見出し画像

カレー

今はもう見かけなくなったが、実家でライスカレーを盛る際に使われていたのはステンレスの皿だった。楕円形で深みのあるもの。それにご飯を盛り、ルゥがかかっているといういかにもな出で立ち。ステンレスの皿は昭和30年代とか40年代に大活躍したそうだ。今でもデリーをはじめとしてインドカレーのお店ではルーを入れる器にステンレスのものを使っていたりするけれど楕円形の深皿タイプはあまり見かけなくなったように思う。
ものをあまり捨てない親のことだから、実家の食器棚の奥をさらえばあのステンレスの皿が出てくるのではなかろうか。見つけたらすごく懐かしく感じるに違いない。小さい頃はすごく大きいと思っていたけれどいまはどうだろうか?食卓の記憶というものはおそらく一生涯持ち続ける強烈な記憶のひとつで、そこに載る料理はもちろん、器も記憶に残りつづける。

さて、カレーの話である。いまとなってはもっぱらスパイスカレーとでも呼ばれるものを家で作ることが多い。作り方はかなり単純。基本は肉を炒めてトマト缶を入れ、スープとしての味付けをして野菜を煮込み、スパイスを入れれば出来上がりというもの。感覚としては豚汁の応用編くらい。一から作るとしても難しくない。

で、この基本形をもとに、好みに応じて香味野菜やスタータースパイスなどを足し込んでいく。カレーのすごいところは少しづつレベルを上げられることだと思っている。基本のものでも十分美味しく食べれるし、さらにいろんな材料を使って美味しさを追求していける料理は他になかなかない。以前、味の素の広告のコピーに「和食は引き算。洋食は足し算。」というものがあった。カレーも洋食だからやはり足し算だし、しかもそのキャパが大きい。だからいろんな作り方があるし、家庭ごとに異なる楽しさがある。上で書いた基本形も自分なりの基本というだけ。

さて、基本からの発展形、うちの場合。
クミンとコリアンダーシードは油を引いた段階で投入。つづいて生姜とニンニクも。タマネギは入れない。タマネギを使うならできればピクルスにして付け合わせにとどめたい。なぜ炒めタマネギをこうまで否定してしまうのか自分でもわからない。韓国唐辛子やチャツネで甘みやコクをカバーできるから面倒な手順、つまりつきっきりで10分ちょっと炒め続けるというのを省きたいからだろうか。あ、ただフライドオニオンを使うのはオッケーのダブルスタンダード。あと入れないといえばターメリックもルゥには使っていない。使うとしたらご飯のほう。

肉はガツンと塊から切り分ける。豚肉をよく使う。肩かバラ。だいたい600グラムから800グラムくらいを一気に。せっかく家でつくるのだからお店ではなかなか出てこない量を使って贅沢気分に浸りたい。

トマト缶はホールでもカットでもどちらでも。鍋に一缶入れ、空いた缶に水をなみなみ注いで鍋に入れるとちょうど良い水加減になる。煮立ったら鶏がらスープの顆粒を振り入れて味を見ながら塩を足す。シナモンリーフも入れておく。

スープとして味が整ったら唐辛子の粉末を入れる。自分は韓国唐辛子とハラペーニョのパウダーを合わせて使っている。韓国唐辛子はめっちゃ赤い成分を抽出できるというのと、ハラペーニョはそれほど刺激が強くなくて辛味を調整しやすい。量的には合わせておたま一杯くらい?と多めに。

野菜は人参を使うことが多くて、あればジャガイモやキャベツ、カボチャなども。キャベツのように火の通りやすいものはクタクタにせず仕上げのちょっと前に入れる。ジャガイモは煮崩れやすいので皮のまま。そういえば前にジャガイモを皮のままポイポイと放り込んでいたらこの人料理できるのかしらという表情で「えっ!!??」と言われたことがある。

火が通ったらコクを補うためにチャツネを入れ、あとは仕上げのスパイスを入れて完成。ガラムマサラだけでも良さそうだけど、香りがいいのでクミンやペッパー類、クローブ、カルダモン、フェンネルシードなどもミルで挽いて入れている。この辺はもう趣味の領域。

カレーとのファーストコンタクトはおそらく小学校にあがるかあがらないかの頃。それから小学生のうちに反復経験によって家庭のカレーの味が脳に刷り込まれ、無事に大好きごはん第1位の座を獲得する。その後、中学生ともなると背伸び思考で辛いカレーを食べたくなるが、それでも市販ルゥのゴールデンカレーやジャワカレーだ。外食でカレーを食べるのはもったいない気がするからね。高校生になってようやく外食のカレーに興味を持ち始め、でもやっぱり量は正義で「みよしの」デビューを飾る。
そうして大学生以降はお店のカレーを味わい続けながらも自作カレーの道に踏み出すのだ。最初は料理なんてできないから市販のルゥやスパイスミックスにかなり長らくの間、お世話になりっぱなしだったけれど。

スパイスなんて買っても使わないとよく言われる。和食ばかり食べる人は洋のスパイスをそもそも使わないし、洋食っぽいものでも簡単なレシピだけを見ながら作るのなら、スパイスをそれほど使わないのは当然だろう。でもメニューを考えるときに、しばらくはクミンを使った料理、みたいにスパイスからメニューを組み立てるようにするとかなりうまく使いこなせるようになる。なかでも、北海道ではラム肉を手に入れやすいのでクミンを常備しておくと便利。ラム肉にクミンをまぶして焼くとシルクロードの味を感じるのだ。なぜだかわからないけれど。ホールスパイスを買ったならめっちゃ安い電動コーヒーミルをスパイス専用に買っておくと気軽にスパイスを使えて便利。コーヒーにはゴリゴリと手回しで挽くタイプのミルを使っている。使用頻度から言えば毎日飲んでいるコーヒーのために電動ミルを買ったほうが幸せそうなものだ。

スパイスは集め始めると際限なく増えていく。コショウだけでもかなりの種類があって、それぞれ違った個性を持っている。「沼」はこんなところにも存在しているのだ。

読んでもらえただけで嬉しいです!