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ヴィンテージ:2

 ゴミみたいに地べたに蹲ってたまに過ぎるインバウンド旅行者の群を見ては視線が合わない様にまた薄汚れたアスファルトに視線を落とす。死ねばいい。そう思ってるのは私だけど過ぎる何人かはそんな感情で視線を送ってるんだろう。憐れみも何割か。そうやって何時間かヒマを潰していると前をモモカが通り過ぎたのが見えた。偶々。私は吸い寄せられ視線と一緒に彼女の背を追いかけた。
「ももか」
「ん? ああなんだリッコか」
「あんさ」
「もしかして泊まるとこないの?」
「うん」
 モモカはふっと軽く溜息して、薄く笑いかけながら私に左手を差し伸ばした。
「んっ。ほら。きなよ」
「いっつもごめん」
「いーじゃん。お互い様」
 私はモモカのピンと伸ばした手を握って引っ張られる様に後ろにくっついて歩いた。繁華の煌びやかな雑踏は不清潔な私には荷が重かった。でも、ここにしか居場所がない私達は余計なものなんて見ない様にして手を引き合いながらこの街を歩くしかなかった。今日は偶々私が行く当てがなかっただけ。明日は誰がどっちが当てを失うかわかんない。そうやって今は生きてた。

 モモカん家は新宿三丁目の雑居ビルの屋上にある。ペントハウス。オーナーと知り合いの彼氏が倉庫代わりに使ってるだけだから住んでいいよって借りてる仮屋。雨の日にはルーフ代わりのトタンに落ちる粒がボタンボタン煩いし雨漏りもしてるからタライに落ちる水音が面倒くさくて嫌い。でも、屋根があるだけ幾分かマシ。モモカん家って言ったけどモモカが転がり込むアテの一つってだけで最近はここが家代わりになってる。モモカがあたしの家って言うからそう呼んでる。どうでもいいんだけどモモカの表情が穏やかだから少しはマトモなトコなんだろうなと思いながらいつも彼女に付いて行く。

 ミヤギはパンツ一丁でバスタオルを頭に被せながら歯を磨いてた。
「モモカ。帰るならLINEしろよ。ん? りつか? 呼ぶなら呼ぶって言え。ほうれんそう」
「ただいま〜。ほらリツカ、靴脱いで」
「おじゃま。します。ここ玄関ないんだもん」
「こっから。こーこ。までが玄関」
「りつかの事ちゃんと躾けとけよ!」
「うっせえ。ほらリツカ上がって」
 私は何処かの誰かが酔って鬱陶しくなって道端に履き捨てたパンプスを拾って履いてた。愛着のないソレを蹴っぽって玄関のラインの内側の壁に当てると、他人の家につま先立ちで慎重に上がり込む。モモカは私の腕を引っ張ってほらほら上がって上がってと急かして、私はクイと引き込まれる感じに態勢を崩しながらローテーブルがある居間に導かれる。その途中ミヤギは頭に乗せてたバスタオルを私に投げて、びっくりした私はソレをキャッチして目を丸くすると、
「くせえから入れよ」
と言って、ミヤギはモモカの肩を軽く小突きワタシとモモカの手が離れる。モモカはミヤギの事を軽く睨んだけど、手を離すと私の背中を両手で押して私をミヤギにパスした。ミヤギは私の手を握り洗面所まで導くと放って押し込んだ。扉の向こうから、着替え! 渡せよバカ! ってモモカの声が聞こえる。その後ドアが2回ノックされ、まだ着替え始めてないよな? という声と共に私の姿が見えない程度にドアが開いて下着とスウェットが投げ込まれ閉まった。

「サイズ合わないんだけどな」
 艶が消えシャンプーを何度垂らしても泡立つことのないバサバサの髪を掻きむしりながら私はそんな事を呟いた。薄茶色の水が浴室のタイルを流れて排水溝目指してうねりあっていく。

_その3

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