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イラクで”PKK禁止” 「歴史瞬間間」トルコはぬか喜びも…状況は変わらなさそう

どうもお久しぶりです。昨日、クルド系メディアを眺めていると、目を引く目出しがありました。

「イラクはクルディスタン労働者党(PKK)を”非合法組織”に指定」というもので、少し驚きました。そして、トルコの対PKK作戦にイラクも協力するということです。ここ数年対立することも多かったイラクの転回に、トルコ国営通信は「歴史的瞬間」と書くなど、トルコ側の喜びぶりが伝わってきます。

しかし、これまでイラクはPKKを黙認しトルコの主権侵害を非難してきたのに、どうしたんだろうと疑問が出てきました。かつては、イラクの民兵組織が、同国領内に勝手に駐留するトルコ軍を「実力で追い出す」と息巻いていたことさえあったのです。

PKKはイラク中央政府にとって主要な脅威ではない――これは少しでもこの地域の事情をしっている人であれば、常識です。イラク政府としては、中央に半独立状態で石油利権をおさえるクルディスタン地域政府のほうがやっかいな存在です。

地域政府を牛耳るバルザニ一族のクルディスタン民主党(KDP)は、トルコの犬です。どれくらい犬なのかというと…

トルコ国防省が上げた画像に関係者が映りこんでしまうくらいです。赤い帽子をかぶっているのは、KDPの私兵、ペシュメルガ(”死に向かう者の意)の将校です。この投稿はイラクにおける越境作戦に関するもので、KDPはここまでトルコ軍とベッタリなのかとSNS上では話題になっています。

件の人物ですが、よく見ると肩のあたりにボカシがかけられています。クルディスタン地域の旗「Alaya Rengin(トリコロールの意)」のワッペンのように見えます。

Wikipediaより

「クルディスタン」の存在を認められないトルコとしては、そのまま掲載するわけにはいかないのです。このワッペンが映らない位置から撮ればいいと思うのですが、後で気づいたんですかね? こういうガバガバなところがトルコの良さでもあったりします。

少し話がそれました。

イラク国営通信の記事などでは、単にイラクとトルコが安全保障問題などについて協議したと報じられています。「PKK禁止」については、最後のほうでさらっと触れられている程度にすぎません。

むしろ目を引いたのが、両国の合同委員会では”テロとの戦い”のみならず、石油、水問題などについても協議していくという点です。トルコが対PKKで前のめりになるなか、イラクにはとってはこちらが本命なのではないかと思われます。

イラクに存在する多種多様な武装勢力・テロ組織で、PKKは比較的中央政府と利害が一致する存在です。というのも、トルコ―KDP連合と敵対する存在だからです。PKKの傘下にあるとされるエジーディー(ヤジーディー派)の自衛部隊・シェンガル抵抗隊は、イラク政府及びイラン傘下の民兵、人民動員隊(hashad al shabi)と連携しています。また、PKKはいまだイラク北部の治安を脅かす対イスラム国でも使える存在です。

トルコがイラクに駐留する真の目的は、PKK掃討ではなく石油利権の確保です。トルコはイスラム国がイラク領内で勢力を誇っていたころ、不正な原油輸入で莫大な利益を得ていました。イスラム国の勢力が弱まってくると、今度は自らが出ていく必要に迫られたのかイラクへの大規模な進出を開始したのです。

トルコは今回、石油ネタでもイラクを釣ろうと、パイプライン輸送の再開、原油輸出の正常化のために、不安定要素のPKKを排除する必要があると呼び掛けています。しかし、問題はPKKより、タダ同然で原油を求めるトルコのあり方です。イラクも当然それを承知しているので、トルコが真に誠意を見せない限り、妨害行動をするPKKは敵の敵として使える存在であり続けます。

アメリカのアラビア語メディア「自由チャンネル」の記事には、興味深い内容が載っていました。

記事中のイラクの著名な政治学者イフサン・シャマリ氏の見解によると、イラクはトルコの軍事行動の黙認と引き換えに水問題で利益を得ようとしているというのです。

トルコにはチグリス・ユーフラテス両河川の源流があり、下流の国々とは水をめぐる紛争を抱えています。そしてこの間、トルコは月末の統一地方選を前に、対PKK作戦で成果を出すことに躍起になっています。イラク政府を味方につけようと政府高官に何度もバグダッド詣でをさせていました。今度は大統領エルドアン本人もバグダッドに足を運ぶようです。

つまり、イラクは必死になっているトルコの足元を見て、自国にとってほぼどうでもいいPKK問題をカードにしたのではないでしょうか。イラクはトルコの行動にただ文句を言わないだけ、ただ、事態を傍観しているだけでより重要な案件で譲歩を引き出せると踏んだと思われます。

PKKが事態をどうみているのかも気になります。イラクにいる関係者に話を聞くと、次のように話しました。

トルコが状況を大きく変えることはできない。確かにイラク政府はトルコの側にやや寄った。それでも具体的な支援をすることはないだろう。PKKも已然として勢力を保っており、抵抗を放棄することはあり得ない。

つまり、状況は何も変わらないということでしょうか。イラク政府を強く批判する様子はなく、切迫した雰囲気はありませんでした。また、他のクルド人もイラク政府は経済的利益を得ようとしているに過ぎないと、冷静な見方を示しています。

今回の動きには既視感を覚えます。

数年前にもトルコは、イランとPKK掃討で連携すると合意したと大騒ぎしたことがありました。ただ、イラン側は経済分野での合意を重視し、対PKKでの熱意のなさは明らかでした。アリバイ作りのためPKK本拠地がある山岳地帯を少し砲撃し、その後は「連携」について聞かなくなりました。

トルコは今月末の統一地方選後に、イラク・シリアへの大規模軍事行動を開始するとの観測が高まっています。イラクはそれにゴーサインを出した格好になりましたが、肝心の協力については不安要素がかなり残る形です。また、多くのトルコ兵が犬死にするだけに終わりそうです。


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