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全国を歩いて見聞きした人しか書けない/『しめかざり』(森須磨子)

しめかざりの研究を続けてきた森須磨子さんが2017年11月に『しめかざり —新年の願いを結ぶかたち』を出版された。


歩いて見聞きした人しか書けない内容

『しめかざり』は、1章「しめかざりのかたち」、2章「しめかざり探訪」、3章「しめかざりを知る」で構成される。

各地のしめかざりを紹介する1章は写真が大きいこともあって目をひくが、森さんらしさは後半の2・3章にあるように思う。

2章の探訪記はもちろん、3章のつくり方・使い方に言及する箇所は、各地を歩いて見聞きした人しか書けない内容となっている。

しめかざりの左綯い・右綯いから派生してわらじの鼻緒が左綯いである理由、しめかざりの素材となる藁の確保の方法……。それぞれのトピックの記述は2ページ前後だが、その背後にある膨大な調査の蓄積量は容易に想像できる。


「エリア」と「ライン」の使い分け

さて、本書の序盤には全国のしめかざりの形態分布図が掲載されている。それぞれの分布域に「亀エリア」「鶴エリア」といった名が付与されているのだが、よく見ると中・四国地方にまたがる細長い範囲が「眼鏡ライン」となっている。「エリア」と「ライン」が使い分けられているのである。

先日、森さんにお会いするまで「エリア」と「ライン」が混在することに気づいていなかったのだが、使い分けの理由について直接ご本人に聞いてみた。

森さんいわく、「エリア」は中心からぼんやりと広がるイメージ(森さんのイメージとは少し異なるかも)、「ライン」はある地点から一定方向に向かうイメージ(ベクトルがあると表現されていた)とのこと。

このイメージの差を表現するための「エリア」「ライン」の使い分け、実は重要かもしれない。


(ヘッダーは愛媛県愛南町外泊のしめかざり。2017年1月撮影)


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