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30回目 "The Island of Missing Trees" を読む Part 3 です。ウクライナの戦争を考えさせられることになりました。ここに描かれたキプロスでの戦乱を参考に。

A)この小説の魅力のひとつはこれです。

サスペンスではないのにこの小説はそれを読み始めた人をストーリーの中に引き込み、読み手を虜にします。それは小説が描く世界、話の展開にかかるその時その時に応じて、起こっていることの本質が何なのか、著者が何故にこのような展開を創作したのかを、この作家は incisive な文章で表現できるからなのです。incisive な文章は至る所に現れます。

incisive の意味: [adjective] (approving) showing clear thought and good understanding of what is important, and the ability to express this (from: Oxford Advanced Learner's Dictionary)


Example 1: "Words cloaked and blurred as much as they revealed and explained."

混乱・動乱の悪化を危惧した母の断固とした望みに強制的にロンドンに居を移した17才のコスタスはラジオに耳を傾けています。1974年、トルコが治安が悪化する一方のキプロスに軍隊を送り込んだのです。

Sick with dread, Kostas tried to find every titbit of information he could, glued to the radio to catch the latest reports. Words cloaked and blurred as much as they revealed and explained: 'invasion', said Greek sources; 'peace operation', said Turkish sources; 'intervention', said the UN.
[和訳]心配で心配で仕方なかったコスタスは、少しでも多くの情報を求めて、事態の新らしい変化を知りたくてラジオに耳を凝らしました。聞こえてくる言葉は、ことのありさまを教えてくれるのですが、同時に不明な、不確かなことがそれと同じほどたくさんあることにも気付かせてくれるのでした。「侵略」とギリシャ側が表現しました。「平和維持の行動」とトルコ側は言いました。「介入」と国連は言ったのでした。

lines 10-14 on page 186 of "The Island of Missing Trees"


Example 2: Truth is a rhizome--an underground plant stem with lateral shoots. You need to dig deep to reach it and, once unearthed, you have to treat it with respect.

建物の真ん中に、その屋根を突き抜けて伸びるイチジクの木があるレストラン「ハッピー・フィグ」。このイチジクの木がここに集まる人々を黙って観察しています。そしてイチジクの木自身の見解、第三者としての見解を読者に開示し楽しませてくれます。

There are two subjects of which humans can never get enough, especially when they have knocked a few back: love and politics. So I have heard plenty stories and scandals about each. Night after night, table after table, diners from all sorts of nationalities plunged into heated debates around me, their voices rising another notch with each glass, the air between them growing thicker. I listened to them with curiosity, but I have formed my own opinions.
What I tell you, therefore, I tell through the prism of my own understanding, undoubtedly. No storyteller is completely objective. But I have always tried to grasp every story through diverse angles, shifting perspectives, conflicting narratives. Truth is a rhizome--an underground plant stem with lateral shoots. You need to dig deep to reach it and, once unearthed, you have to treat it with respect.
[和訳]人間という生き物にとって、いくら議論しようともし尽すことが不可能な話題が二つあります。恋と政治です。彼・彼女たちが一・二杯のお酒を口にした時にはとりわけ、これが当てはまります。そんなことから、この二つの話題に関して数多くの物語・破廉恥な行為の推移を耳にしてきました。この日の夜も次の日の夜も、このテーブルであれその隣のテーブルであれ、あらゆる国籍を有する人々でなるディナーのお客たちは私ことイチジクの木の周りで、席に着くや程なくして議論に盛り上がるのでした。グラス一つを傾ける度にその声は一段一段と大きくなるのです。彼らの間の空気も益々ねばくなります。私は好奇心を一杯にして耳をそばだてました。ただし、私は自分の見解・意見は自分で作り上げるのです。
  ですからして、私がここでお話しするのは私自身のプリズムを通した理解に基づくものです。本当です。私でなくとも話をする人というのは完全に客観的であるなんてありえないのですから。それでも私はいつも、人々の話を様々な視点から把握することに努めています。人々の話はそれぞれその視野を異にしていますし、互いに矛盾を抱えても居ます。真実は地下茎なのです。横方向に芽を伸ばします。地下の根や茎に行き着くには土の中、奥深くまで掘り起こさねばなりません。一旦掘り当てたならば、掘り当てた人はそれを大切に扱わねばなりません(自らの利益に反するからと言って廃棄できません。)

Lines 11-25 on page 189, of "The Island of Missing Trees"


Example 3: A butterfly's skeleton is not inside its body. … in fact, their entire skin is an invisible skeleton, one might say.

英国の支配、島内のトルコ系に人々とギリシャ系の人々との対立、’原理主義的で好戦的な人々の行動に押し流される非政治的な人々。アイランダーズ(キプロスで多民族の混在を当然として命を繋いできた人々)全員がテロや好戦的な人々でなる武装集団による攻撃の応酬、そして1974年にはトルコ軍が進軍して来て戦場になったのでした。25年後の島で惨殺され道端や山の荒れ地に掘られた棚にその行為を隠すように埋め捨てられた人々を掘り起こしその遺族を探しだす作業に精を出す人(デフネ)がふと思いついた島のイメージ、こうだったら少しは良かったかなという思いは次のように表現されます。(このシーンの少し前の段落において、華やかな色の羽根を揺らせて飛び回る蝶にあっては、骨の代替えとして、全身を覆う皮膚細胞がその体躯を支えているという知識が開示されています。)

" … Imagine Cyprus as a huge butterfly! Then we wouldn't have to dig the ground for our missing. We would know we are covered with them."
No matter how many years would pass, Kostas would never forget that image. A butterfly Island. Beautiful. eye-catching, adorned with a splendour of colours, trying to take off into the air and flutter freely across the Mediterranean, but weighed down, each time, by its wings encased in broken bones.
[和訳]「キプロスの島全体を一匹の大きな蝶であると想像してみてはどうでしょう。そしたら私たちこんなに苦労して地面を掘らなくとも行方不明の人々を探すこともなかったのね。骨のような皮膚で私たちが覆われていることになるのですもの。」
   コスタスには、この後何年経とうともこのイメージ(思い付き)を忘れることはないでしょう。それ程強い印象を残したのでした。蝶の島、美しい、目立つ存在、輝かんばかりの沢山の色で飾られた島、大気に向かって浮かび上がりユラユラと地中海の地域一帯を自由に飛び廻るのです。しかし、ことある度に荷重に耐えられず、折れて壊れた骨まがいの殻に包まれ跳び続けることが出来ないで地面・海面に蹲る以外ないのです。

Lind 2-9 on page 220, of "The Island of Missing Trees"


B) Study Notes の無償公開

原本 143-255 ページの部分に対応するStudy Notesを以下に、ダウンロード・ファイルにて公開します。