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刀ミュ「結びの響、始まりの音」

dアニメストア、アニメだけではなくて2.5次元コンテンツもいろいろと配信していて、私には欠かせないものになっています。
月額料金だけで刀ミュも他のアニメもたくさん見れるなんて、契約切れるわけないじゃん!
そして8月から刀ミュのコンテンツが2作追加になりました。
2018年に公演のあった「結びの響、始まりの音」と「阿津賀志山異聞2018 巴里」です。
サントラで「結びの響、始まりの音」を先行して聞きまくっていた身としては待望の配信です。阿津賀志山異聞パリ公演はまたいずれ見ます。

以下、ネタバレを含むレビューになります。







「結びの響、始まりの音」は2016年に公演した「幕末天狼傳」に続くストーリーです。
(「幕末天狼傳」見たのにレビュー書いていないことに今気が付きました)

「幕末天狼傳」では新選組にゆかりのある刀剣男士をメインにしたストーリー。
『長曽祢虎徹』は近藤勇、『和泉守兼定』と『堀川国広』は土方歳三、『加州清光』『大和守安定』は沖田総司が使っていました。
『蜂須賀虎徹』は新選組に関する刀剣ではありませんが、『長曽祢虎徹』という虎徹の贋作と兄弟扱いされていることに嫌悪感を抱いている刀剣。蜂須賀家で家宝として実戦ではなく飾られていた刀剣です。
「幕末天狼傳」は新選組の要である近藤勇、土方歳三、沖田総司の絆を描いた、辛くて悲しいストーリーでした。
大げさではなく、涙が止まらない作品です。

「結びの響、始まりの音」の編成は『長曽祢虎徹』『和泉守兼定』『堀川国広』『大和守安定』の新選組の刀剣、これに加えて坂本龍馬の死に際に共にあった『陸奥守吉行』、巴形薙刀の集合体であり固有の逸話を持たない『巴形薙刀』。

そして敵である歴史修正主義者である時間遡行軍の目的は【土方歳三を箱館戦争以降も生かすこと】であり、つまり刀剣男士の役目は【土方歳三を史実通りに箱館戦争で殺すこと】ということ。
箱館戦争は戊辰戦争のひとつの戦いですが、戊辰戦争とは武士の最後の戦いであり、刀の時代の終わりとなる戦いでもあります。
刀剣男士にとっては、とても意味のある戦です。

元の主である土方歳三への強い思いを抱いている和泉守兼定は、刀剣男士としての役割と元の主への愛着のために葛藤するのが目に見えています。
そしてそれを見越して、和泉守兼定(兼さん)の相棒で助手であると明言する堀川国広が、兼さんの気持ちを先回りして一人で土方歳三を暗殺しようと目論見ます。
堀川くんの行動がもし果たされた場合、実のところ歴史が狂ってしまうことになります。
実のところ、堀川くんの行動起点は兼さんであることが多いです。兼さんのために暴走しがちで、無意識かもしれないけど堀川くんもここで歴史を狂わせようとする行動をしていたのです。

土方陣営に深く潜入していた時間遡行軍に捕まってしまい、他の5振が堀川くんを助けるために土方さんに直談判します。
直接話しをするのは近藤勇の愛刀だった長曽祢さん。長曽祢さんは立ち居振る舞いが近藤さんにそっくりで、土方さんはそこに近藤さんを見たのかもしれません。また大和守安定の顔を見て「兄弟はいるか?」と尋ねたことから、沖田くんのことを思い出したかもしれません。

土方さんは長曽祢さんの求めに応じて堀川くんを解放しますが、潜入していた時間遡行軍が襲ってきます。しかし時間遡行軍はあくまで潜入部隊で、この時は土方さんがいわば上司ということになります。土方さんの言う通りに引き下がります。ここでお詫びに宴会をしようということで、その場は飲めや歌えやの大騒ぎ。
そこにいた刀剣男士も新選組隊士も、無表情でロボットのような動きをする時間遡行軍までも酔っ払う始末です。

非常にコミカルな場面で歌われたのは「幕末天狼傳」で長曽祢さんが歌った民謡「かっぽれ」をベースにした曲。
この曲の歌詞を変えたのを土方さんと長曽祢さんが歌い上げるのですが、なぜこんなに早く意気投合してしまったかといえば、きっと在りし日に近藤さんと土方さんは「かっぽれ」で大騒ぎをし、そこに長曽祢さんもいたからではないでしょうか。
そして「かっぽれ」の次に手を上げたのは陸奥守吉行(通称むっちゃん)。
むっちゃんが歌ったのは「かっぽれ」と「よさこい節」を混ぜた曲。
彼の元の主は坂本龍馬で、坂本龍馬の豪放磊落で細やかなところを引き継いだのが陸奥守吉行という刀剣男士。
近藤勇も豪放磊落で細やかなところまで行き届くような男だったという話もあり、坂本龍馬と似たところがあるのではないかと、この作中でも言われています。
だからむっちゃんの歌う宴会の歌が「かっぽれ」に似ているのかもしれません。

「幕末天狼傳」で大和守安定が新選組に潜入し、しかしその時には沖田くんと話をしてはならない、という約束事がありました。
しかし今回は流れで土方さんと酒を飲み、見知った仲になってしまいます。
そして兼さんは苦しみが増し、ついに土方さんに聞いてしまいます。
「もしも元の主を斬れと言われたら、土方さんならどうする?」
何も知らない土方さんは、それが誰のことを指しているのか知るわけがありません。

土方さんは近藤さんのために鬼の副長となりました。
土方さんの誰かのために尽くす生き方を引き継いだのが堀川くんだったんですね。
堀川くんの行動起点は兼さんであり、兼さんのためなら元の主である土方さんを殺すことも厭わなかった。
体は小さいけど、堀川くんは刀剣男士である覚悟が兼さんに上回っていたのではないでしょうか。

兼さんは最後まで悩みます。
時間遡行軍の思惑通りになった場合、土方さんを自分たちの手で殺さなければなりません。
目の前で死ぬのを見るか、または殺すか。
前の出陣で陸奥守吉行と坂本龍馬の最後に立ち会った時、陸奥守吉行はそんな時でもあっけらかんとしていた。
歴史を狂わせてでも元の主を助けたいとか、暗殺されて慟哭するとか、そんなこともしない陸奥守吉行へ腹立たしさを抱えている兼さん。
兼さんはむっちゃんのことが理解できません。

一方、土方さんは榎本武揚と出会い、蝦夷の地へ行きます。
榎本さんは広範囲な知識を持ち、外国語もお手の物。
「さてはおまえ、ただの天才だな!?」なんて土方さんも言ってしまいます。
実際、榎本さんを演じた藤田さんはフランス語が堪能で、舞台上でも流暢なフランス語を披露。
「s'il vous plaît(シルブプレ)」と榎本さんが言っても「なんだよ、“汁粉くれ”って」なんていうコミカルな場面がありますが、次第に土方さんは榎本さんに近藤さんを重ねていきます。
箱館戦争で戦地に向かおうとした時、一緒に行こうとする榎本さんを気絶させてまで止めます。
近藤さんを守りきれなかった代わりに、今度は榎本さんを守ろうとしたのですね。

そしてこの日は歴史上では土方さんが死ぬ日です。
つまり最終決戦。兼さんは土方さんを歴史通りに死に至らしめないとなりません。
歴史が狂おうとしていました。
土方さんを追い詰めた兼さんは土方さんの首を斬ろうと刀を振り上げます。
しかしやっぱり斬れません。
逃げる土方さん。
歴史上には実は土方歳三生存説があります。
刀ミュは以前“源義経=チンギス・ハーン説”を取ったこともあるので、もしかしたら今回も生存説を取るのではないかと過ぎりました。
しかし違いました。
坂本龍馬のように拳銃も使う陸奥守吉行。彼の銃が土方さんを撃ったのでした。
史実では土方さんは射殺されています。史実通りに土方さんは銃殺された、ということになったのでした。
正しく、任務は遂行されたということになります。

むっちゃんは確かに刀剣男士として坂本龍馬の暗殺に立ち会っても涙一つ流しませんでした。
けど実際はもうとっくの昔に涙が枯れ果ててしまっていたのです。
だから兼さんの気持ちも痛いほど分かる。
そして今は、かつての主のために、かつての主の生きた人生を守るためにも、今の役割を全うしようと決めているのでした。
最後、土方さんに銃を向けた時の陸奥守吉行の顔は、役目だからと割り切ったものではなく、苦しみで押し潰されそうな表情をしていました。


今回、いつもと違って時間遡行軍にも焦点が当てられました。
時間遡行軍というのは何か、というのに対して「物語を持たない刀の成れの果て」という考えが提示されました。
しかし土方さんのもとにいることで、酒を飲み、無防備な姿を晒し、彼らもまた主を持ち、ひとつの物語を得てしまったのです。
初めこそ歴史を修正するという役割から土方さんを死なないようにしようとしていましたが、次第に自分の意志で土方さんを殺されないようにしていたかもしれません。それこそ歴史修正主義者らしく。

物語を持たないはずのものに物語を持たせてしまったのは、巴形薙刀にも通じるところがあります。
巴さんは何をもって歴史修正主義者と戦うのか。
それこそ新選組の歴史を知らないような子供のようであり、物語を持つ刀剣男士たちのような大義もない。
それでも巴さんは物語がないことを前向きに捉えていて、そこが時間遡行軍との違いなのかもしれないと思うのです。
巴さんというキャラクターは、解釈をするには難しいキャラクターと思っていましたが、刀ミュの巴さんへのアプローチはとても参考になりました。

長々と真面目なレビューを書いてしまいましたが、最後にこれだけは書かせてください。

この作品の土方さんはかつてないほどカッコいいぞ。

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