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医師の働き方改革における宿日直

医師の働き方改革が始まりますが、この制度の肝は宿日直に対する考え方です。
今回の医師の働き方改革のポイントは、2つで、宿日直に対する考え方と自己研鑽に関する考え方です。
まず今回は宿日直について、どのように厚生労働省が考えているか、まとめていきたいと思います。


宿日直はそもそも労働時間

そもそも宿直については医療法で定められています。

医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。

医療法第16条

上記の医療法に従い、ベッドを有する病院では医師の宿直が必要であり、基本的にそれは労働時間になります。
しかし、労働基準監督署長による宿日直許可を取得した場合、その宿直は労働時間規制の適応外になります。

「宿日直許可を得た宿日直」は、労働基準監督署長の許可を受けることにより、労働時間等に関する規制の適用が除外となる

医師の働き方改革に関する FAQ (2023 年 6 月7日 ver.)
https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/files/Attachment/470/20230607%E6%99%82%E7%82%B9%E7%89%88_%E5%8C%BB%E5%B8%AB%E3%81%AE%E5%83%8D%E3%81%8D%E6%96%B9%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8BFAQ.pdf


宿日直許可の基準

では、どのような宿日直が労働時間規制の対象外に当てはまるのでしょうか。

一般許可基準
1.勤務の態様
① 常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可するものであること。
② 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの 電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可しないものであること。
2.宿日直手当
宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。
3.宿日直の回数
許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とすること。 ただし、当該事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足であ り、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週1回を超える宿直、月1回を超える日直についても許可して差し支えないこと。
4.その他 宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること

宿日直許可申請に関する解説資料(参考事例)22.07

 つまり、通常の業務ではなく、とても軽微な業務であるということですね。さらに医師と看護師についてより具体的な基準があります。

① 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。 (通常の勤務時間が終了していたとしても、通常の勤務態様が継続している間は宿日直の許可の対象にならない。)
② 宿日直中に従事する業務は、前述の一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること。 例えば以下の業務等をいう。
・ 医師が、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等(軽度の処置を含む。以下同じ。)や、看護師等に対する指示、確 認を行うこと
・ 医師が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動 に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
・ 看護職員が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の 変動に対応するため、問診等を行うことや、医師に対する報告を行うこと ・ 看護職員が、病室の定時巡回、患者の状態の変動の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温を行うこと
③ 宿直の場合は、夜間に十分睡眠がとり得ること。
④ 上記以外に、一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること。

宿日直許可申請に関する解説資料(参考事例)22.07
R1基発0701第8号

つまり、一般の基準に加え、少数の患者対応であれば宿直業務内であり、時間外労働ではないとのことですね。十分な睡眠が確保できていることもポイントです。ただこの基準についてはとても曖昧です。

ポイント

  • 宿日直は基本的に労働時間

  • 宿日直は労働基準監督署からの許可があれば、労働時間にカウントされない

  • 許可基準は、通常の勤務よりもごく軽度であること

  • 医師看護師において、宿日直中の少数の患者対応は労働時間にならない

  • 十分な睡眠が確保されることが必要

現実はどうか

以下の記事(yahooニュース、朝日新聞)が話題になっています。
簡単に概略を説明しますと、急患を26人対応して2人を看取り、3時間しか寝ていないにも関わらず、「休息時間」と見なされたとのことです。
つまり、宿日直中は休息時間とみなすことで、通常の勤務と勤務の間に休息時間、インターバルを設けたということになります。したがって、この宿日直後も通常勤務を行うことができるのです。
これについては、また連続勤務に関する記事を書きたいと思います。

当直における勤務状況は、勤務先によって本当に異なります。私自身、医局派遣でバイトに行くことがありますが、勤務先によってはほとんど呼ばれない病院もあります。しかしある病院では、夕方18時から24時ごろまで救急患者を対応をすることもありますし、時には夜間の緊急手術となり2時や3時ごろまで寝れないことがあります。また脳卒中は明け方にも多いので、4時や5時ごろに電話が来て起こされることがあります。

宿日直中に多くの業務が生じた場合

では、宿日直許可が降りた宿日直中に、軽度の業務ではなく、通常勤務に近い業務が発生した場合はどうなるのか。

宿日直中に、通常と同態様の業務(例えば突発的な事故による応急患者の診療又は入院、患者の死亡、出産等への対応など)がまれにあり得るとしても、一般的には、常態としてほとんど労働することがない勤務と認められれば、宿日直の許可は可能である(宿直の場合には、夜間に十 分な睡眠が取り得るものであることも必要。)。
なお、許可を受けた宿日直中に、「通常と同態様の業務」をまれに行った場合、その時間については、本来の賃金(割増賃金が必要な場合は割増賃金も)を支払う必要がある

宿日直許可申請に関する解説資料(参考事例)22.07

つまり、まれに業務量が多くなった場合は、その分の賃金をもらえないとおかしいということですね。
そして業務量が多い宿日直が続くようであれば、宿日直許可が降りなくなるということでしょう。

まとめ

私が考える、医師の働き方改革における宿日直許可の問題点は以下になります。

  • 宿日直許可基準の曖昧さ、基準の拡大

  • 実態が基準に則しているかのガバナンスがない(内部告発が前提)

ここ数年で宿日直許可の申請件数が急激に増加しています。許可を得るためのテクニックを駆使する病院もあるようです。
実態に即して、基準を曖昧にせずに、許可を行なってほしいです。
また労働者として、きちんと自分の労働時間がどれくらいかを意識し、記録して行きたい。ルールをしっかりと学び、おかしいことはおかしいと言えるようにならないといけないと考えています。

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