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KBS春川の取材 #8

このエッセイは、2017年、約4か月にわたり韓国の有機農家さん3軒で農業体験取材を行い、現地から発信していたものです。これから少しずつnoteに転載していきます(一部加筆、修正あり)。

2017/05/30 

 毎日18時頃に農園の仕事が終わると、シャワーを浴びて夕飯を食べ、ひと休みしてから記事を書き始める。場所はトマトさんとオモニお母さんの仕事部屋で、今私が寝泊まりしている部屋でもある。ずっと2階だと思い込んでいたけれど、ここは屋根裏部屋(다락방)なのだと最近気が付いた。

 トマトさんとオモニは大抵23時頃までパソコンに向かい、注文や入金の確認、イベントの準備など、それぞれの仕事に忙しい。私は今日も2人が黙々と作業する背中を横目に、この記事を書いている。

 少し前の話になるが、18日(木)、KBS春川チュンチョン放送総局の番組制作スタッフがトマトさんの農園にやって来た。撮影内容は、インディーズバンドの男性2人が農園を訪れ、農作業を体験するというもの。バンドの名は모던다락방。直訳すると「モダンな屋根裏部屋」だ。

トマトさん取材中

▲KBSのスタッフが撮影している様子

 韓国ではここ10年の間に、芸能人が農作業や農村暮らしを体験するバラエティ番組が何度か放送されてきた。

 例えば、2009~10年にKBSで放送された『청춘불패(青春不敗)』。少女時代、KARAなどの女性アイドルグループから選ばれた7人が、江原道の農村で農業を体験するという内容だった。2014~16年にケーブル局tvNで放送された『삼시세끼(三食ごはん)』のコンセプトは、“自給自足 有機農ライフ”。俳優や歌手が畑付きの空き家に住み込み、1日3食自炊して暮らしていた。

 農作業などを通して芸能人の素の姿があらわになる、というのが番組のおもしろさであり、視聴者の心をつかんだようだが、「農業」や「農村暮らし」をテーマにしたバラエティ番組を作る理由は他にもありそうだ。今回KBSのスタッフに尋ねてみると「韓国ではここ数年、都市に住む人たちが農業に関心を持つようになった」という答えが返ってきた。

ドローン

▲KBSのスタッフが使用していたドローン。農園周辺を鳥のように飛び回り空撮していた

 午前中の撮影が終わり、トマトさん親子やKBSのスタッフと一緒に近くの食堂でキムチチゲを食べていた時、スタッフの1人に「あとで美菜さんを撮影させてもらってもいいですか?」と突然尋ねられた。

 ほんの少し映るくらいなら、という軽い気持ちで「はい」と答えると、午後から早速撮影に参加することに。しまいにはインタビューを受けることになった。メイクしてごまかす暇もなく、汗と土ぼこりにまみれた顔のまま、カメラの前へ。

トマト箱詰め体験中

▲トマトの梱包作業を撮影中

 インタビューシーンを撮影する前、スタッフの方から「美菜さんは、有機農業の具体的な方法を学びたくてここに来たんですか?」と尋ねられ、私は首を横に振った。

「日本では、ソウルや釜山の観光情報は多いけれど、他の地方についてはあまりよく知られていません。私はライターで、食・農業・韓国に関心があるので、こうして地方で農作業を体験しながら、農家さんたちの生活や食、生き方について知ったことを文章で日本の人に伝えたいと思っています」

 つたない韓国語だが、こんな風に答えたように思う。모던다락방(モダンな屋根裏部屋)の1人には「日本に帰ってからはどうされる予定ですか?」と聞かれ、とっさに「韓国での体験を本にまとめたい」と答えていた。すると「韓国でも翻訳出版を」という言葉が返ってきたので、調子に乗って「韓国でも出版したい」と言ってみた。言ったら本当に実現させてみたい気持ちになった。

 というのも、今こうして日本語で書いている記事を「読みたい」と言ってくれている韓国の方が何人もいるからだ。中には「自動翻訳機を使って読んでいます」という人もいるのだが、やはりきれいな翻訳にはならないらしい。

 日本からやって来た、アガッシ(お嬢さん)とアジュンマ(おばさん)の狭間に立つ30代女性が、汗と土にまみれ全身筋肉痛になりながら体験した記録に興味を持ってくれている人がいる限り、いつか韓国語に翻訳して韓国のみなさんにも読んでもらえたら、と夢はふくらむ。

ベビーカー

▲撮影が終わってほっと一息。トマトさんのベイビーと

 トマトさんの農園に来て今日で3週間。ここで過ごせるのは、あと10日ほどだ。朝から晩まで家族の一員として接してくれるアボジお父さん、オモニ、トマトさん、ジミンさん、そして癒しのベイビーと離れるのが、もうすでに寂しい。

 ベイビーは最近、家族みんなに「ミニトマトちゃん」と呼ばれている。この3週間で「あー」「きゃあ」など、言葉にならない言葉を発することが増え、感情表現がとても豊かになったように思う。

 「植物は言葉はなくても、ちゃんと表現している。それをよく見ないといけない」とアボジは言っていたけれど、毎日ベイビーと暮らしていると、植物と赤ちゃんを育てることは本質的に同じだと感じる。お腹が空いたのか、眠いのか、遊びたいのか、ふざけているだけなのか。家族みんながその一挙一動をよく観察し、ベイビーの声を聞こうとしているからだ。

 農作業の疲れも吹き飛ぶ、ミニトマトちゃんのこの笑顔。いつか、この記事を韓国語で読んでもらえる日が来たらいいな!

ミニトマトちゃん

▲屋根裏部屋に遊びに来てくれたミニトマトちゃん

▲この日撮影が行われた映像は、KBS春川『강원도가 좋다(江原道が好き)』で2017年6月7日に放送されました。上記をクリックすると見られます。私が出演しているのは9分24秒〜。


▲エッセイ『韓国で農業体験 〜有機農家さんと暮らして〜』 順次公開中


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