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ヴィンテージ:7

たぶん吐息。横開きのドアの向こうからする音。私は食器の片付けや洗い物をして聴かないように努めていた。でも、時折聴こえる‘音’は心臓をソワソワさせる。何か言ってるのも聴こえる。あのこはだめ。その分2回するから。妹なんだから大切にしたいの。その間にもフッフッと息づかいが聴こえる。荒っぽいその音のせいでワタシは艶がかった白いパン皿を何度も何度もハンドルを回すみたいに洗っていた。ボンヤリと理性がぶつかりながらゆっくり片付けを済ませていると、扉がスーっと開き、モモカが顔だけ出していた。
「あのさ。そこの棚の中にある黒い小さい箱取ってくんない? そうそうそこそこ。そのタバコの箱みたいなやつ。そう、おっけ。あっ、外のビニール外して捨てといてくんない? あんがとねリッコ」
 そう言って隙間から箱を受け取ると扉をゆっくりと閉める。でも、すぐまた開いた。
「あっ、悪いんだけど朝ご飯作っといてくんない? 軽いのでいいから。角食と卵みっつあったはずだから、それで。お願いね」
 ワタシは首だけ縦に振ると、いちおう言われた通り用意に取り掛かる。現在、午前2:30分。ワタシはコンロの魚焼きでトーストを焼き、フライパンに卵を割り入れていた。あの匂いだけは嗅ぎたくないからって思ってさっさと二人分用意してベッドに飛び込みたくなった。
 家政婦って事が家賃って事で。そう言って誤魔化す数時間後に来る未来をボンヤリ頭に浮かべながら香ばしい薫りをキッチンに漂わせながら。

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