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仲野徹「こんな座右の銘は好かん!」(「みんなのミシマガジン」連載記事より)

☆mediopos-3019  2023.2.22

「みんなのミシマガジン」に
仲野徹「こんな座右の銘は好かん!」が連載されている

筆者は生命科学の研究に携わってこられた方で
かつて「座右の銘は銘々に」という連載があり好評だったが
その連載の最後に

 座右の銘はない――石毛直道(文化人類学者)

あたりをもってきていたように
そろそろタネがつきかけたものの
編集者からの促しもあり

その続篇として「こんな座右の銘は好かん!」を
全15回にわたり連載中とのこと(現在10回目)

「座右の銘」はどこか教育的な響きもあり遠慮したいが
「こんな座右の銘は好かん!」というのは
少しばかりひねくれているのがユーモラスでいいので
とりあげてみることにした

かつてとりあげられた「座右の銘」と
今回10回目までにとりあげられたそれについてのさわりは
引用部分でご紹介しているが

あらためて
じぶんに「座右の銘」はあるだろうかと考えてみた

教訓じみたものは好きになれないし
だれかの言葉に寄っかかるものいやなので
あまりそうしたものを持ちたくはないけれど
ふとどこかでいつもじぶんなりの心構えのようなものを
もっていることに気づいた

 ならないようにはならない

である

なるようになる
という捨て鉢のような
あるいは単純な脳天気のノンシャランではなく

現実を二重否定することによって
みずからの運命を肯定することば
おそらくだれもこんな言葉をとりあげていないのではいだろうか

ひねくれた感じもあるけれど
みずからがみずからを信じ
じぶんではないじぶん
意識されないところまでをも深いところですくいあげ
起こったことをみずからの自由において受けとめる
そんな言葉だと思っている

「こんな座右の銘は好かん!」
という方もいるだろうが
それはそれ
これはこれ

■仲野徹「こんな座右の銘は好かん!」
 (「みんなのミシマガジン」連載記事より)

(「第1回 まずは自己紹介であります。 仲野 徹」2022.5.22 より)

「定年退職までは病理学の教授として生命科学の研究に携わってきました。そのかたわら、いろんな本をすでに10冊も出してます。」

「「座右の銘は銘々に」というタイトルの連載を持ってました。」

「その15回の連載でとりあげた座右の銘は以下のとおりであります。

ついに学ばずして終わるは、学んで忘るに如かず
――ジャン=ジャック・ルソー 中江兆民訳(たぶん)

何かを得れば、何かを失う、そして何ものをも失わずに次のものを手にいれることはできない
――開高 健(作家)

いややなぁと思うような仕事ほど引き受けたほうがよろしいで
――松本圭史(恩師)

Part of being a big winner is the ability to be a big looser. 
(偉大なる勝者たるには、偉大なる敗者たれ)
――エリック・シーガル(作家)

専門のことであろうが、専門外のことであろうが、要するにものごとを自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を表明できるようになるため。たったそれだけのことです。そのために勉強するのです。
――山本義隆(科学史家)

確実に予見できる出来事が一つだけある。それは、自分がいずれ死ぬということである。
――ジャック・モノー(生物学者)

Do not lie, if you don't have to. 
(嘘はつくな。必要がない限りは)
――レオ・シラード(物理学者・生物学者)

世界は「使われなかった人生」であふれてる
――沢木耕太郎(作家)

人みなの よしといふとも われひとり よしと思わねば よしとは云わじ。われひとり よしとおもわねど 人みなが よしとし言はば よしと思はむ。
――長谷川如是閑(評論家、作家)

手間はミニマム vs 横着は敵
――仲野 徹(自分です)

神よ。 変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。 変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。 そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。          
――ニーバーの祈り(大木英夫訳)

The sun'll come out tomorrow. Bet your bottom dollar that tomorrow there'll be sun.
――ミュージカル Annie "Tomorrow" から

夢見て行い 考えて祈る
――山村雄一(元大阪大学総長)

しんどいのは君だけと違うんや
――心の師匠

座右の銘はない
――石毛直道(文化人類学者)」

「「座右の銘は銘々に」の続編として、「仲野教授の こんな座右の銘は好かん!」シリーズ計15回を連載することになりました。」

(「第2回 若い時の苦労は買ってでもせよ」2023.6.16 より)

「栄えある(実質)第1回、俎上にあげるのは「若い時の苦労は買ってでもせよ」である。あかんやろ、これは。

 苦労をして偉くなった人が往々にして言いがちなことだ。もちろん、艱難辛苦を乗り越えて事を為すというのは立派なことである。苦労が素晴らしい人間を作り上げるケースがあるということを否定はしない。しかし、それはあくまでも苦労を経て最終的に成功した人が体験を押しつけているに過ぎないのではないか。」

(「第3回 努力は人を裏切らない」2022.7.19 より)
「今回は「努力は人を裏切らない」です。一見正しそうに思えますけど、これはおかしい。まず、指導者がこのことばを使うととんでもないことになりかねません。自発的に使うのは勝手ですが、もしこのことばが厳密な意味で正しければ、ほとんどの人が困るはずです。そういった意味では、反社会的とまで言えるような気さえします。」

(「第4回 石の上にも三年」2022.8.24 より)
「これはもう、ほとんど全否定したい。
 自慢じゃないが飽きっぽい性格である。そういうと聞こえが悪いが、自己肯定感が強いので、あっさりしている、あるいは、判断が速い、という言い方もできるのではないかと密かに思っている。密かにといいながら、書いてしもてるけど・・・。なので、石の上にも三年とか聞くと、イヤミを言われているのかという気がすることすらある。だから、そもそも気に入らん。」

(「第5回 成らぬ堪忍するが堪忍」2022.9.24 より)
「「成らぬ堪忍するが堪忍」、なんとなく説得感がある言葉だ。しかし、これは論理的に破綻していないか。成らぬ堪忍は成らぬのであるから、そんな堪忍などできないに決まっている。」

(「第6回 為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり」2022.10.22 より)
「今回の座右の銘は、語る人を選ぶ座右の銘でありました。凡人的には「為せば成る? 為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬためかも」くらいですかね。」

(「第7回 急がば回れ」2022.11,21 より)
「「急がば回れ」は、やはり言い過ぎ、あるいは拡大解釈を招くミスリーディングである。「『急がば回れ』かどうかは、状況を見て判断しましょう」が、より正しい。あたりまえすぎて、座右の銘になりそうにありまへんけど、しゃあないです。」

(「第8回 山よりでっかいシシは出ん 」2022.12.21 より)
「「『山よりでっかいシシは出ん』は、座右の銘としてより気合を入れる呪文のように使いましょう」、というのを結論にいたしとうございます。」

(「第9回 魚心あれば水心」2023.1.20 より)
「「魚心あれば水心は、意味を限定した座右の銘に留めおけ。決して悪用してはなりませぬぞ、ふおっふおっふおっ」ということで。」

(「第10回 たとえ明日、世界が滅びるとしても、今日、あなたはりんごの木を植える」2023.2.18 より)

「座右の銘として「たとえ明日、世界が終わりになろうとも、今日私はりんごの木を植える」をどう捉えるかは、かくも難しい。気持ちはわかるが、できそうにあらへんし、したくもない。たとえ大好きな開高健に「たとえ明日、世界が滅びるとしても、今日、あなたはりんごの木を植える」と催眠術をかけられてもお断りするしかない。キッパリっ!

「明日、世界が終わりになるとしたら、今日は何をすべきか考えなさい」あたりはどうですやろ。日によって違ってもよろし。いや、違った方がもっとよろし。そのバラエティーこそがあなたの生き様になるかもしらんのやから。」


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