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シルバーピンクの髪で元生徒たちに会いに行って来ました。


教師を辞めたときにできてしまった最大の心残りがあって、それは生徒にちゃんとさよならを言えなかったことだった。

勤めていた学校に離任式がなく、校長の方針も「教師たるもの辞めるときまで教師であるべき。だから去るときは無言でいる」というものだったため、別れを言えたのは部活の生徒数人だった。

だから今日、元職場の文化祭に行ってきた。

ただ、恐れていることがひとつだけあって、それは自分の髪色が現在シルバーピンクだということ。
校則の厳しい学校だったから、生徒から髪染めてるのずるいって思われたり、「先生のイメージじゃない」と思われたり、とにかく生徒からマイナスに思われそうだなと思った。
だから、最初は黒髪のウイッグを被ってメイクも薄めで裸眼で……と考えていた。

でもそれ、意味あるの?

途中で思い至って、姿を偽って大人しい服装で行くのは辞めにした。
だって、髪を3回ブリーチしようが耳に7個穴が開いてようがメイクを派手にしようがカラコンをしようが、「生徒に会いたい」と思うわたしの気持ちが変化するわけじゃないのだ。
姿が変わっても本質が変わらないのなら、見た目を偽るのは逆に不誠実だとすら思った。

ただ、他の先生方や職場には迷惑かもしれないので、なるべくひっそりと存在していよう……と思っていた。


が、しかし。

入場して2メートルも進まないうちに元教え子に見つかり、あっという間に10名以上に取り囲まれ、JKたちは口々に「髪色かわいい!」「今なにしてるの!?」「会いたかった!」「まず写真撮らせて」と言い出して、大騒ぎになってしまった。
びっくりした。
まず、見つけるの早すぎ、という点。
髪色が不評どころか好評な点。

見つからずにひっそりと生徒の活躍を見守ろうというわたしの計画と、歓迎されないだろうなという予想が2秒でひっくり返った。
でも、そのことが嬉しかった。
半年間会えなかった時間が嘘みたいに巻き戻った。


「大学合格したよ!」
うん、よかったね、おめでとう。
心配してたから安心したよ。

「先生のインスタおしえてよ」
やだよ、自力で探してがんばって!

「連絡先知りたいっす」
手紙ならいいよ。

「いま先生なにしてるの?」
IT企業でOLしてるよ。
「かっこいい!すご!さすがじゃん!」
ありがと、かっこいいって言われるとは思わなかったな。

「うちのクラストッポギ作ってるから来て!」
OK、絶対に行く。

「うちのクラスのも食べに来て!」
いやさっき買ったわ!
「もう1回!」
仕方ないなぁ……

「ゆめちゃーん!」
先生つけなさいね、もう先生じゃないけど

「その髪色いいな、俺もそれしたい」
卒業したらいくらでもやりな、自己責任の自由は最高だよ

「バンドの演奏見てくれてたの気づいたよ!」
手振られてびっくりしたよ、去年より上手くなってたね。

「先生今年は歌わないの?」
ここの先生じゃないから歌えないね……

「なんでいなくなっちゃったの?」
ごめんね、わたしも辞めたくなかったけどね

「会いたかったよ!結婚しよ!」
女同士は日本じゃ難しいから海外だね……

「先生の授業また受けたい!」
めっちゃ嬉しい、みんなと授業やりたいね

「先生帰らないで!まだいて!」
いやもう終了時間だし……帰らないと……
「ダメ!写真撮ろ!」
うーん……1枚だけね……?
「先生わたしも!」
だから帰らなきゃって、、
「明日は来る!?」
明日は用事あるんだ……。
「えー!来てほしい!」
ね、もうほら帰んないと校門閉じられちゃうからね、またどこかでね、元気でね

……

…………

……………………


帰り道、行ってよかったなと思った。
シンプルに、ほんとうに。

正直、トラウマの残る場所に行くのは少し怖かった。辞めてから髪色やメイクなどの容姿の変化した自分が受け容れられるかも分からなくて、それも怖かった。
だけど、生徒はみんな変わっていなかった。
いや、ちょっとだけ大人になっていた。
顔つきが少しだけ大人びて、だけど話すといつも通りで、でもやっぱり話の端々に成長があって嬉しかったし、間近で見たかったなぁ……と思った。

そして何より、授業が好きだったとか、また先生の授業が受けたいとか、今年も先生の現代文だと思ってたのにいなくて寂しかったとか、本職の授業を求められていたことが何より何より嬉しかった。
わたし、ちゃんとあの子たちの中で先生なんだな。
もう辞めちゃったけど、まだ、みんなの中では先生で居られているんだ。

つらいことがたくさんあった。
教職界に絶望したし、理不尽なこともたくさんあった。
それでも2年間続けられたのは生徒たちとの授業があったからだ。
彼ら、彼女らと一緒につくる授業が何より大好きだったからだ。
その時間をわたしだけでなく、生徒たちも好きでいてくれた。
こんなに教職冥利に尽きること、きっと他にない。

つらいことは消えないし、教育業界への絶望が無かったことになるわけではない。
でも今日、少しあのときの苦しさが報われてしまった。

一般企業に勤めているのは生徒たちの多くがなるであろう「社会人」を知るためで、でもわたしが1番なりたいのはやっぱり「先生」だと確信した。

だから、わたしなりのやり方で教育のことも考え続けたいし、教職に戻るなら思考を止めないで現状を知り続けることが必要不可欠だと思う。

いつかシルバーピンクの髪のままでも教育ができる場所を作りたいな、と。
帰り道の電車の中、少し潤む目でそう思った。

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