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モンテッソーリ教育は大人にも使える

仕事上でちょっとしたきっかけがあり、「モンテッソーリ教育」の入門的な本を一冊読んでみた。

藤崎達宏 著
『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』
三笠書房[2017.11.10]

だいぶ前から名前は知っていて、なんとなく、こどもの自発性を大切にして能力を伸ばす教育方法という程度の理解だった。しかし体系的に内容を知ったのは初めてで、それでタイトルのように「これは大人にも使える」と思った。
モンテッソーリ教育をもうちょっと正確に(ほぼ)一言で言うと、

子どもが自分の力で自分を育てる「自己教育力」を信じ、援助することにより、「自立」と「自律」を促す教育

前掲書p22

だそうである。

敏感期

モンテッソーリ教育の重要な概念の一つに「敏感期」というものがあるが、その意味は次の通りである。

「敏感期」とは、
子どもが、何かに強く興味を持ち、集中して同じことを繰り返す、ある限定された時期

前掲書p40、改行はわたし

敏感期は、「生きていくのに必要な能力を獲得するために、あるものに特別“敏感”になる時期」(p41)であり、「子どもは自分の成長の課題を本能的に知り、自分で選択して、やり遂げ」(p198)る。しかもそれは、「自分のためであり、なにも大人にほめられたくて活動したわけではない。」(p198)

周りの大人、特に親は、この敏感期の活動を邪魔しないことが重要だそうだ。
これは組織開発の理論でよく言われる、「マネジメント層は従業員の自発性を支援し、行動の障害となっている要因を取り除くべきだ」のような主張と瓜二つだ。ちなみにこれは、コッターの8段階のプロセスの5つ目「従業員の自発性を促す」の内容である(コッター 著、梅津佑良 訳『企業変革力』目次より)。この理論は社内向けのブランディング、インナーブランディング(またはインターナルブランディング)の方法としてしばしば参照される。

秩序の敏感期

敏感期には「秩序の敏感期」というものがあり、この時期の子どもは、「いつものやり方、いつもの場所、いつもの順序などに強くこだわる」(p79)。「「順序」「習慣」「場所」の3つ」(p81)に強いこだわりをもつようになる。0~4歳で発現し、2歳半~3歳でピークを迎える。

言うまでもなくこの敏感期は、仕事を型化する能力の獲得に寄与している。同時にこの傾向は、「現状満足」という負の行動としても現れる。言い換えれば、必要なはずの変化をも好まず、いつものやり方に執着するという傾向だ。これまた組織開発の理論でよくやり玉に上げられるものである。上述のコッターの理論では、この惰性を打破するために、1つ目のプロセス「危機意識を生みだせ」がある。

「順序」「習慣」「場所」の3つ」の観点で行動を定型化すれば、わかりやすく実践しやすく、失敗しづらいルーテインができるだろう。

感覚の敏感期

3歳になると、私たち大人と同じ意識的記憶を使いながら、その莫大な情報を整理したいという、強い衝動にかられるようになります。そのときのキーワードは、
はっきり、くっきり、すっきり理解したい」、です。

『モンテッソーリ教育で子どもの本当の力を引き出す!』p110

この敏感期には同一性、比較、分類の3つの段階がある。
第一の「同一性」の段階では、異なる対象の間に同じ特徴を見出すと「しつこいくらいに「おんなじだね~」と言ってくる」(p112)。
第二の「比較」の段階では、高さ、大きさ、重さ、音程などを比較してその差にこだわる。
第三の「分類」の段階では、たとえば「丸いドングリは右のポケットに、長細いドングリは左のポケットに入れるなど、分けるという行動をとる」。

これは大人が企画書を作る時にこだわる点と同じだ。同じ内容は資料の同じ箇所に書いていないと気持ちが悪いし(あるテーマの説明を資料の1ページ目で始め、全然別のテーマを10ページくらい続けた後、最初のテーマの説明の続きを書き出したら、ものすごく違和感があるはずだ)、選択肢を必要な予算と同時に表にまとめたりする時には、その選択肢の特徴や予算の高低など何らかの軸に沿って並んでいないと気持ち悪い。

「自己肯定感」と「社会に対する肯定感」

この本の著者は、子育てに一番大切なものは「「自己肯定感」「社会に対する肯定感」」(p174)であり、「この二つさえあれば、人は生きていける」(p175)と言う。(正しいと思うが、僕自身はそこまで言い切る自信はない。まだまだ人間としての年季が足りないのであろう。)
モンテッソーリ教育はこの二つを子どもに身に着けさせるのに適している。

かといって、「過剰にほめるようなこと」はしてはいけないそうである(p198)。

大切なことは「認める」ことです。
(中略)
「見ていたよ、一人でできたね!」「最後までがんっばったね!」と認めてあげるだけでいいのです。
過剰な拍手も、歓声も不要。

前掲書p200

さらに成長サイクルの加速につながるのが、「共感」です。「認める」の最上級が「共感」、つまり相手の人格を認めて、その心に寄り添うのです。
(中略)
「一人でできたことがえらいことなんだ。そのことを見守ってくれる人がいて、自分のがんばりを喜んでくれる人がいる」。これが、「社会に対する肯定感」を育てる源にもなります。

前掲書p202~203


これは「ポジティブフィードバック」の考え方と通底している。


まとめ

モンテッソーリ教育は大人にも使える、ということは、よく考えれば当たり前のことかもしれない。

というのは、幼児だって人間である。幼児の本能が大人の本能と違っているとしたら、むしろそのほうが変だ。(ただし発達には段階があるから、子どもには表れない本能がある。たとえば歯の生えていない乳児には、固形の食べ物に対する食欲はないし、性徴が現われる前の子どもには性欲はないだろう。)

しかし、大人は本能以外のものをたくさん身に着けてしまっているので、言動が複雑になり、本能がどのように現れているのかわかりにくくなる。しばしば自分でもわからないくらいである。

以前ある経営者が、「社長になる前に子育てをやっておいて本当に良かった。会社を育てることは子供を育てるのと似ている」と語っていた。その気持ちが以前よりもちょっとよく分かった気がする。

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