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創造性は学習できるものなのか? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.04

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。

WHY #04:創造性教育

創造性に自信を持てない日本人

春はスタートの季節です。この4月から新しい環境に身を置いたり、新規プロジェクトに携わるにあたって、新たな学びを始めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回のニュースレターでは、私たちが取り組んでいる「創造性教育」にフォーカスします。

自らを創造的だと感じる日本人の学生は8%に過ぎないという調査結果があります。これは、世界平均の世界平均の44%に遠く及ばない数字です。海外からは、独自の文化や技術を持つ創造的な国だと見られることも多い日本ですが、若者たちは創造性にコンプレックスを抱いているのです。別の調査においても、未来は自分の手でつくることができると答えた日本人学生は18%にすぎず、日本の若者たちが自らの創造性によって未来を切り開いていく自信を失っていると言えそうです。
日本人学生の基礎学力水準は世界的に見ても高く、日本の学校教育は一定の成果を収めてきました。しかし、教育の大きな目標のひとつである創造性については成功しているとは言えない現状があるのです。

12歳から18歳までの日本の若者のうち、自らを創造的だと捉えているのはわずか8%で、世界の同世代の平均44%に比べて著しく低い。
日本人の17~19歳1000人への調査の結果、自分が国や社会を変えられると考えているのは18.3%しかおらず、調査した9カ国の中で最下位だった。

日本の学校教育が抱える問題

日本の学校教育は新たな問いの探究よりも、答えが一意に定まる問題を重視してきました。しかし、社会で出合う問題は答えのないものばかり。変化が激しい現代だからこそ、未知の状況から課題の本質を見出し、周囲との合意形成や解を探求する姿勢が大切です。
これまでのステレオタイプな学校教育では、学生は未知の問いとの向き合い方や、将来を描く自己決定のプロセスを学ぶ機会はほとんどありませんでした。しかし、近年は「アクティブラーニング」や「探求学習」など、学習者の能動性を尊重し、教科の枠にとらわれない創造性や探究心を育む教育に目が向けられつつあり、ビジネスの現場などでも創造的な発想を促す思考法が注目を集めるようになっています。

創造性を学ぶことはできるのか?

そもそも、創造性とは学ぶことができるのでしょうか。学校の美術の授業で絵が上手く描けなかったといった些細なつまづきから、自らの創造性を諦めてしまう人たちがいまも後を絶ちません。この背景にあるのは、創造性とは限られた人たちに与えられた才能であり、学習はできないという思い込みです。
しかし、私たちは本当に創造性について深く理解しているのでしょうか。そう考えると、私たちは創造性という現象の構造や訓練方法についてほとんど知らないことに気づきます。創造性の構造を把握することができれば、私たちはこれを後天的に獲得することができるかもしれません。
いまこそ創造性そのものを理解し、体系的に学ぶことができる理論や教育を確立することが求められています。教育を通じて創造的な人を増やしていくことが、持続可能な社会の構築やさまざまな社会課題の根本的な解決にもつながるのです。


HOW#04:進化思考

進化という現象から創造性を学ぶ

38億年の生命の歴史の中に刻まれる数千万種の生物の中で、人間ほど創造性を発揮した生物は他にいません。それにも関わらず、私たちは自然物の造形に対して、人間以上の創造性を感じることがあります。
私たち人間も自然の一部であるという観点に立つと、人間が発揮する創造性もまた自然現象のひとつだと言えます。こうした観点から、人間の創造性は生物の進化に近い現象なのではないかと考えたNOSIGNER代表の太刀川英輔は、進化という現象から創造性を構造化する探求を続けてきました。そして、生物の進化の構造をデザインやイノベーションに応用する創造的思考法「進化思考」を体系化するに至りました。

2016年にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催したNOSIGNERの展覧会では、生物の進化とデザインの対比を展示しました。
進化思考における「変異」では、9つの型をツールボックスのように活用することで思考に偶然のエラーを大量発生させ、多くのアイデアを効率的に生み出します。一方の「選択」は、生物学の自然観察の手法に則って社会の淘汰圧を理解し、状況に適応するアイデアを選択するプロセスで、アプローチは「解剖」「生態」「系統」「予測」の4つに体系化されています。

「変異」と「選択」の往復する思考法

生物は、偶然によって起こる「変異」と、環境などの条件による必然的な「選択」の2つのプロセスを、遺伝によって何世代も繰り返して進化します。翻って社会の変革を実現してきた人類の発明やイノベーションの多くもまた、生物の進化と同様に、偶然と必然の思考の往復から生み出されてきたと考えることができます。偶然にも必然にも意志はなく、単純に往復すれば適応に近づいていくのです。
創造性は作り手の意思によらず自律的に起こる現象である。そうした考えのもと、常識にとらわれずにクレイジーな偶然を生み出す「変異的思考」と、状況から必然的な適応の方向を観察する「選択的思考」を何世代も往復するプロセスとして創造性を捉えるのが進化思考です。

進化思考の書籍は、島根県海士町に初めて設立された出版社「海士の風」から2021年に刊行されました。Amazonのビジネス・経済書ランキングで1位のベストセラーを獲得し、日本を代表する人文科学分野の書籍に与えられる「山本七平賞」を受賞するなどさまざまな賞も受賞。2023年12月には、監修者協力のもとで全面改訂・大幅増補した増補改訂版が発売されました。

創造性教育をアップデートする

進化思考は日本の大企業や教育機関で取り入れられ、大学の入試問題にも選ばれるなど大きな広がりを見せ、この創造的思考を実践し、社会に変革を生み出す人たちが現れ始めています。しかし、その数はまだまだ足りません。
不可逆的かつ急激な環境変化の危険性がある限界点「プラネタリーバウンダリー」をすでに超えていると言われる中、私たちに残された時間的猶予はありません。いまこそ私たちは創造性の本質を深く理解し、さまざまな課題の解決のために最大限活用することで、持続可能な共生社会を実現することが求められています。
人類の大きな宿題であるさまざまな社会課題がクリエイティブに解決される状況を生み出すために、私たちはこの進化思考を通じて時代の創造性教育をアップデートすることを目指しています。

(左)進化の学校ワークショップ、(右) JIDAStudent Lighting Exhibition Workshop JIDA学生照明展ワークショップ

ベネッセ教育総合研究所が主宰する「高等教育の未来を考える会」の座長を務めた太刀川は、教育分野で先進的な実践を行う委員のメンバーたちと議論を重ね、希望ある未来を描く大学教育ビジョンをまとめました。「GROWING AMBITION ー学生よ野望を抱け」を掲げた提言書では、学生の自己成長を促し、自分ごととしての大志に満ちた野望を育むことを大学の役割として定め、その実現に向けた4つの観点や、具体的なカリキュラムの方向性を示しました。

PDFファイルにて提言書を配布しています。こちらよりダウンロードが可能です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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