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note×日経電子版で「個人の前向きな発信を促し、デジタルメディアの明るい未来を築く」

2018年8月3日、noteとcakesを運営する株式会社ピースオブケイクは、日本経済新聞社と資本業務提携を発表しました。今回の提携を受けて、日本経済新聞社の常務取締役 デジタル事業担当の渡辺洋之さんと、ピースオブケイクの代表取締役CEO・加藤貞顕と、CXO深津貴之で鼎談を実施。後編は、今後一緒に実現したいこと、デジタルメディアの未来について語り合いました。

違う視点が交わる、クリエイティブなコミュニティを

—中長期な視点で一緒に取り組みたいことについて教えてください。

深津 noteと日経電子版、ふたつのユーザー層を組み合わせて、リアルとバーチャルをつなぐ取り組みはしていきたいですね。最初はセミナーやイベントから始めて、ゆくゆくは、いわゆるフォーマルなビジネスパーソンと若くて勢いのある若手の経営者やデザイナーが直接つながって意見交換ができるような場が生まれるといいなと思っています。パリ発祥の社交という意味を持つ、本来の意味でのサロン的なものです。

加藤 さまざまな興味分野のひとびとが、インターネットでつながって、コミュニティをつくって、リアルな場でイベントを開催するというのは、もともとnote単独でも試しつつあるけれど、日経さんとご一緒できれば、いい化学反応が起き、よりおもしろいものになると思います。

渡辺 いろいろなかたちで試してみたいですね。同質的な人たちだけでマニアックなことを語るのもいいのですが、さまざまな分野で、異なる思考を持つ人たちが同じ場所に集まって意見交換ができると、よりクリエイティブなコミュニティが生まれます。我々はそのための種を蒔いていきたい。具体的にどういうかたちになっていくかも含めて、今から楽しみです。

加藤 一般的に、クリエイターというのは、なにかひとつに絞って、とがればとがるほど、おもしろくなりやすい。だからこそ新しいものがつくれて、人気の種が生まれるわけですが、難しいのは、それだけをずっとやっていると行き詰まってしまいます。ものづくりを長く継続していくためには、ほかの人々、つまり社会とつながる必要があります。その接点を日経さんと一緒に広げていければなと思っています。

たとえばnoteのクリエイターには、サッカーのドリブルを分析して類型化し、日本代表選手にも指導しているドリブルの達人がいます。ドリブルデザイナー・岡部将和さんというかたなんですが、その仕事の取り組み方は、ビジネスマンからみても一流だと思うんです。プロゲーマーの梅原大吾さんが書いた『勝ち続ける意志力』という本がビジネスマンにも人気ですが、それと同じように、一見まったく違うジャンルの人同士が交わることで、新たな視点が得られるということは大いにあると思います。

それまで触れたことのないコンテンツに触れ、多様性が広がる

― 今回の提携で、日経電子版とnoteのユーザーにもたらされるメリットとは?

加藤 noteで活躍するクリエイターにとっては、たとえば日経の本誌や電子版の記事に登場したり、日経主催のイベントに登壇したり、活躍の場所がnote以外に広がっていくことになります。noteを読む人たちにとっては、たとえば日経さんに寄稿している経済エコノミストやなどプロフェッショナルな書き手の文章がnoteで読めるかもしれない。noteを通じて、日経のコンテンツ世界への新たな接点が生まれることは、ユーザーにとってのメリットだと思います。

深津 日経の読者からすれば、今まで見たことも聞いたこともないような斬新な言論や勢いのある若手に触れることで、いつもとは違う角度から物事を思考できるかもしれません。

加藤 そうですね。noteではベンチャーの経営者やインフルエンサーなど、さまざまな視点を持ったひとびとが自分の考えを書いています。日経新聞の「私の履歴書」がおもしろいと思えるビジネスマンにも、そういう文章は「刺さる」内容だと思います。

深津 逆にnoteを通じて、日経新聞の記者や経済界で活躍する人たちの生の声が聞けたらいいですよね。ほかにも日経BP社から出版されている本がnoteで試し読みができて、1章を読んでおもしろいと思った人が実際の本を買うという流れもつくれるでしょう。

それまで触れたことのないコンテンツに出会い、多様性が広がっていくことは、双方のユーザーにとってのメリットになると思います。

加藤 出版社の書籍の内容をcakesやnoteに掲載して、本が売れるようになるという流れは、『嫌われる勇気』『ゼロ』『マチネの終わりに』など、すでにたくさんの実績があります。コンテンツを流通する場所が双方に増えるというのは、お互いのコンテンツをより広く届ける可能性が高まります。

渡辺 まったく違うものの見方を知ると、人々は話したくなると思うんです。「私はこう思う」という気持ちを発露してほしい。おもしろいものは私たちも取り上げていきたいと思っていますから、メディアの展開力の大きさを体験できるかもしれません。お互いの媒体でまったく異なるコンテンツに触れて、喋りたくなって、書いてみたら、それぞれの媒体で展開される。読者にとっても、そういういい循環が生まれたらおもしろいと思います。

個人発信で、エンジニアに続く、会社員のスターを生む

深津 もうひとつ、おもしろくなるかもしれないと思っているのは、企業に務める人たちの発信が増えていくのではないかということです。これまでは、経営者やデザイナーといった特定の肩書の人ばかりが発信していましたが、最近はZOZOTOWNの田端信太郎さんを筆頭に、IT業界では、会社に所属しながらも自分の意見を発信する人が増えています。その裾野は今後、IT業界以外にも広がっていくでしょう。

加藤 雇用の流動性が低く、現状維持バイアスが強い業界においては、個人が発信しにくいという現状はまだありますよね。でも、IT業界などの流動性が高い業界は個人が発信することが当たり前になってきています。すごくいい流れですよね。

たとえば、エンジニアの転職は野球選手のフリーエージェントのようなものなんです。ネットでフリー宣言をした瞬間にスカウトが来たりする。最近、弊社に転職してきたエンジニアのnoteが業界でも話題になったりするんですが、つまり彼らは、ぼくら経営者よりも立場が強いんです。彼らに気持ちよく働いてもらうためには、ぼくたちは、彼らが意義を感じて、おもしろい思える仕事や、働きやすい環境をつくっていかなくてはいけない。

IT以外の分野でも、雇用の流動性が高まれば、そういう雰囲気がほかの業界・職種にも広がっていくと思いますし、そうなればなるほど、自ら発信する人たちが増えていくでしょう。鶏が先か、卵が先か、という話にはなりますが。

深津 現状は、大企業に務める人たちが情報発信をするうえでのサクセスストーリーがないのが課題ですね。今は実名で発信をしたら炎上したり、会社を辞めさせられたりといった、ネガティブな事例が目に付きます。

会社に所属する個人が発信した内容がnoteや日経に取り上げられて、そのひとがイベントに登壇する。そして、仕事でも大きな成果がでる。そんなサクセスストーリーが生まれてくると、発信するプレイヤーが増えてくると思います。できればこの座組みで、そういう最初のスターを生み出したいですね。

加藤 それは日経さんとだからこそできることですよね。僕らだけではどうしても、ベンチャーやデザイン業界など、分野が限られてしまいがちになる。海外も含め、ここ10年ほどで、ITベンチャーに求められるエンジニアは、発信すればするほど労働環境がよくなってきました。それは本人のためだけではなく、業界のためにもなるので、いろんな会社・業種に広がっていくのはすばらしいことです。日経さんとぼくらが組むことで、社会を前に進めることができる。そんなことが実現できるといいですね。

インターネットで、ポジティブなコミュニケーションを加速させる

渡辺 その座組みができれば、人をディスるのではなく、自分自身の前向きなことを書く人が増えていくかもしれませんね。noteには、前向きな発信をしていれば、見つけてくれて、育ててくれる雰囲気があります。だからこそ、信じて書いてみたいと思える。

加藤 noteを前向きな場所にすることは、じつはかなり意識しています。インターネットは、ページビューで広告料を稼ぐという仕組みが最初に普及したので、ほおっておくと殺伐としがちです。noteは、広告モデルではありませんし、煽った課金をしにくいように設計されていて、noteを読んでくれた人から支援を得るという前向きな仕組みです。役立つこと・おもしろいこと・すてきなことを書いて支持してもらうという文化を育んでいます。

深津 2006年に梅田望夫さんは『ウェブ進化論』のなかで、「知の高速道路」「ポジティブな意見が生まれる場所」としてインターネットについて語っています。その後の10年で、どうやら放おっておくとそうはならないらしいというのがわかってきたので、僕らは『ウェブ進化論』思想を継承して、その世界観を再設計したい。

加藤 インターネットは、人間のコミュニケーションを、良くも悪くも加速する装置です。ぼくらはせっかくだからいい方向へ加速させていきたいと思っています。その意味で、日経電子版は、インターネット上にポジティブな流れをつくられているので、一緒にさらにいい流れをつくっていきたいです。

渡辺 正しい知識の交換が行われれば、ビジネス業界の全体のレビューを上げることもできる。我々はそう信じて、インターネットのダークサイドではなく、いい側面を最大限引き出すにはどうすればいいかを考えて、試行錯誤しています。その価値観は一致している。新しいものを生み出し、インターネット、デジタルメディアの明るい未来を一緒につくっていきたい。今回の提携を通じて、そういうポジティブな流れに大いに期待しているし、それができると信じています。


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