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以前読んだ本の感想「写真の秘密」

フランスの作家が幼少期からかかわってきたカメラ、写真に関するエピソードをまとめた本です。著者は、1919年生まれで、コダックが簡易カメラを発売したのが、1888年なので、彼が最初に手にしたカメラ(ベビーボックス)は、ロールフィルムカメラでした。両親が経営していた眼鏡屋の一角に写真スタジオを設置していたこと、父親が写真の現像をしていたことから、幼少期から、写真は身近な存在だった。思春期のころになると、おそらくみようみまねで覚えた現像技術をかわれ、依頼されたフィルムを現像することもしていた。
 写真技術も大きな進歩をとげている時期で、カメラの形態もボックスカメラのような単純なものから、ジャバラでレンズがくりだすようなもの、レフレックス(2眼)など大きく変化しています。
 この本のなかでは、写真技術の詳細について、語られていませんが、著者は、さまざまなカメラをつかって写真を撮っています。ベビーボックス(タバコの箱くらいの大きさ)(127ブロニーフィルムを使用)、アグファ6x9、ツァイス6x9、フォクトレンダー(2眼レフ)、ローライコルト、...
 また、著者の育った環境や経歴についてもほとんど語られていません。少年時代は、その当時、はじまったラジオ放送をきくためのラジオが家になかったこと、のちにラジオの仕事をしていたこと、その後、新聞記者になり、しばらくして作家になったというようなおおざっぱなことしかわかりません。新聞記者時代は、記者とカメラマンは役割が明確にわかれていたので、写真をあきらめざるをえなかったそうです。(1941年末に、フランス歩兵としての兵役が終了(22歳))
 このため、写真技術の変遷、フランスの歴史をある程度わかっていないと、消化不良になってしまいます。また、フランス人には、既知の人なのかもしれませんが、登場人物についても、あまり説明がないので、ちょっと難解な本となっています。
 
 エピソードのなかでも一番印象的なのは、1944年8月のパリ蜂起のとき(25歳のとき)に、写真を撮ってあるいていて、ドイツ兵にみつかり、軽機関銃をつきつけられ、もっていたフォクトレンダー(おそらく2眼レフ)をうばわれたシーンです。その数時間後にも、別のドイツ兵に呼び止められますが、ドイツ語が堪能な人によって助けられます。
 
 写真をとることについては、「相手に写真をあげるということは、その人に敬意を表すことである」、「恋する者たちは、愛する相手から写真をあげるという言質をとりつけたとき、誘惑作成で最初のポイントをゲットしたことになる」と考えている。
 また、ナダールの言葉を引用しています。
「写真の理論など、1時間で覚えられる。写真の基礎知識も1日もあれば学ぶことができる。学ぶことができないのは、光の感覚であり、さまざまな組み合わされた光によって生み出される効果を、芸術的に判断することなのだ。―略―そうしたものを学んではじめて、―略―もっと親しみにあふれ、好意にみちた、親密な似姿が得られるのである。」 
 現在は、デジタルカメラが普及し、おそらくどの機種にもたいてい、全自動モードがついているので、写真記録自体に失敗はあまりないと思います。ただ、芸術的価値をもとめると、上記のようなものが必要になるのでしょう。この部分は学習でその能力が向上するものなのでしょうか、天性のものがあるのでしょうか。
 
 写真アルバムのページをめくるときに悲しくなることがある。それは、どこで撮影されたか、ひどいときは、写っている人がだれだか、おもいだせない、と書いていますが、現在では、撮影時刻はもとより、GPSを利用すれば、撮影地がどこだか、記録することができます。写っている人の特定はむずかしいですが。
 
 知り合いとなった裕福な一族は、昔イーストマンという名前の家庭教師をやとっていたが、その家庭教師が実用的なカメラを発明したので、出資話をもちかけてきたときに、断ったそうだ。その後、イーストマンは別の筋から出資をうけ、あのコダックが誕生したというエピソードものせられています。いま、コダック社は、破産法の適用をうけるかどうかという状況にあるようです。イーストマンが情熱をもってきりひらいたロールフィルムの技術は、現在では、すっかりすたれてしまった感があります。時代の流れをよみ、変化していかないと事業はとだえてしまうのですね。対照的に富士写真フィルムは、デジタルカメラも発売しているし、化粧品の分野にものりだしています。
 
 
写真技術の変遷(参考)
ダゲレオタイプ(1枚だけ作成できる)(1839年に発表された、世界最初の実用写真技法、銀めっきをした銅板などを感光材料としてつかうため日本語では銀板写真ともよばれる)(露光時間は日中で10から20分)(左右反転、1枚しか作成できない、ポジ画像)(改良後は露光時間は1から2分となった)
写真湿板(露光時間が5から15秒)(1枚のネガから何枚でもプリントできる)(ただし、撮影直前にガラス板をぬらして、乾く前に現像する必要がある)(1851年にフレデリック・スコット・アーチャーが発明)
写真乾板(1871年にイギリスの医師マドックスが発明し、1878年には工業生産されるようになった、箱入りで購入し好きなときに現像できるため短期間で写真湿板を駆逐した)(光に感光する銀塩の乳剤を無色透明なガラス板に塗布したもの)
ロールフィルム(ジョージ・イーストマンの発明)(1888年)
 
<著者>ロジェ・グルニエ氏

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