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冬の空から細き雨の落ちる

冬の空は移り気

昨日は眠くなるほど
暖かな日差しだったのに
今日は朝から音もない細い雨は降る

病院の駐車場で
検査の順番をまっている
車のフロントガラスを
細かい水滴が濡らす

ワイパーもかけずそのままにしておくと
そのうち前が見えなくなった

そして
外界から閉ざされた空間が
わたしを遠い昔へといざなってゆく
12月11日!
何かが胸に引っかかった

そうだ3番目の我が子を亡くした日
たまに忘れていて
自分が酷く嫌な人間に思える

こんな冬の雨の日だった
いわゆる染色体の異常でしょうと
医師はこともなげに言ったけれど
わたしはただただ空虚だった

命は確かに宿った
心臓の動きをこの目で確めた
次の検診までに出血があった

慌てて
診察を受けると
がらんどうになった子宮が
画面に写った

母が菩提寺の子安地蔵の脇に
小さなお地蔵様をおいてくれた
名もなき命
だからわたしの散歩道は
いつも最後は菩提寺になる

そしていつも呟く

光を見られなかった子に向けて
そっちに行ったら
必ずまっすぐにお前のところに行くからねと

なのに忘れた
どうして命日をわすれたのだろうか?

何が一番大切なのか?
誰かが耳元でささやいた

のりさん
あちらの検査室へどうぞと言われ
その問いはかき消される

まだ雨は止まない

検査はコロナもインフルも陰性だった
あの子が今日を思い出させるために
熱を出させ
雨を降らせ
ここにわたしを連れてきたのだろうか

帰りにキャラメルとヤクルトを買い
菩提寺に寄った

雨が酷くなった
寺には誰の姿もなかった
だが、祈った
こんな駄目な母を許してほしいと

帰り着くと
抜糸を終えたメイが
足元でじゃれついた

待っていてくれたのだろうか
抱き上げてみた
するりと逃げられた

雨はまだ止んでいない

何が一番大切か?
その答えはここにあった。

抜糸終え意味さえ知らず暖を取る


今日もお粗末様でした

見出しは伊藤拓郎さんのお写真をお借りしました
ありがとうございました



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