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ダンプ松本41周年に学ぶ、女子プロレスのブランディング

野呂一郎の新・プロレスの経済学 第1回

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:女子プロレス、最近の人気の秘密。ダンプ松本のブランディングの秘密。女子プロレス全体の戦略。テレビというメディアの本質。テレビとプロレスの親和性。以上についての理解と疑問。

「プロレスの経済学」から20年

さて、noteで何本かプロレスの記事を書いてきました。

概ね好評というか、いや、僕の人気のない記事の数々の中では傑出して見ていただいたり、好きをしていただいたりしたものが多いです。

ありがたいと思うと同時に、プロレスについて書くつもりなど毛頭なく、読者の皆さんには、つきあわせちゃって申し訳ないという気持ちもありました。

あくまでビジネスマン、ウーマンの方々と高校生の皆さんに向けて、リーダーシップを論じたのが筆が滑ったというテイで書いた、偶然でした。

ただ最近、プロレスが色々誤解されてひとこと言わなくちゃとか、経済、経営の面からこうしたほうがいいんじゃね、的なよけいなことを言いたい気持ちが募り、noteでやってみようという気になり、マガジンを創ることにしました。

本も書き下ろそうと思いましたが、やはり、どうしてもリアルタイムのプロレス事象を題材に分析しないと社会に伝わらない、と考え、noteで実験をしてみる構えです。

第一回のテーマは、ダンプ松本復活と女子プロレスのブランディングです。

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東スポ10月13日号に、ダンプ松本41周年還暦大会の模様が報じられました。去年8月、ダンプはデビュー40周年を迎え、そして今年は41年目、です。

東スポの記事写真は、あのクラッシュギャルズ・長与千種を竹刀でいたぶっている絵です。

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プロレスの経済学的に思うのは、ダンプの寿命の長さです、言いかえれば、ダンプ松本のブランド力のすごさです。40年たっても色褪せないダンプ松本というブランド。

学問的なことはゴタゴタ述べませんが、ブランドとは、ようするにパブリック・イメージのことです。

ダンプ松本って言えば、あの極悪女子レスラーね、と人々が即座に連想してくれる力のことです。その度合が強ければ強いほど、強いブランド、といえます。

では、この40年も続くダンプ松本というブランドはどうやって作られたのでしょう。

答えは、テレビ、です。

女子プロレス全盛の80年代に、フジテレビが夕方「全日本女子プロレス中継」という番組を放送して、そこで極悪・ダンプ松本が毎週、長与千種を血祭りにし、悪の主役に躍り出たのです。

テレビ放送が10年以上も続いたのは、ダンプ松本の悪役ぶりが、ベビーフェイスの女子レスラーを引き立る唯一無二の存在として、ものすごい価値があったからです。

スターダムも「我が世の春」じゃない

今、プロレスは、空前の女子プロレスブームだと言われています。

新日本プロレスの親会社・ブシロードがスターダムという団体を買収してから、コロナ禍なのにゲート収入(入場料売上)は男子のそれを上回り、ネット中継契約者もうなぎ登り、従来女子が進出できなかった大会場での興行を次々に実現させています。

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引退したプロレス界のご意見番、天龍源一郎は、最新号の週プロ(週刊プロレス)で、こんなようなことを言っています。(あくまで概要です)

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「もうプロレスそのものでは、女子と男子はそんなに差がなくなった。それならば、きらびやかな方がいい、見た目がカッコいいほうがいい、となってみんな女子に行くんじゃないかな。週プロが女子をはやしたてるのも、一因だよ」。

天龍源一郎は「我が世の春を謳歌するのもいい」と、半ば元気のない男子を叱咤するような発言をしています。

しかし、天龍のこの発言は、じきにダメになる、ともとれるのです。

「我が世の春」というセリフに毒があります。この、驕る平家は久しからず的なニュアンスを探ると、ブランド論に行き着きます。

ダンプ松本がブランディングに成功したのは、次のブランド方程式です。

Intensity(強烈さ、インパクト) ✕duration (期間)=ブランドの強さ

ダンプは、毎週テレビでアイドル女子レスラーの頭を一斗缶で殴りつけ、額をハサミで切りつけ大流血させ、極悪軍団で集団リンチを加えてきました。

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その度に会場を埋め尽くした若い女性ファンの悲鳴がこだまします。

ダンプの狙いはただ一つ、最強アイドルレスラーチームのクラッシュギャルズ、中でも長与千種を倒すことでした。

全日本女子プロレス中継は、毎回ダンプと長与の流血抗争を10年流し続けたと言ってもいいのです。

視聴率は平均10%以上いっていたでしょう。

ダンプの非情な攻撃にのたうつ長与、意識のないまま中継は終わり、お茶の間のファンは「千種死んじゃう」と泣きわめきながらも、次週のテレビ中継を心待ちにします。

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一週間たって、元気になった長与が、ダンプに正義の鉄拳を浴びせると、会場のファン、お茶の間のファンは総立ちで大歓声です。

こんな展開が10年続きました。

かくして、ダンプ松本の「極悪」というパブリック・イメージは、日本全国津々浦々まで浸透し、ダンプ松本というブランドは、悪のエルメス、悪のグッチと言われるほどの強いブランドになったのです。

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テレビの優位性

なぜ、僕が、「スターダムよ、我が世の春に浮かれてる場合じゃないぞ」と警鐘を鳴らすかというと、このダンプ松本の成功例を見ているからです。

ダンプ松本のブランドは、先程、方程式で示したように、インパクト✕時間であり、あれだけ強烈なことを10年やった結果です。

スターダムは、ブランディングがまったくできてない。ライブを見に来る観客が増えただけです。

インパクトも時間も両方足りない。

具体的にスターダムの話をしましょう。

まずはインパクトですが、インパクトとは、魅力✕見せ方なんです。

スターダムの魅力は選手のビジュアルと個性です。これは過去最高クラス、素晴らしい。でも見せ方がダメだ。

以前はやっていたテレビ中継がないからです。

アベマTVとか、オンライン配信だけです。

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今はね、YouTubeとか、ストリーミングとか、ダゾーンだとか、あり、スターダムもそれに乗せているはずです。でも、テレビにはかなわない。

ブランディングにおけるテレビの優位性

あえてこういう仮説をいいましょう。

テレビはネットやオンライン媒体に比べ、「感情の拡散性」にすぐれており、同じ視聴者数でも、その拡散力で10倍の視聴者数を数える

どういうことか。

結局、テレビ以外のライブ配信って、一人で見るものでしょ。

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スマホとかで。

それって、感情を揺り動かされるのはあなただけなんですよ。

でもテレビは家族で見る、居酒屋でみんなで見る、友達と、奥さんと一緒に見る。感情を共有しあえ、そしていろんな家庭や場所でテレビを囲んだ視聴が同時に行われるから、一種のシンクロが起こり、その時間、日本中の何千万人が同調する。

その波が、テレビに映る主役たちに反映し、それがブランドになる。

そういうことなんです。

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そう、結論はスターダムがテレビに掛け合い、レギュラー中継枠を10年契約で勝ち取る、となります。

しかし、勝ち取れるのか。

勝ち取れるよ。

女子プロレスTVレギュラー獲得がプロレス大復活につながる理由

僕は、インスタグラム大反対の論陣をはったけれども、つまり、ビジュアルは差別やいじめを助長して反対だけれども、

現実的には、テレビもインスタに負けず劣らず、見てくれ主義だから、絶対に売れるよ。

男女差別的になるのを許してもらうと、スターダムのビジュアルは群を抜いているからだ。

それは、美女とか、カワイイとかじゃない。すごく心を揺さぶるようなビジュアルなんだ。

躍動感、真剣さ、戦い特有の緊張感、そんなものと彼女たちの表情、ただずまい、コスチューム、演出が本当に奇跡のコラボを遂げて、えも言われぬ独特の”美”を生み出している。

しかし、これも差別的で言うのは嫌なのだが、この美は、ある程度若さに影響を受けている。つまり賞味期限があるのだ。

だから、5年しかもたない。

でもこの5年間、スターダムを毎週テレビ中継してごらん。

ダンプで検証したブランド方程式だと、インパクトはダンプよりあるよ。

だから5年でも、女子レスラーたちは、ものすごいブランド力を手に入れるよ。

それは団体も同じ、ひいては、そのブランドの恩恵が女子プロレス全体にくる。それが男子にも波及し、プロレス界全体に広がる、はずだ。

こんなこといってもピンとこない人が大半だね。

僕はあえて、このレスラーを、スターダムの象徴と考えている。

彼女の美的センス、ファッション感覚、レスラーとしての美学、真剣なファイト、プロレス愛、見せ方、すべてが女子プロレスの新しい見せる魅力に満ちていると思う。

その名は、中野たむ。

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今日も最後まで読んでくれてありがとう。

ではまた来週、あいましょう。

                             野呂 一郎

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