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佐藤 克文(文)・きのした ちひろ(絵)『なぜ君たちはグルグル回るのか/海の動物たちの謎』 (たくさんのふしぎ2022年11月号)

☆mediopos2881  2022.10.7

動物たちのナビゲーションの話は先日
mediopos2869(2022.9.25)でとりあげたところだが
(デイビッド・バリー
『動物たちのナビゲーションの謎を解く』)

「たくさんのふしぎ2022年11月号」は
「バイオロギング」という
小型の記録計や電波発信器を
動物の体に取りつける手法を使って
動物たちの長距離移動を調査する話である

動物たちはなにを使って
進むべき方角を見定めるのか

そのさまざまな方法は
上記の本でもとりあげられているが
地磁気を利用する動物が多い
ということはよく知られている

その際にウミガメをはじめとして
ジンベエザメもオットセイも
アカボウクジラもキングペンギンも
「グルグル回る」謎のような行動をおこなうという

潜水艦を使って地磁気を測定する時も
潜りながらグルグル回るということだが
動物たちも方角を見定めるために
グルグル回って地磁気を測定していと考えられる
というのがタイトルにあるように
この絵本のメインテーマだ

動物たちのナビゲーションの謎を解明するために
現在では「バイオロギング」が
主な手法となっているようだが
ある意味でそのことよりもっと大事なのは
研究者たちの情熱だといえるかもしれない

著者の佐藤克文による「作者のことば」によれば
「どんな人が研究者に向いているのでしょうか?」
という質問をしばしば受けるという

明確な答えはわからないそうだがそこには
「ある種の共通したパターンがある」ようだという
調査・研究の現場には長年にわたって
さまざまな苦労がつきまとうが
「その過程で経験する苦労を上回る
知的興奮を感じられる人、
そんな人が研究者になるみたい」だという

そうした研究者の性向は
行っていることはまるで違っているかもしれないが
ものを作る「職人」にも通じているように思える

世界の謎に立ち向かう研究者としての行動も
ものそのものに迫りながら
その謎に肉薄しながらそれを形にしていく行動も
その根底にあるのは
苦難の果てに垣間見えるだろう「秘密」への
あくなき衝動なのかもしれない

■佐藤 克文(文)・きのした ちひろ(絵)
 『なぜ君たちはグルグル回るのか/海の動物たちの謎』
 (たくさんのふしぎ2022年11月号 福音館書店 2022/11/1)

「広い海を移動する動物たちの動きは、小型の記録計や電波発信器を動物の体に取りつける「バイオロギング」という手法で調べることができる。自然な動きをさまたげることがないように、装置の重さは体重の3パーセント以下におさえるようにしている。私は、海上を飛ぶワタリアオウドリ、水中を泳ぐキングペンギンやミナミゾウアザラシに装置をつけまくった。

動物たちは、おどろくことに数百かた数千キロメートルも離れたエサ場まで移動して、再び島に戻ってくることが、機器に記録されたデータからわかった。私が船上から見たとおり、海の上には何の目印もなさそうに見える。それなのに大海原にぽつんとうかぶ島に動物たちは戻ってくることができるのだ。」

「地球のまわりには磁場というものがある。地球という団子に棒磁石の串がささっているみたいに、地球を1つの磁石に例えることができる。磁石にはS極とN極があり、おたがいにくっつこうとする性質がある。だから、方位磁石を持っていれば、N極が指す方角、つまり北がどちらの方向にあるかを知ることができる。」

「教授から世界中のバイオロギング研究者へ電子メール、「モヘリ島や父島でとれたデータによると、アオウミガメがなぜだか同じ場所でグルグルと何度も回っていました。みなさん同じ装置をいろいろ動物につけていると思うけど、そんな動きは見たことがありますか?」するとぞくぞくと返事があった。

「ジンベエザメはまわっていた!」(びっくり)

「オットセイもまわっていた…。」(何だこれ…)

「イタチザメもだ!」

「アカボウクジラも!」(何のために…!?)

「キングペンギンもまわってた…。」」

「「私調べてみたんですけど、研究者が潜水艦を使って地磁気を測定する時も、潜りながらグルグル回るそうです。すべての方位をむいて何度も磁気の強さを測定することで、より精密に測定できるらしいです。」
「そうか、だとすると海の動物たちも、グルグル回って何度もくり返し地磁気を測定しているのかもしれないね。」

「海を長距離移動する動物がたよっているものとして一番有力なのは、地磁気だと思う。アカウミガメの子どもを使った実験結果のように、ウミガメに地磁気を感じる能力があることは証明されている。だから、きっと実際に海を移動する時も、地磁気をたよりに進むべき方角を見定めているのだろうと推測されていた。でも、具体的にどんなタイミングでどうやって地磁気を測定しているのかはわかっていなかった。今回、いくつものの動物で発見された同じ場所を何度もグルグル回る行動こそが、地磁気を精密測定して進むべき方角を正確に見定めている行動なんじゃないかと私は考えている。」

(作者のことば 佐藤克文「世界中どこへでも」より)

「野生動物の研究に必要不可欠な要素は何でしょうか。バイオロギングというハイテクを用いた研究手法が考案され、様々な動物の暮らしぶりが明らかになってきました。しかし、どんなに科学技術が進んでも、僻地に出かけ、対象とする動物と数年がかりで対峙する人がいなければ何の発見もありません。情熱を胸に野外調査に勤しむ若者こそが、全てに優る研究の必須条件です。
「どんな人が研究者に向いているのでしょうか?」というのは、私がしばしば受ける質問です。その答えは未だによくわかりません。私が今所属している東京大学には、勉強が良くできる学生が毎年たくさん進学してきます。しかし、学校の成績が良いからといって、必ずしも研究者に向いているわけではないようです。もちろん、成績優秀であることは妨げにはなりません。しかし、プラスαが必要なのです。逆に、子どもの頃から動物が好きという熱意だけで研究者になれるというわけでもなさそうです。これまで何十人もの大学院生と出会ってきました。結果的に彼らが研究者になる場合、その過程には、ある種の共通したパターンがあるように感じています。
 絵本の中では教授が新入生をいきなり外国のフィールドに送り込んだように書きましたが、実際にはそんなことはしません。私の研究室では、まず日本国内の調査地で修行を積んでもらい、数年かけてじっくりと人物を見極めます。「この人なら大丈夫」という確信が得られたら、世界中の調査地に送り込みます。過去には、南極アメリカ基地におけるエンペラーペンギン調査、亜南極フランス基地におけるワタリアオウドリ調査、アイスランドのザトウクジラ調査、西パプアのヒメウミガメ調査など、極地から熱帯に若者たちが出かけていきました。現地では何が起こるかわかりません。毎食バナナも全く想定していなかった出来事でしたが、どんな状況でもご機嫌に調和を完遂できる人が求められています。野外調査では失敗が続きます。それを「運が悪かった」で片付けることなく、「何か改良する余地はないか」とあれこれ工夫をこらして数年間努力すると、ようやくデータが取れ始めます。その後もデータを解析し、英語で書いた論文として発表するまで苦難の日々は続きます。しかし、その過程で経験する苦労を上回る知的興奮を感じられる人、そんな人が研究者になるみたいです。」

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