【小説】四つ星男子のセンセーション!(6)
あらすじ
「お前は、星が見つけた希望の子だ」
腐れ縁四人が、周りの大人たちに言われ続けた言葉だ。
生まれながらに星の加護を受け、魔法を扱うことのできる四人は、国中の憧れである『魔法騎士』のトップで、『四英星』と呼ばれている。
六花の星、コルンバ。
黍嵐の星、アリエス。
陽炎の星、アルフェラッカ。
芽吹の星、レオ。
そんな四人が最期に望んだのは、四人の軌跡を形にすることだった。
しかし、その願い虚しく四人は戦死。
四人は転生し、男子高校生デビューを果たす。
再び集った四つ星は、今度こそ望みを叶えるため、高校生活を謳歌する――!
前回の話
登場人物紹介
獅子倉芽來(ししくら・めぐる)
繊月学園高等部1年生。過去のある出来事がきっかけで人を信用しなくなった。
小さい頃から文芸が好きだが、それを形にしようとは思っていない。
冷静。あまり人を寄せ付けないタイプ。
日辻紅牙(ひつじ・こうが)
繊月学園高等部1年生。重度の厨二病。母を事故で亡くし、父親と2人暮らし。
仲の良い幼なじみがいる。
自分を曲げない、まっすぐな性格。
冠城夏月(かぶらぎ・かつき)
繊月学園高等部1年生。恵まれた容姿を持った人気者。自分の可愛すぎる顔を隠すためにサングラスを掛けている。
お調子者なムードメーカー。
5話
――また、あの四人の夢を見た。
目が覚めた時、思わず自分の部屋を見回し、現実であったかを確認するくらいにリアルな夢だった。
しかも、今回の夢は、今まで一度も無かった、戦いの夢。
いつもであれば、リアリティのある異世界で、四人の男が日常を過ごす夢、ということしか分からなかった。しかし、今回は、いくつかの情報を覚えている。
四人の男は、四英星と呼ばれていること。
彼らは、国を護る為に魔法を用いて戦うこと。
そして、四人の男のうち一人が、自分にそっくりだったこと。
覚えているのは、この四つだ。
しかし、夢の内容を覚えていたって、かえって謎は深まるばかり。
ただ、ひとつだけわかるのは、自分にそっくりな男は、自分ではないということだ。
俺は、あんな風に、仲間を信じて戦ったりなんてしない。
……結局、あの夢は、心に靄をかけるだけ。
俺はやはり、あの夢が嫌いだ。
***
すっきりしない気持ちを抱えたまま電車に揺られ、学校に着く。
靴を履き替えようとしたところで声を掛けられた。
それも、絶対に関わりたくない奴に。
「おはよう、獅子倉」
少し口角を上げる彼は、昨日の厨二病生徒の日辻だ。
「……おはよう」
「明らかに嫌そうな顔をするんだな」
「……」
まあ、嫌だから。
という言葉を飲み込み、再度要件を問う。
日辻は、頷いて続けた。
「運命だ」
「は?」
「我等がこうして巡り合ったことだ。これも、恐らく星の導きというヤツだろう。この小さき世界はいつも、悪戯に満ちているな。だが我は、その運命をも飲み込むと心に誓った身。キサマもそうなのだろう?」
成程、理解した。いや、彼の言う事は理解不能だ。でも、ひとつだけ理解したことがある。
間違いない。この人は、絶対に関わってはいけないタイプの人間だ。
眉間に皺が寄るのを感じながら、答える。
「言っていることはよく分からないけど、ひとつだけ言える。絶対違う」
すると日辻は「驚いた」とでも言うように、目を見開いた。いや、一番驚いているのはこちらの方なんだけど。
「我と違う、と。そうか、だが、我には解るぞ」
今度はその瞳を爛々と輝かせ、笑顔を見せる。
「キサマは、我と共に歩むことになるさ。必ずな」
「……」
その自信は一体、何処から来るんだろう。
いつになっても分からない。
また、昨日と同じ感覚。
日辻と出会って、まだ一日くらいしか経っていないはずなのに、もっと昔からこの自信過剰さを知っている気がするんだ。
不思議な感覚のせいで頭が痛くなってきた。思わず、足を止める。
「どうした?」
「い、いや。何でもない」
早く、教室で読書でもしよう。
再び歩き出そうとしたその時だ。
『きゃ~っ!』
聞こえてきたのは、複数人の女子の悲鳴……ではなく、黄色い歓声だった。
何事か、と思って奥の廊下を振り返る。
なんと、廊下を埋め尽くす勢いで、女子の大群が迫ってきているではないか。
女子の集団は、モーゼの十戒のごとく左右に分かれていて、その中心をまるでブロードウェイを歩くように、一人の生徒が歩いていた。
スラックスを履いている、ということは男子生徒だろうか。
赤っぽい色に染まった髪色は派手だし、何故か、丸縁のサングラスを掛けている。
って、いやいやいや。国民的アイドルが来たわけでもないのに、何だこれは。
唖然としていると、中心の彼が、突然右手を振った。その仕草だけで、歓声が大きくなる。
心なしか、日辻と俺に向かってきている気がする。
いや、そんな訳はない。それは気のせいだ。
「おっはよー!」
彼は、大勢の女子生徒を引き連れ、日辻と俺の前でピタリと止まった。
そこで俺は確信する。
ああ、俺の平穏な高校生活が終わった――。
彼は、立ち尽くす俺を他所に、周りを囲んでいた女子たちに声を上げる。
「俺ちゃん、二人に用があったんだぁ。諸君とは、また後でェ!」
おまけにウインクまで付ければ、女子たちは歓声を上げながら、少しずつ彼から離れていった。ずいぶんと手慣れているようにみえる。
気づけば、この広い廊下は、三人だけの空間になっていた。
さてと、と一呼吸おいて、サングラスを取り、愛想のよい笑顔を見せる。
――その整った顔に、惹き込まれるのを感じた。
「俺ちゃんの名前は、冠城夏月! ひっつじーとは幼馴染だよん」
隣の日辻に抱きつき、「いえ~い」とピースサインを見せる。
どくん、と、大きく脈打つ心臓。日辻と出会ったその時にも感じた、言い表せない感情に苛まれた。
もう一度顔を上げ、冠城を見る。無邪気な笑顔を浮かべる彼を見て、何故か今朝見た夢を思い出す。
――そうだ、似ているんだ。あの四人のうちの、
「アルフェ、ラッカ……」
すると、冠城は目を見開いて、俺の手を取った。サングラスを落としても気にも留めずに、その大きな瞳を輝かせる。
「分かる⁉」
「え、いや。全然分からな、」
「っしゃあ! 見たかひっつじー! これが俺ちゃんの力だァ!」
いや、待って。はしゃがないでくれ。『アルフェラッカ』とは誰だ。なぜ彼は「分かる」と聞いた?
困惑していると、ポン、と肩を叩かれる。日辻だ。
「良かった、本当に良かった。縋る思いでも願ってみるものだな。星は、まだ我を捨ててはいなかった……ッ」
日辻は、声を震わせ、泣いていた。
……いやいやいや待ってくれ、何故泣く?
一つだけ言えることは、泣きたいのはこっちの方だということだ。
――頼むから、誰か説明してくれ、この状況を。
ガッツポーズを決めるアイドルと何故か泣いている厨二病との板挟みに遭う俺は、ただただ盛大なため息を吐いたのだった。
次回予告
個性的すぎる有名人2人に捕まった芽來。
芽來が連れて行かれた先は、教室とは思えない教室で――!?
次回、四つ星男子のセンセーション! 6話は、5月25日、19:00頃公開予定です✨️
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