見出し画像

読書記録 私を離さないで

 学生時代、夢中になってこの本にのめり込んだ。この本を読んで、自分の感性が豊かになった気もする。
 みんなにぜひ、この本を読んでほしい。

  ※以下、微弱なネタバレが含まれます。未読の方にも気にならない程度に留めたつもりです。どうしても嫌な方はすぐにアマゾンの購入リンクへどうぞ。

 穏やかな日常や、青春の一ページを切り取ったような日々を描いてはいるけども、実際は穏やかな日常とは縁遠い世界。幸せとは何か、人生とは何かを描いた作品。

 主人公がその半生を読者に丁寧に語り掛けるかたち。淡々と進み、無機質で冷たく、時に感じる暖かさが恐ろしい。最後まで何かに抑圧されたような文章が印象的。

 徐々に明らかになるキャシー達のレゾンデートル。皆が大切に大切にする宝箱の意義。キャシーが「わたしを離さないで」を一人踊っていた理由。どこか余所余所しい文体がそれらのものかなしさを際立たせる。


 幼少期には明かされない、特別な使命をもった子供たち。外界から隔絶された施設で子供時代を静かに過ごす。彼らに少しでも人間的幸せをと、尽力してくれた先生方でさえ嫌悪感を隠し切れなかった。人間の人権は用意するべきものなのか。用意〝される″ものなのか。

 もしも自分の人生がすべて決まっていたら?生まれた瞬間から生き様も死に様も定まっているとしたら?絶望するだろうか?それとも与えられた「生」を謳歌するだろうか?

 答えられない命の問いかけ。彼らは自分の人生を信じて疑わない、「未来」や「可能性」は存在するのだと。主人公たちはいずれ来る「提供」を知っているにも拘らず、迫りくる運命に反旗を翻すことはない。
 
「だから何だよ。そんなこと、とっくに知ってたじゃん。」

物語が残酷に映るのは、彼らが特別な存在と認識していながら、彼らの人間らしさを目の当たりにするからだろう。心霊現象が起きるわけでも、怪物も登場しない。しかし、この世界は愛せなく苦く怖い存在と認識してしまう。

使命について、ずっと昔からそう育てられたからか、誰も何も疑問に思わない幼年期。結局のところ人間は育てられたようにしか生きれらないのか。主人公たちは為るべくして犠牲になり、その命は当たり前のように消費される。「…三年間の猶予をもらったんですって。三年間を1秒残らず自分のために使えたんですって。」

物語のラスト、すべてを受け入れ切ったキャシーはどこへいくのだろう。Never Let Me Go 枕を抱きしめ踊る彼女が木霊する。


この記事が参加している募集

#読書感想文

186,833件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?