TheBazaarExpress104、奇跡の読書感想文~佐々木風美

 その読書感想文との出会いは鮮烈だった。2012年、第58回青少年読書感想文全国コンクールの小学校高学年向けの課題図書に、拙書『ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密』(講談社)が選ばれた。全国から寄せられた感想文は約445万通(小学校低中高3部門、中学、高校と計5部門総計)。その中から小学校高学年の部で内閣総理大臣賞を受賞したのは、宮城県名取市那智が丘小学校6年生(当時)佐々木風美さんの書いた『今日の風は、どこまでも青色』だった。

 その内容こそまさに奇跡だった。風美さんはこう書いた。

「言葉にできないいらだちや思いを、気付かないうちにピアノにぶつけていた時、辻井さんが私に語りかけた。『ピアノは心の鏡だよ。心の眼を開いて、体全体で風を感じて弾いてごらん』」

 私は今から約15年前、辻井伸行さんが10歳の頃から取材をしてきた。当時の辻井さんは、母親に対して「今日の風は何色なの?」と聞くような独特の感性を持つ少年だった。自然が大好き。木々の間を抜けてくる風を感じ、川のせせらぎに心を震わせ、夜空の星の美しさを心の眼で観ながら育った。それがピアニストになったいまも、表現の原点だ。私が拙書にこめたその思いを風美さんは見事に読み取り、本の中の辻井さんが自分に語りかけてきたと表現してくれた。

文章の最後はこう結ばれている。

「母が言った。『今日のピアノは、優しい色ね。』私の心の中に、少しだけ風が吹き始めている。」

少年の日、辻井さんが感じた風の魅力を、15年もの時空を越えて「風が美しい」という名前を持つ子どもが引き継いでくれた。それは書物を媒介にした感性の継承だ。書き手としてこんな冥利なことはない。

聞けば風美さんは、小学校4年生の時にもこのコンクールで「全国学校図書館協議会長賞」(優良賞)を受賞しているという。

―――どんな生活をして、どんなふうに文章を書いている子なんだろう。

 思いは募った。

        ※

「本は学校から帰ると読んで、寝る前に読んで、いつも並行して3冊くらい読んでいます」

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