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信頼と包摂性:北欧から学ぶ誰も取り残されないデジタル社会(2022年2月10日開催)

デジタル化はSDGsを実施するための強力なツールであり、日本の新政権はデジタル化と電子政府を重要な政策課題として前面に打ち出しています。しかし、社会のすべての人々が参加し、透明で説明可能な政府のデジタル化を実現するために、私たちは何をしなければならないのでしょうか。

2月10日、このテーマについて議論するために、第3回Nordic Talks Japanを開催しました。会場は、パートナーであるUNIVERCITY of CREATIVITYの施設で、Mandalaと呼ばれる円形でコルク状のユニークな空間。オンラインと合わせて合計500人以上に参加いただきました。※以下写真は全てNordic Talks Japan / UNIVERSITY of CREATIVITY より提供

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開会の挨拶の中で、ピーター・タクソ-イェンセン駐日デンマーク大使は、北欧では以前からデジタル化に優先的に取り組んでおり、現在ではデジタルフレームワークが確立され、人々の生活をより快適で強固なものにしていると述べました。例えばコロナワクチンの予防接種券の配布は、デンマークでは国民一人一人が持つデジタルメールボックスへ配信することでスムーズに行うことができ、また、デンマーク国外で予防接種を受けた海外在住者の予防接種記録も統合することができたそうです。

続いて大使が登壇者を紹介し、対話が始まりました。

<スピーカー>
河野太郎氏(衆議院議員、自民党広報本部長)🇯🇵
Henrik Johansson氏(Crypto.com エグゼクティブ バイス プレジデント成長戦略責任者、Spotify Japan前最高責任者)🇸🇪
Rikke Zeberg氏(デンマーク産業連盟デジタル化担当、デンマークデジタル庁 前長官)🇩🇰
<モデレーター>
石倉洋子氏(デジタル庁デジタル監、一橋大学名誉教授)🇯🇵

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北欧と日本におけるデジタルトランスフォーメーション

まずはじめに石倉氏がデジタル時代における信頼構築の重要性を強調し、各スピーカーに自国のデジタル化の実装について尋ねました。

ジーベア氏は、デンマークの電子ID(eID)と電子メールボックスの制度を紹介。22年前の設計開始以来、国、地域、自治体、民間企業の協力がいかに重要であったかを強調しました。「eIDと市民ポータルサイトによって、デンマークの人々は、住所変更、保育園入園の申込、健康診断やCOVID検査の結果確認など、さまざまな公共サービスにアクセスできます。eIDと電子メールボックスは義務(但し免除制度あり)で、現在92%の国民がアカウントを持っています。市民は、民間企業が提供する各種デジタルサービスに慣れているため、公共部門がデジタルソリューションを提供することに強い期待を持っています」。

ヨハンソン氏は、1990年代前半から半ばにかけて、所得水準に関係なくパソコンを全世帯が購入できるよう促したスウェーデンの政策を紹介。これにより、スウェーデン人は早くからデジタル機器やインターネットにアクセスすることが可能でした。「スウェーデンでは、デジタルインフラへの参加は必須ではありませんでしたが、それでも高い参加率を達成しました。成功の鍵は、ユーザー側の立場に立って考え、システムに参加することのメリットを示すことです。今よりどう便利になるのか?民間の意見を取り入れ、公共サービス以外のメリットを付け加えることが鍵になるかもしれません。なぜなら、人々はそれほど頻繁に公共サービスに接するわけではないので、公共サービスだけでは、その制度に参加するメリットを感じない可能性があります」。

河野氏は、大臣としてワクチン接種を遂行していた時の話を振り返りました。「ワクチン接種記録用にシステムを作ったところ、医師の反対にあいました。彼らは既に様々な異なるシステムの利用を強いられていたからです。人口縮小を克服するためにはデジタルトランスフォーメーションが必要不可欠ですが、時間はかかるでしょう」。

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全世代、全市民を包摂する

社会のあらゆる層の包摂(インクルージョン)を語るとき、考慮すべきは高齢者世代だけでしょうか。ヨハンソン氏は、デジタル化を進めなければ、若い世代を包摂しないことになる、と指摘。「彼らの考えや期待に応えていないことになります 」。

ジーベア氏は、eIDとメールボックスの使用が義務化されたとき、国は高齢者連盟と協力して、デジタル機器の使い方を教えるコースを提供しただけでなく、社会の様々な層を代表する他の連盟とも協力したことを紹介。「課題もありましたが、同時に、デジタル化は今までなかった解決策も与えてくれました。例えば、障害者との新しいコミュニケーション方法や、ホームレスの方が公共サービスにアクセスできるようになりました(ほとんどのホームレスの方はスマートフォンを所有)。また、高齢者は新しいことを学ぶことを楽しんでいることも分かりました」。

規制緩和:デジタル化へのカギ

河野氏は、シンガポールでスマートフォンの顔認証で公共ポータルにログインしている人を見て驚いたという経験を紹介しながら、「何よりもデジタルソリューションは使いやすくなければならない」と述べた。「様々なサービスについて、それぞれのシステムにログインしなければならない現状を変えなければならない。1つのポータルですべてのソリューションを提供すべきであり、そのためには規制緩和が必要」と指摘しました。

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システム統合化で強くなるデータ保護への懸念

ただし、すべてのシステムを1つのポータルで管理する場合、根本的な問題としてデータ保護とシステムへの信頼があります。「技術的な観点からは、IDを安全に保護するソリューションはあります」とヨハンソン氏。「しかし、もう1つ考えなければならないのは、ここでいう信頼が、誰に対して、どこにあるべきなのかということです。信頼構築には時間がかかります。一枚岩の信頼構造では、何かと問題が発生しがち。分散型信頼の方が、良い戦略かもしれません」。

続けて河野氏は、データの誤用例と信頼について言及。「例えば、医師が患者のデータを健康診断に使うなど、当局や専門家が個人データを従来の目的のために使っている限り、信頼は問題にはなりません。しかし、例えば税務署が個人データを悪用して不正を行うなど、データが不適切に利用されると、信頼は一瞬にして崩れ去ります」。

ジーベア氏も同意見を述べました。「デンマークは幸運なことに、政府に対する信頼がすでに確立されていました。eIDは10年以上前から運用され、今までに60億件以上の取引がなされています。データの悪用はすぐに不信につながることをよく理解し、細心の注意を払っています」。

学生主導のQ&Aセッション

1時間近い対話に続いて、会場で参加していた学生も交えて、活発な質疑応答が行われました。ある大学生からは、自分の祖母が新しいネットサービスやアプリに否定的であることを例に、「高齢者は新しい技術を怖がらず、もっと試してほしい」と指摘。またある高校生は、「デジタル放送 (2003年移行開始、2011年移行完了) を推進する際、実現することで放送の高画質化が進むと分かっていたのでメディアにデジタル放送への移行を肯定的に報道するインセンティブがあったように、マイナンバーの普及にも、メディアに肯定的に報道してもらえるように、メディアへのインセンティブが必要なのでは」と指摘。別の高校生は、マイナンバーカードをより普及させるための手段について訊くと、河野氏が「まずは霞ヶ関をデジタルコミュニティーにすること」と回答しました。

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これからのアクション

最後に石倉氏は、各スピーカーに日本に必要な今後のアクションを問いかけました。ヨハンソン氏は、前向きなマインドと、官民の対話、と回答。ジーベア氏は、官民の協力と連携と回答。少しでも関連性のある組織との連携が大切だと強調しました。河野氏は、いわゆるガラケーのサポートが数年内に終了することが日本のターニングポイントになると指摘し、スマートフォンの使い方を初心者に教えるインフラ整備が必要だと述べました。

閉会の挨拶として、ペールエリック・ヘーグべリ駐日スウェーデン大使が、スピーカー、モデレーター、そして視聴者全員に対して、実りある対話に対して感謝の意を表しました。大使は、デジタル化がもたらした時間的、空間的価値(移動時間や待ち時間の節約や、物理的な移動なく世界中にアクセス可能な技術)に恩恵を受けている反面、デジタル化がもたらすリスク、特に民主主義に対する危険性にも向き合わなければならないと付言。また、デジタル化の例で見る通り、北欧社会では常に市民社会の声が原動力となっていると同時に、デジタル化は皆の「意見を聞く」ためのツールにもなり得るとの意見を述べました。最後に、北欧と日本が互いに学び、刺激し合うために対話を続けることの重要性を強調し、次回のNordic Talks Japan(テーマはジェンダー平等)への参加を呼びかけました。

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当日の録画もこちらからご覧いただけます(日本語吹替版)

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