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【エッセイ】分かち合うことで得られるもの

 北の大地で暮らした学生時代、「おいしいものをくれる人はいい人だよ!」って言っていた同級生がいました。それ以来、誰かにおいしいものをいただくたびに彼女のことを思い出すんですが、おいしいものに限らず、自分の持てる何かを無条件に差し出してくれる人、分け合ってくれる人って時々いるんですよね。「あなたが私にこうしてくれたからお返しするね」というギブ&テイクの精神ではなく、自分の持てる何かを誰かに分かつことが喜び、という人が。

 「相手に迷惑や負担をかけたくない」という気持ちから、私はそういう人の好意を時々断ってしまうことがあったんですけども、人が誰かに何かをしてあげたいという気持ちって、よっぽどのことがない限り素直に受け取った方がいいなと、韓国に移住して以来よく思うようになりました。私がおすそ分けしたいと思う物をいつも「ありがとう!」と気持ちよくもらってくださる人たちに出会い、受け取る側の優しさを知って、これまでの自分を反省したりもしました。

 今年最後のエッセイには、そんな「おすそ分け」にまつわる話を書いています。

WEBマガジン『Stay Salty』不定期連載エッセイ
ーオンマと呼ばれる日々ー

第13回 分かち合うことで得られるもの

 先月、締め切り間近だったこのエッセイを書こうとカフェに向かう途中、ご近所さんにおすそ分けをしに行ったんですね。そしたら、立ち話をしている間に車が突然動かなくなり、バッテリー充電のためエンジンを1時間ふかさないといけなくなりました。

 ご近所さんは「うちで書いてください。私は洗濯干してるから気にしないで。あがって、あがって」と言って、温かいカフェオレまで作ってくれました。結局いろいろおしゃべりしてしまい、その1時間では一文字も書けなかったんですが、その後車で出勤する道すがら、この日の瞬間を写真に収めるように書き残したいと思ったんですよね。

 自分一人ではよくわからなかった感情が、誰かとの関わりの中で形になって浮かび上がり、色づき、言葉になる。その瞬間をつかみとり残しておきたくて、誰かに伝え共有してみたくて、私は文章を書いているのだと思います。そんなことに気づかされた2023年が、もうすぐ終わろうとしています。



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