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『フリースタイル58 特集:THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!』/坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』

☆mediopos3338  2024.1.7

『フリースタイル』(Winter 2024 58)で
「THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!」
という特集が組まれている
今回で二十回目だとのこと

編集者(吉田保)の編集後記には
この特集は
「日本で唯一の『作家主義』によるマンガ紹介」とあり
発表されている「BEST」は
他誌によるランキングとはずいぶん異なっている

「「作者のことなんか知らないよ。作品が面白ければいい」
という考え方からすれば
「作家主義」というとどこか時代遅れの
イメージがあったりもするが

時代の流れのなかで
「大ヒットマンガ」的なものを求めるのでなければ
「表現」というのはジャンルを問わず
「作家」の個性を読みたいからこそ読みたくなるわけで
個人的にいえば他誌での評価基準よりも肯ける
文学や詩などをはじめとした言語表現でいえば
「文体」こそが読みたいところであるように

とはいえ通常はこうしたランキングに興味はなく
最近はマンガそのものも
かつてのように雑誌ではまったく読まず
限られた作品を単行本で読むくらいになっている

「マンガ時事放談2024」
(いしかわじゅん+中野晴行+伊作理士夫)があったので
最近のマンガ界の傾向などをちょい見しようと
目を通してみたところ

思った通り最近はマンガ雑誌というのは売れなくなり
多く売れる/読まれているのは単行本であり
しかも多く「消費」されるのはウェブで
「ものすごくストーリー重視」の
「縦スクロール」によるもののようだ

そしてそれに適した表現として
「強い「ヒキ」」が必要となり
そのことによって
「キャラクターが深まらな」くなる傾向にあるという

『フリースタイル』での
「このマンガを読め!」のBESTは
いうまでもなく「縦スクロール」のマンガではなく
「紙」でじっくり読みたくなる作品が中心である

BEST1に選ばれているのは
坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』

ちなみにBEST3にはこのmedioposでも先日紹介した
松本大洋『東京ヒゴロ』
BEST6がヤマザキマリ/とり・みきの『プリニウス』

『神田ごくら町職人ばなし』は
桶職人・刀鍛治・紺屋・畳刺し・左官といった
江戸職人の技と意地を圧倒的ディテールで描いた作品

「金なんざどうだっていい。心意気の話さ。わかるだろ?」

といった科白からもわかるように
「縦スクロール」的な表現ではない(笑)

どこか昨日・一昨日でとりあげたヴェンダース監督の
『PERFECT DAYS』の「平山」に通ずるところがある

昨日のmediopos3337の最後に
「小さなものや繊細なもの」に鈍感になり
商品を受け身的に消費するだけの
「牢獄」のような生活から
どのように「脱出」できるかという
問いかけをしてみたが

こうした「技と意地」をもった「職人」のあり方も
その「脱出口」のひとつとなり得るかもしれない

逆にいえば
こうした「職人」的なありようが失われたところは
科学にせよ哲学にせよ数学にせよ
いうまでもなく経済や政治や教育の世界においても
それらは「牢獄」以外のなにものでもないだろう

■『フリースタイル58
  特集:THE BEST MANGA 2024 このマンガを読め!』
 (フリースタイル 2023/12)
■坂上暁仁『神田ごくら町職人ばなし』
 (トーチコミックス リイド社 2023/8)

(「フリースタイル58」〜「from EDITOR」より)

「ムック時代にはさまざまなことを試し、2012年版から、本誌の「特集」になるわけですが、そこから数えても十二年。まったく驚くしかないですが、いま改めて、「『このマンガを読め!』とはなにか」ということを考えると。「日本で唯一の『作家主義』によるマンガ紹介」なのかとも思っています。
 「作家主義」は、もともとはフランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」の映画批評の論理で、「(他の芸術作品同様に)映画を、映画監督(作家)による個人の表現手段、表現物と見なすべきだとする考え」なのですが、いま、マンガを「作家主義」で捉えているものはほかにはないのではないか。おそらく他誌との違いはここにあるのでしょう。今回選ばれたベストなども、「作家主義的ベスト」と捉えてもらえれば、ご理解いただけるような気がしています。
 もちろん世の中には大ヒットマンガの作者名を知らないひとが多いわけで、「作者のことなんか知らないよ。作品が面白ければいい」という考えは正しいかもしれませんし、そのほうがずっと幸せなのではないかとも思ったりしますが、ぼく自身は当たり前のように、本号のアンケートはもちろん。ほかの本誌の掲載原稿もすべて「作家主義的作品」だと思っています。そういう意味方でものごとを見るのが一番面白いと思うし、ぼくにはそれが当然のことになっています。〈Y〉」

(「フリースタイル58」〜「BEST作品総評 南信長+ヤマダトモコ+斎藤宣彦」より)

「南/上位三作はかなりもつれたようですが、最終的には坂上暁仁の『神田ごくら町職人ばなし』が1位となりました。職人の手仕事を描いた連作短篇集で、ダイナミックな構図と精緻なディテール描写に圧倒されます。
 斎藤/職人ものに、山本周五郎の市井に生きる人々の哀歌を織り交ぜたような、佳作だと私は思いました。この作家は新人なんですか?
 ヤマダ/2017年にちばてつや賞一般部門に入選しています。当時トキワ荘プロジェクトの入居者で、同人マンガ雑誌「すいかとかのたね」の参加者です。いわゆる商業誌の単行本はこれが最初なのではないでしょうか。
 南/これって資料とか相当調べないと描けないですよね。
 斎/しかもマンガだから。「絵」で描かなきゃいけない。
 南/廓に仕事に行く「畳刺し」の話以外は主人公が女性。江戸時代に職人の親方みたいな人が女性というのはあんまり考えられないけど。いまの時代に描くときに、ジェンダー論的意味も含めて、あえて女性にしたいんでしょうね。そこがひと工夫だと思いました。
 ヤ/物語の主人公を女性としていることによって新鮮な感じになって。読者の阿波幅が、上も、p横路にも広がっているんじゃないでしょうか。
 南/男だったら、「ザ・職人の世界」になりますもんね(笑)」。
 ヤ/絵が丁寧に描かれているから、どの作品も、色や匂いが伝わってくるというか、実際感じました。
 斎/登場人物の瞼の上に線が入っていて。清々しい意志を感じます。その清潔感や心意気の部分と、密度高く描いているわりにヌケのよい大小の背景。絵の質と語る内容がよく会っていて、心地いい。」

(「フリースタイル58」〜「神田ごくら町職人ばなし」より)

「神田ごくら町は職人の町。「金なんざどうたっていい」の心意気で手仕事に打ち込む職人がいる。桶職人はひたすらに材に鉋をかける。刀鍛冶は人を斬る武具作りに鬱屈を覚えながらも、迷いを吹っ切るように最高の一刀を鍛練していく。藍染の意匠に心を砕く紺屋、吉原遊郭の畳の貼り替えに出張する畳刺し、ごくら町のシンボル長七蔵の建造に技術の粋をつぎこむ左官。繊細なディティール描写、女性職人の活躍も読みどころの珠玉短篇集。[「コミック乱」掲載、「トーチweb」連載中]

(「フリースタイル58」〜「マンガ時事放談2024」(いしかわじゅん+中野晴行+伊作理士夫)より)

「中/二十年前には発行部数が百万部を超えるマンガ雑誌が七誌あったんですが、現在は「週刊少年ジャンプ」だけになりました。
 い/(・・・)たぶん雑誌単体で利益が出ているのは117万部刷ってる「ジャンプ」しかないだろうな。

(・・・)

 伊/コンビニもマンガ雑誌をあんまり置かなくなりましたね。
 い/昔はコンビニが雑誌を売るからってことで街の本屋がなくなっていったけど、いまはコンビニすら置かなくなった。じゃあ俺たちはどこでマンガ雑誌を買えばいいんだよ(笑)。」

「中/いまはみんなマンガを単行本で読む。だからわざわざ雑誌を買わないんです。

(・・・)

 伊/ぼくは本屋でマンガ雑誌を買っている人を見たことがないです・みんあどこで買ってるんだろう? あ、いまだに雑誌を置いてある喫茶店はありますね。コメダとか。」

「い/マンガのネット配信で、今週は無料で、毎週一本ずつ読む限りはずっと無料だけど、まとめて読もうとするとお金がかかるというものがあるね。
 伊/「我慢できなくさせる」というのが大事なんです。「期間限定三巻無料」とか、今では当たり前ですが、少し前まで出版社は本当に嫌がっていた。ただ、結果に結びついているのがわかって抵抗感が薄くなっているんです。
 い/続きを読みたいって欲望をかき立てて、我慢できなくさせるわけか。
 伊/少なくともいまはそういうやりかたが主流になっています。で、そうなると。今度は「ヒキ」が強くないといけないという話になってくる。縦スクロールの漫画はものすごくストーリー重視のものなんです。次の話に課金して読んでもらうために強い「ヒキ」を作る。昔の漫画雑誌の作り方に近いかもです。ただ、それをやっているとキャラクターが深まらないんですね。キャラクターの、なんでもない話が縦スクロールだと作れない。
 中/人格とかが描けないわけだ。
 伊/その結果、縦スクロール自体はものすごく売れています。でも、みんなが目指しているのはIPでよね。縦スクロールもIPでキャラクター商売をしたいんだけども、縦スクロールにはストーリー重視のあまり、人気あるキャラクターが生まれてこないというジレンマがある。」

「い/たぶん縦スクロール型がメインになると日本は韓国には勝てそうもないね。
 伊/ただ、マンガから生まれたキャラが世界的に人気になるということでは。いまだに、日本が強いと思います。
 い/日本って、キャラクターとか、あと、作者の個性が好きっていう部分が強いよね。
 伊/いまはだんだんそれが薄れつつあり、最適化して、作家性と呼ばれるものは小さくなっていく流れだとは思うんですけど・・・・・・。いったいどうなっちゃうんでしょう。
 い/俺はやっぱりAIに描いてもらったどんなきれいなイラストより、宮谷一彦のミシミシ描いた絵が好きだからなあ(笑)。」

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