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夫婦円満の数式


先日、ある人の結婚式に出席した。

結婚式に招待されたのは、何年ぶりだろうか。

結婚式前日の夕方、その彼から電話があった。

「披露宴のスピーチをお願いします!」と言われ、一瞬耳を疑った。

「えっ!結婚式は明日だよね?」

「そうです。」

お互い沈黙。一瞬時が止まった。

その間、僕は思考を巡らせた。

なぜ、もっと早く頼めなかったのか?

それとも頼むのを忘れていたのか?

または、スピーチを頼んだ人が急遽、欠席となったのか?

そして、一つの結論に達した。

そうだ。彼は自然体で、そういう非常識なことをたまに言うことがあった。

僕は非常識と思っても、彼には常識の範疇なのだ。

彼は人には、ないものをもっている。

それが彼の良いところでもあり、好きなところでもあった。

理由はどうであれ、明日は2人を祝う日だから、断ってケチをつけてはいけないと思った。

そう答えを導き出すと、僕は覇気のない声で「分かりました」と承諾し、彼は「有難うございます。よろしくお願いします!」と張りのある声で返した。

電話を切り、しばらく熟考した。それから脆弱な脳が、チャットGPTを活用することを提案してくれた。

あとはそれに、彼のエピソードと夫婦円満の秘訣話をつけ足せば出来上がる。

パソコンに向かって途中寝落ちしながら、1時間を要して、明日のスピーチは頭の中で完成した。

そして、ある重大なことに気がついた。


明日は偶然にも、僕たちの結婚記念日であった。

彼から間際に頼まれたスピーチも、なにか因縁じみたものを感じた。


そして結婚式当日。僕たちの時と同じように、神様がふたりを祝福しているような、清々しい真っ青な晴天であった。

披露宴が開宴となり、幸せそうに高砂に座る二人を見ていると、23年前と重なり、脳裏にその時の光景が甦った。

あの日の私たちも、衣装がよく似合っていた。(と思う。)

今では、二人とも同じサイズは、とても着れないだろう。

主賓のスピーチを思い出した。
今でも覚えていたことに、少し驚いた。
風呂敷の話だった。

風呂敷はどんな形のものでも、包むことが出来る。どんな人や事柄に対しても風呂敷のように柔らかく優しく包みこむような、お互いになってもらいたい。そんな内容だった。


あの時の喜びに満ちた、様々な感情が想い出され、今の自分を振り返ってみた。


新婚のときのような、愛情の炎をいつまでも燃やし続けることは難しい。

妻に対して日頃の自身の言動を顧みて、少し反省した。

夫婦は相手の良いところを、いつも心に秘めておくことが大切だ。

どんな人でも探せば、自分にはない良いところが一つや二つはあるものだと思う。

結婚してから経年し、今はお互い空気みたいな同化した存在のようでもある。

それがいいのか。悪いのかは、あまり深く考えないようにしている。


さて、タイトルの夫婦円満の数式だが、今の時代は夫婦、パートナーとしての色々な考え方や価値観があるので、不快に思われたら、ご容赦願いたい。

夫婦円満の数式 夫+妻=1

一回の出産に普通は、一人の赤ちゃんを授かるように、夫婦は二人を足して『1』

半人前同士が補いあって、『1』となる

男女は、身体、性質、徳分が違う。もって生まれたものが元々違うから、相手と比べようとするとズレが生じる。

共働きの夫婦で自分の方が稼いでいるからと、威張っていたら、きっと上手くはいかないだろう。

人は周りと比べたがるが、夫婦はどんなときも平等であり、比べる対象ではないと思う。

また、よく芸能人が離婚すると「性格の不一致」「価値観の違い」などと言っていることを耳にするが、それまで、二人が歩んできた経験値や生活環境などが違うのだから、性格や価値観が違うのは当然のことである。

お互いが、相手に合わせる努力をすることが大切であって、足りないところは、補いあって『 1 』にしていくものだと思う。そうありたい。

しかし、自分が一番正しいと思いたく、自分のことが一番可愛いと思うから、夫婦円満の数式を間違ってしまう。


さて、披露宴で主賓のスピーチが終わり、少し歓談となったあと、僕のスピーチの番が回ってきた。

みんないい感じに酔いがまわって、会場は騒がしい。僕の話に耳を傾けようとしているのは、新郎新婦だけである。

僕はその無垢なふたりに、チャットGPTが考えてくれた、ありきたりの言葉と彼とのエピソードを述べたあと、

二つ一つが天の理

夫婦も二つ一つ

自分は足りない人間だと自覚して、相手を尊重していれば、だいたい上手くいくと述べた。

そして最後に、「今日は私たち夫婦の結婚記念日なので、この日に結ばれた夫婦は、統計上、だいたい上手くいく」といいかげんなことを言って、スピーチのつとめを果たした。


和やかな雰囲気の余韻が残る中、披露宴はお開きとなり、僕は会場をあとにした。

7月の太陽がギラギラと照らす中、歩きながらネクタイを外して、駅へと足早に向った。

今日は結婚記念日。妻の好きなスイーツを駅前で購入し、喜ぶ姿を想像しながら帰路を急いだ。


自分の誕生日は忘れても、結婚記念日だけは忘れてはいけないものだと思う。

いつまでもその日をふたり仲良く、迎えられるように、二つ一つで助けあって、その努力を惜しまないようにしたい。

ふたりが初心にかえる日。希望に満ち、輝いていたあの頃に。

ー了ー


最後までお読み下さり、有難うございました🙇

※画像はZenpakuさまの鶴岡八幡宮で撮影されたものを使用させて頂きました。
御礼申し上げます。





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