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最後と最初

朝十時、相棒に乗って最期のドライブに出る

前日にキレイに洗車して
車内にあるものを全て出す

母の使っていたクッションも

車内を名残惜しげに見回して
母をいっぱい乗せてくれた相棒に感謝する

右折するウインカーは壊れてカチカチと早くなる

ちょっとみっともないけれど
これもわたしのせい

かなしいけれど
本当はもう少し乗っていたかった

ぶつけたわたしのせい

車屋さんに着くと
すでに新しい車が待っている

もう準備万端と
真新しいナンバープレートを付けて
番号は300
なんと切りの良いことか

別に299でも良かったのに

「4とか9は嫌がる人がいるんです」
営業マンのお兄さんは言っていたけれど
「4はしあわせ、9は足りるという意味合いがあるから」
とわたしは思う…大丈夫

もしかして気を効かせて300にしてくれたのかな

お金の精算をして

車に慣れるため
営業マンのお兄さんに横に乗ってもらい、試乗コースを一周する
最後に車屋さんの駐車場でバックの練習

「もう大丈夫ですね、お店の中で待っていて下さい、車はちゃんと出られるようにしておきます」

店内でお兄さんを待っていると
お兄さんはサプライズで花束を用意してくれていた

こんなかわいい花束をもらったのはいつのことだろう

思い出せない

心憎い演出するのね、お兄さん


確かに相棒とお別れするのはさみしいし、車屋さんに置いてきぼりにしたくはなかった

かなしい気持ちも押さえつつ
さようならをしないといけない

新しいわたしの相棒は最先端の機器を詰め込んだ車である

フットブレーキなんか古い、古い
今や手元で操作する

「お母さん、やっと時代の波に乗れたね」
と息子も言う

時代の波か…

これが最後になるかのかな

最初で最後
大切に大切に乗らせていただきます

どうかよろしくお願いね…


母のいない一年間生き延びたご褒美なのか
そんな思いも湧いてきた


ありがとう


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