩き、長時間のドライブ、10時間以上のフライト、などなど、普通に日常を行っている。

だが、普通の生活と違うことはある。
それは、毎日足の浮腫を観察すること。
リハビリをすること。自分でできない場合は人にも頼んだりする。
カナダでは長期に渡る滞在と現場の疲労をどうやって乗り越えようかというテーマがあった。私は英語でリンパ浮腫を調べ、片っ端からバンクーバーのセラピーを調べた。船に乗って30分くらいで行ける場所に治療院を見つけ、そこにずっと通っていた。最初はセラピストがカナダ人だったが、のちにたまたまそこに所属している日本人セラピストを紹介していただき、彼女のもと帰国するまで治療を受けた。カナダも下肢リンパ浮腫に関しては日本同様、あまり重要視されていないことを嘆いておられた。私は、地球上にいる下肢リンパ浮腫で悩む人々のためにこれは声を出さないとまずいとその時に衝撃を受けた。
カナダの撮影スタッフは私の体のハンディキャップを承知で一緒に仕事をしてくださった。日本だとちょっとニュアンスが変わってくる。これは大きな進歩だと感じた。本人のやる気さえあるのならば就労を諦めてはいけない。カナダでの体験は本当に私の感覚、私の人生を意識を少しずつ変化し、私自身の時間が豊かになるものとなった。治療院からの歩く道、とにかくたくさん歩けたこと。
そして、労り休息することの大切さ、無理をせず、でも諦めないことを再認識させられた。カナダに行く前に山ほどの不安はあったけれど、本当に行ってよかった。そして自信がついた。難しいと思えることでも、可能になる。それは人との信頼、連携によって生まれ様々な方法で乗り越えられてゆくということも。
だから、就労を諦めてはいけない。ちゃんと働いて報酬をもらい税金を払う、これは大事なことだ。

カナダでのリンパセラピストによる治療はバンテージ
セラピストから誕生日に特別にマッサージをプレゼントされた将軍頑張ってくださいね!と
左がバンテージ、右がエアボウェーブ、これで山道もどこでも歩く、仕事もした
こんな急な階段をも降りて海峡を望んだり
海を見るだけで心が和んだ、日本人だね
カナダではとにかく歩くことに自信がついた


カナダの治療院での治療後はこんな山道を帰りに歩く
レックビーチまでの階段もリンパ浮腫には大変な道のりだが達成!
1人でひたすら歩いたカナダ滞在



さらに普通の暮らしの中で違う点と言えば、装着具にある。
弾性ストッキングというものをはじめとする、理学的目的に基づいて作られている装着装具を発注して装着していること。
普通の人なら、靴下を履く、あるいはストッキング、あるいは、夏場は裸足が可能だがリンパ浮腫患者はリンパ液を下げないための特別な装着が必要となる。
そして、それの相談するためにもリハビリを受けに病院へ通い、浮腫の塩梅を測る。

ちなみに、私たち患者が履く弾性ストッキングの着圧は大変圧迫のあるものなので、装着脱着するのに時間かかる。ドラッグストアに売っているようなもの以上にきついとイメージしてくれればわかりやすいかも。

疲れた足が浮腫んでしまった時などは足を上にして眠るために、そのためのエアボウェーブというマッサージ効果のあるサポーターをはめる。眠る時には何も纏いたくないのに、それを真夏の暑い時もしなければならないこともある。
ちなみに、弾性ストッキングの種類は様々で、ストッキングのように薄手のもの、ちょっとタイツのような織りもの、さらにもっと装具的な着圧のしっかりしたもの、様々。私が使っているのはドイツに発注したいわゆるオーダーメイドで、採寸して発注している。ドイツではフィッターという職業まで存在し、患者のそれを採寸する職業で食べてゆける人もいるという。ドイツ製のストッキングは色のバリエーションは豊富で、リンパ浮腫患者も就労しながらおしゃれを楽しめる。私も赤いのが欲しい。いつか買いたい。でも結局肌色と黒のみしか買っていない。それを着圧が緩くなるまで穴が開いてもごまかし履く。それが私の日常。値段が高額というのもネックだ。3足1000円で売ってはいない。バーゲンもない。そのせいなのかおしゃれの幅が狭くなった。
しかも着圧の一番強い装具をつけるには、ちょっと時間がかかり、急いでいる時はもうそれを履かず出先のトイレで履いたりする時もある。
夏場なんか暑くて汗流しながら悶絶格闘しながら装着に5分くらいかかる。
それでも履くと気持ちいいし、リンパ液が下に下がってこない気がして、頑張って履いている。しかし、スカートなどを履いたりするオシャレはめっきり減った。素足にミニスカなんかもう何年もしてない。遠い目の私。


浮腫んだ足の状態で計測
フィッターという職業が存在するリンパ浮腫のドイツ医療現場をいつか覗いてみたい

それでも、たまにはオシャレしたい。職業柄、気張ってワンピースなんか着こなして登場したい時もある。そんな時の問題は足元にある。
私は甲や足首が美しかったので、華奢なヒールやバレエシューズを好んで履いていた。しかしリンパ浮腫を発症してから、レペットのバレエシューズ6足を全部捨てた。華奢なヒールも。そして問題はロングブーツだった。イタリア製の高価なものなど多くのロングブーツを捨てた。なぜ捨てたか。はけもしないものがあるだけ気分が落ち込むからだった。でもある日、これなら履けそうというブーツに出会うとこっそり買ってたまに履いていた。でももうロングのおしゃれする用のものは持っていない。

たまたま、行きつけだった店からセールの知らせが来ていた。
どんな商品があるのか覗くと気に入ったロングブーツを見つけた。私は電車に乗ってわざわざ試着しに出かけた。若い店員さんが接客してくださった。
少し大きめの24と25を持ってきてくださった。
早速足を滑り込ませると、足首の上までは入ったのだが、ふくらはぎでファスナーが上がらない。仕方ない、諦めるしかないなといつものように、どうもありがとうと商品をお返しすると、店員さんが私の足を見つめてこうはなった。
「それ、ずっと履いているんですか?」
語尾は優しかった、“履いているんですかあ?”くらいな。
でも私には、波紋のように、その言葉が響いてしまった。
私は、慌てて店を出た。
こんなことで心を乱してはいけない。
店員さんは私の分厚い肌色の何にも可愛くないオシャレでもなんでもないそのタイツより分厚い装具を見つめて、それを脱げば入るんじゃないのかな的に思ったから出た言葉だったのだと、言い聞かせた。
でも、私はひとりごとのようにその言葉を繰り返していた。
「それ、ずっと履いているんですか?」
そうだよね、いつまで私はこれを履くんだろう。

あれでも、カナダの靴やでこんなこと言われたことなかったな。
太ってるとか浮腫んでいるとかそういう指摘もなかったな。
私が説明すると、だったらこれはどう?そんくらいだったな。
落ち込むこともなく買い物を楽しんだりも出来たなあ。

私はこの浮腫んだ足で今でもあちこち歩いている、あの厳しい自然のカナダのあちこちも歩けた、時代劇の長時間の撮影もスタッフに見守られながらもやり遂げられたのだ。その間もこれは履き続けていた。

でも、でも。
確かに、これ、いつまでこれ履くんだろうなってちょっと歩きながら考えた。
オシャレしたいなあとかデパートのショウウィンドウに映る自分を眺めながら。


昨日の下高井戸シネマに出向いた時の私、この後、新宿の某靴売り場で男と間違えられる



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