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2023年ベストソング あるいは2024年期待するバンドたち


まえがき

振り返ってみると2023年は自分にとってフォークを感じる年だったのかもしれない。それ以前から続いている流れがあって、フォーク・バンドだけではなく、フォークに影響を受けたバンドがそのエッセンスを受け取って新しいものを作り出しているってなんだかそんな流れを感じている。

だってみんな Big Thief 好きでしょ?みたいな言わなくてもわかる当たり前の空気感が共有されて、今までそこにあったけど見えていなかったものに気がついたり、コントラストがはっきりして自分はどんな音楽が好きなんだろうっていうのを改めて考えさせられたり見つけたり。やっぱり確実にインディシーンの流れも変わっているんじゃないかってそんなことを思う今日この頃。

2023年ベストソング、アルバムに収録されていない曲の中から選ぶというルールのもと、選んだ10曲のうち9曲はまだアルバムを出していないバンドの曲で、それがそのまま2024年の期待になるかもしれない。


1位 Ugly  - Hands of Man

過ぎ去った時間への喪失感と後悔、手のひらに残った希望。ケンブリッジ/ロンドンのバンド、Ugly のことをこんなに好きなのはなぜなんだろう? 「So Youngのイベントで見たUglyは超タイトだったね」と Sports Team のHenry Young が評した姿は既になく、ドラムを叩いていた Black Country, New Road の Charlie Wayne が抜け、メンバーが代わり、ロックダウンを経てのUglyはもはや別のバンドになったと言ってもいいくらいになった。楽曲はよりフォークに影響を受けた内省的なものになり、聞いた瞬間にガツンと来るような衝撃がなくなった代わりに、心の奥底からジワジワと感情が滲み、湧き上がってくるような、静かで哀しく暖かいエネルギーを手にいれた。だから繰り返し何度も聞く。その度に違う味わいで、音が鳴るシーンや状況によって違って響く。

気がつけばもう最初に知った時とは違った思いで Ugly を見るようになっていて、その時求めたものとはまったく別物になったけれど、だけど今のこの姿も悪くない。変わっていく時代に、変わって行くバンド、いつの間にか、曲もバンドも大好きになっていた。好きの種類も色々あって、時間が経つたび変わってく。



2位 Great Area - Find Out Who Is Winning And Why

Alina Astrova、あるいは Lolina、つまりは元 Hype Williams の Inga Copland の Relaxin Records からリリースされているアーティスト great area。虚無感にまみれた Broadcast のような、めちゃくちゃに素晴らしく、そしてまたしても謎の存在。この曲「Find Out Who Is Winning And Why」はコンピレーションの中の1曲で2分と少しの小品と言ってもいいような曲だけど、とんでもなく心に刺さった。虚無と孤独とあきらめと小さな希望、音を重ねずに余白を作り、そのスペースに反響するイメージを残し続けるような、2分間のその全てが余韻みたいなそんな曲。EP「Follow Your Nature」も本当に良かったし great area とんでもない。この雰囲気、この感覚が好きすぎてたまらない。


3位  lobby - in the wall

Leather.head の Toby Evans-Jesra と Goat Girl の Lottie Pendlebury の二人が友人であるドラマーの Josh Gormley を誘って組んだバンド lobby。24年1月現在でリリースされているのはこの曲「 in the wall」だけだけど、これが本当に素晴らしい。Leather.head の叙情性を基本に、絡みつく呪詛的展開を抜かして Goat Girl にあるようなストリングスをプラスしたプログレッシブ・フォーク。淡々と優しく、ちょっと哀しげで美しく、乾いているけど澄んでいて、心をニュートラルにするようにそっとしみ込んでくる。去年の冬にこのバンドの存在を知った時、UKのインディシーンの中でフォークの空気が流れているって思いを深めたけれど、今年、24年はそれがもっと強く出るんじゃないかって思っている。


4位 Tapir! − My God

サウスロンドンの覆面バンド Tapir! (と言いつつもライブが始まった瞬間に覆面をとったりする)はめちゃくちゃ染みる。牧歌的で優しく、まろやかで柔らか。ジム・オルークの『ユリイカ』のような雰囲気でフォークをベースに混じり合い、ワイト島の明るい日差しが差し込む景色(Wet Legのビデオでたくさん見たやつ)を浮かばさせる。やたらとノスタルジックでやたらと優しい。Honeyglaze の Yuri Shibuichi がプロデューサーで、Uglyと共にBlack Country, New Road のUKツアーのサポートを務める等々、周辺情報からもなにやら浮かび上がってくるような感じもするけれど、それよりなによりジャケットの絵からこのバンドの魅力が伝わって来るような気がする。絵本のような優しい色使い、クレイアニメのビデオも良かったし、たぶん人形劇だって合うに違いない。どこか寓話的でそれが本当に良い。音楽を超えた総合芸術の劇団とか楽団みたいな、これからそんな存在になっていって欲しいなんてそんな夢だって見ている Tapir!



5位 Blue Bendy −  Cloudy

ロンドンの6人組 Blue Bendyは完全に次のステージに入った、そう確信させるこの曲「Cloudy」。消えてしまった夢、Black Country, New Roadの2ndアルバム『Ants From Up Thereの路線のその先を見させてくれるような柔らかく咲き誇るシアトリカルな6分間。芝居がかったねちっこいボーカルに、アコースティック・ギターのドライブ、彩るシンセ、いつの間にかスローに落ちて、それを感じる頃にはもうこの世界の中にどっぷりとつかり込んでいる。この後に出た「Mr. Bubblegum」も良かったし、この演劇風の音楽がアルバムでどうなるのか今から本当に楽しみ。


6位 Lots of hands − The rain

リーズの Lots of hands。もうアルバムを3枚くらい出しているバンドらしいけど去年の夏に初めて知って、その時聞いた『fantasy』がめちゃくちゃ良かった(23年のベストアルバムに入れるかどうか最後まで悩んだ)。『fantasy』はAlex G に影響を受けた Happyness をしみじみさせたみたいなそんな雰囲気を感じられるアルバムだったけど、11月のおわりにリリースされたこの曲「The rain」はよりフォークに寄った感じでこれが本当に良かった。頭の奥底に眠っている記憶を揺り起こすみたいな、アコースティック・ギターとサウンド・エフェクト。雨は止まないと死を歌う、その声は優しく陰鬱で、それこそ影のように耳に残ってつきまとう。Lots of hands、マジで素晴らしい。


7位 Cardinals - Roseland


「彼女と出会った時、僕はまだ16で、生意気な心に包まれていた」アイリッシュ・フォークとスラッカーなロック、そこに80年代マナーの叙情的なメロディをのせて。アイルランド、コーク出身の6人組Cardinas、どことなくネオアコっぽい感じもあってファッション的にもそこを意識していそうな気もすけれどしかし同時に心の奥底にパンク・スピリットを抱えていそうなところが魅力的。表面に出ているところと違った部分があるような感じがして、そういう部分になんとも惹かれる。柔らかく尖る、この雰囲気、嫌いなわけがない。アコーディオンとシューゲイザーっぽいギターがからむ「Roseland」の快感たるや。この曲はSo Young Recordsからのリリースで24年、ガツンと行きそうな気がする。



8位 Heartworms − may i comply

曲が始まった瞬間に、この曲はなに?と尋ねたくなって思わず顔をあげる。自分で作ったプレイリストで、そんなことをする必要なんてないのに本能的に顔を上げ、もう知っている答えを繰り返す。このワクワク感半端ない。サウスロンドン拠点の Heartworms はたたずまい、その雰囲気が凄まじくてそれだけでも最高だけど、曲がまた輪をかけて素晴らしい。陰鬱ダンスのポストパンク、The Lounge Society と共に Heartworms は間違いなくSpeedy Wunderground の秘蔵っ子だって確信させる。格好良いものに惹かれるのに理由はいらない、理由はきっと後からついて来るから、とそんなことだって言いたくなる。単純に凄まじく格好良い。



9位 The New Eves − Original Sin

Sorryの Marco Pini の Slow Dance と Campbell Baum の Broadside Hacks の共同リリースってだけでももう好きだろうっていう匂いがプンプンしてたブライトン出身の The New Eves。画家、ダンサー、作家、写真家としても活動するメンバー自身の手でアートワークを手がけ、ビデオを撮るというまさにSlow Dance 的哲学と、チェロ、ヴァイオリン、フルートが入り乱れる Broadside Hacks のスタンスに通じる楽曲で共同リリースなのもなんだか納得。しかしこの曲「Original Sin」からはNYパンクからの影響も感じる。ヴェルヴェッツとテレヴィジョンを聞いて育ったフォークバンドが今、手にある楽器で演奏したらみたいな、そんな力強いエネルギーを感じる曲になっている。Slow Danceのコンピに入っていたもう1曲の方「Mother」はもっとストレートにトラディショナル・フォークの影響を感じたのに、この曲はそうでもないのが面白い。


10位 Jæd − Vessei List

Jædの衝撃。Jædはロンドンを拠点に活動する、アイリッシュ系プエルトリコ人/タイノの Jennifer Evans のプロジェクトで、まるで自分一人の為に自ら演奏する St. Vincent(特に『Marry Me』期)みたいな、頭の中で作られたある種の狭さみたいなものがあってこの感覚がもうたまらなく好き。部屋の中に広がる宇宙であって、誰に見せる為でもない日記的でもある広がりのある小さな世界。

それはそうと、これを書くにあたってこの人どんな人だろうって調べたら、Jennifer Evans 名義で Slow Dance の年次コンピに入っていてびっくりした。曲の感じが違うから気がつかなかっただけどやっぱりこうやって知らないうちに繋がって行くんだなって。Slow Dance マジで凄い!と毎年コンピを聞いて思っていることをまたしても思う。



この10曲にもう10曲プラスしたベスト20のプレイリストも作りました。


23年のアルバムはこちらに。


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