見出し画像

夜も更けて電車に乗って

 私の住んでいる所、勤務している所は、電車が発達していて、高校時代から通学、通勤とも、ずっと利用させていただいている。
 
 通勤の特に行きは、通勤時間帯であるので、居場所の確保も大変だ。
 身体が三つ折くらいになって、やっと携帯のメールを見る空間がある位の時もある。
 
 帰りが22時、23時、それ以降になると、かなり酔った乗客が増えてくる。
 私自身が、そちらのサイドに回る事もあるので、気になるところである。
 
 楽しいと言えば楽しい。
 親しみが持てると言えば持てる。
 気をつけなければと言えば、まさにその通り。
 
 効きすぎた潤滑油のおかげで、気持ちは大きくなり、口は滑らかになる。
 抑えていたものが軽くなり、むしろ強調されて地が出てくる。
 親しい人に話し掛けているのだろうが、誰が聞いているかわからないのである。 

 話は変わるが、だいぶ前のこと。
 私が、まだまだ青年の頃だ。
 深夜最終に近い電車のなかは、酔っ払ったおじさん達、流行の話題で盛り上がる若者達で、席は殆ど埋まっていた。
 思い切りねじが緩んでいる方もいて、呑み屋がそのまま引越したようなもの。
  
 視線を凝らすと、斜め向こうの席の端で、下を向いて、しくしく泣いている20代くらいの女性がいる。
 横にいた若者達が、気付かず、盛り上がって、大笑いすると、今度は声を上げて泣き出した。

 周辺は静まり返った。
 女性は一向に泣き止まない。
 人目を憚らず泣かずにはいられない深いものがあるのか。
 彼女の感性によるものであるのか。
 彼女が泣いている理由を私は知らない。
 知る由もない。

 空騒ぎしている人々は、真に笑っているのか。
 次の日、目が覚めれば、殆ど無意味に感じるのではないだろうか。
 
 夜の闇を疾走する電車。
 なぜか悲しみが似合い、空騒ぎの虚しさを感じるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?