AIR/エア(ベン・アフレック、2023)

80年代音楽映画。スプリングスティーンが反発を明言するにもかかわらずあのアホを象徴する曲になってしまったBorn in the U.S.A. は、日曜出勤したベイトマンの口を借りて異なる容貌を示す。ベトナム戦争の暗い記憶であると。その記憶が流れる中、エンド・クレジットでMJと抱き合う大統領は民主党かつアフリカ系初のその人である。

プレーヤーをいかに説得するか。デイモンは他社との差別化はもちろん自分たちの作戦すら捨てて、「真実」を話す。大衆は持ち上げるだけ持ち上げてあとは叩きまくるのだ。やはりバスケ通のコンビニ店員は訳知り顔で「最初から推してたぜ」というだろう。しかしデイモンはお前はいつか落ちる、でもシューズを作ればその名を残せると訴えてやまない。
不思議なことに応答するMJその人は顔を見せない。記録映像は連発されるというのにフィクションとしては登場しないのだ(ところでこれは実話もののイーストウッド映画のそれに近い)。
だから少なくとも劇中でのデイモンの動機は同僚すら一発では説得できないビデオのあいまいな試合映像だけで、観客の信を成立させるのはあくまでわれわれ観客のなかにあるMJにかんするイメージに限られる。スピルバーグ『リンカーン』の修正憲法に懸けられる思いばりに微妙な動機であろう。
併せて試合がメインとなる場面も一切ない。たとえあってもオープニングのように、それを視察するデイモンが主である。ゆえに運動に欠ける。ゆえに会話シーンが増える。ゆえに顔面の切り返しが増える。ゆえに賭け金は俳優の演技になる。まだ顔続く?と思わぬではなかったが、全篇で最も寄ったサイズである、裏庭でジョーダン・ママと話すデイモンのGreatnessには胸打たれた。

ベンアフは当代一のスーツ男ではないか。はじめて出てきた逆光気味のバック・ショット、素晴らしかった。撮影はQTのロバート・リチャードソン。

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