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「君は行く先を知らない」と「福田村事件」

早く観ないと!と気になっていて見逃していた映画、
「君は行く先を知らない」( 2021年。パナー・パナヒ監督 )を観た。イランの映画はアッバス・キアロスタミ監督の映画しか知らないけれど(大好きで、以前キアロスタミ監督特集に通った)、パナヒ監督のこの映画も、心の深いところに刻まれる、静かに揺さぶられる感じがあって、また忘れられない映画がひとつ増えた。

イランの社会情勢は、普段は紙面上やニュース映像くらいの知識しかないけれど、30代の頃NYで出会った親友の親友イラン人の友人は、14歳で家族でイランからアメリカに亡命して、当時50代後半の彼女は、その後一度もイランに帰ったことがなく、アメリカ人のパスポートで生きていた(その後彼女と、彼女のイギリスに亡命した幼馴染みと、テヘランに残った幼馴染みとが3人で日本に、うちに泊まりに来て、私の家族と彼女たち3人と直島に旅行に行った思い出がある)。

映画は、全財産を投げ打って20歳の長男をイランからトルコへ不法に出国させる為に、長男の両親と、年の離れた事情を全く知らない次男と愛犬とのロードムービー。イランの美しい荒野をロングショットで見せながら、家族の会話とその声色、彼らの表情から、母と父の複雑で深い息子を思う気持ち、まだ若く未熟さも漂う長男の心模様を細かくありのままに丁寧に描いていて、役者がとてもよくて上手くて、次男の明るい元気な無邪気さがこれまたよくて、映画館を出た後の今も、余韻が継続中。広大で乾いた大地や景色、そしてお母さんを美しい(お母さん大好きと聞こえてくる)と表現する次男やお父さんの言葉にも、正にその通りで愛に溢れて胸に迫ってきた。

また、9月1日が関東大震災から100年目ということで、「福田村事件」( 2023年。森達也監督 ) を先々週、満員の映画館で観てきた。こんなことが本当にあったなんて、、。そうなってしまう時代背景と人々の心理状態もわかるのだけれど、今の時代、全てわかってしまっている現代から見るとどうして、、と群集心理に戦慄、もし、その場にいたら。。そんな時に新聞の投書欄で、当時の朝鮮人が井戸に毒を入れたとか、火をつけたとかのヒソヒソ話に、日本人の「私らよりも今、あの人らの方が大変だよ。そんなことするかね?ほんとなの?」と言う人もいたそうで、投書をされた方のご親戚の方が子供心にも「その通りだと思った」と書いてあるのを読んで、冷静になって、自分の目で見て自分の耳で聞いて自分で判断して考えることが、いつの時代にもとても大切なことだと強く思った。流されないように。と、映画は役者陣がとてもよくて、セリフも違和感なく、その台詞から各人物像が浮かび上がり、当時の様子がよく伝わってきた。再び繰り返してはいけない、忘れてはいけない過去の出来事を映画に教えてもらえた。後味が少々辛いけれど。


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