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連載小説 サバンナ #2

#1はこちら  ↓


 ダイニングテーブルからテレビまでの距離が遠すぎて、速報の内容がよく見えない。仕方なくぼんやりとテレビを眺めていた。すると台所にいたはずの依子がテレビの前に立ち、「えっえっえっ!」と発した。大きな声だった。そしてまた「えっ!」と今度は完全に叫んだ。

「どうしたんだよ?何のニュース?」聞くと依子はこちらに振り向き、「ライオンが!」と言った後、またテレビ画面を見つめている。


 一体ライオンがどうしたというんだ。死んだのか?なんなんだ。仕方なく俺もテレビ前のソファに移動する。2回目の警報音が鳴り、字幕が新たに表示される。


今日未明、東京都〇〇市の北多摩ズーパークのライオン5頭が飼育員ら3名によって園外に逃がされた模様。うち2頭は捕獲を確認。


 北多摩ズーパークだって?うちの近所じゃないか。ここからだったら歩いてだって行ける。
 テレビの画面は平和な天気予報が打ち切られ、北多摩警察署長の記者会見に切り替わる。
 テレビ画面の前に突っ立って放心している依子にソファに腰かけるように言い、ふたり並んで会見を見る。
 
 時間が早いせいか警察署内の会見席にはそれほど多くの報道陣はいないようだ。憔悴した様子の警察署長が低い声で原稿を読み始めた。依子は息をするのも忘れているようにして画面を凝視している。


「今日未明、〇〇市△△1番地、北多摩ズーパークのライオン舎に、50代男性、30代女性、20代男性が侵入。ライオン舎の扉を開放し、中に収容されていたライオン5頭を外に逃がした。なお、この3名はすでに本署に身柄を確保され、当該施設の飼育員であることを確認済みである。事件発生当時、宿直の職員が中央管理室に2名在席していたが、事件数時間前に、ライオン舎から職員用通用門までの防犯カメラが破壊されており、異変に気づかなかった模様。ライオン舎出口から職員通用門までには、普段ライオンの餌として与えている肉を間隔をおいて置き、ライオンを出口に誘導したものと思われる。」

 なんという話だ。

「午前3時過ぎ、他に飼育している動物をカメラで監視した際、その様子の異変に気づいた当直職員が園内全ての防犯カメラを確認したところ、1頭のライオンがサル山付近を歩いているのを発見。通報した。」

 通報を受けた時点で警視庁はライオンが通報時間までに到達できると考えられる半径5kmの周囲をバリケードで封鎖。園内に残っていた2頭については麻酔銃で捕獲した。あとの3頭については行方が分かっておらず、警視庁と自衛隊など1500名体制で捕獲作戦に当たっている。

「なによ、それ、夜中にこんなことがあったのになんで今まで住民に連絡がないの!」
 

 依子がヒステリックに叫んだ。「ライオンが道を歩いているのよ!夜に出かけている人だっているでしょう!」怒りをあらわにする依子を見るのはいつぶりだろう。

 署長は続ける。「当初、捕獲には時間はかからないと考えていたが、夜中の犯行ということもあり、捜索が難航している。この地図上の〇で囲まれた地域にお住まいの方は、本日絶対に外に出ず、自宅で待機してください。〇〇市、△△市、◆◆市の保育園、幼稚園、その他学校施設は本日すべて休校です。また、該当地域にお住まいの方は、テレビ、ラジオ、防災無線等で定期的な情報収集をお願いします。」

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