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のべるちゃん感想『ぬいぐるみのジェシカ』

すっかり秋めいてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしだろうか。
先月はのべるちゃんチャレンジ作品への講評記事にかえさせて頂いたが、今月は通常営業に戻り、いつも通り弊社サービスScript少女のべるちゃんより、お勧めの作品を紹介する。

本日紹介するのは、『ぬいぐるみのジェシカ』
作者はGreenGreenさん。ご投稿ありがとうございました。

あらすじ(作品概要欄より)

『ぬいぐるみのジェシカ』
ぬいぐるみのジェシカが織り成すちょっぴり切ないショートストーリー 。ジェシカと過ごす、ほんの一瞬 のなかで…あなたは何を感じますか?――――

※この作品は作者の夢に出てきたものをほぼそのままの内容でのべる化しました‼
『幸福を祝うシンバルモンキー』
中世ヨーローパの街中にある小さなおもちゃ屋さんをイメージしました!彼が思い描く夢…果たして叶えることができるのか――――

本作は二編の掌編を収録したノベルで、二作いずれもおもちゃを主人公とした、選択肢なし、一本道の短編である。
人間を慕う純真なおもちゃ達だが、いずれも迎える結末は……ぜひ自分の目で確かめて欲しい
ごくごく短編で、15分もあればいずれも読了できるかと思われる。

なお、以下の文章には、(直接的ではないが)一部、人によってはネタバレと感じるかも知れない要素が含まれる。
ネタバレはちょっと……という方は、ぜひ上のリンクより読了ののち進んで頂きたい

目を惹くモーショングラフィクス

表題にもなっている『ぬいぐるみのジェシカ』では、ウサギのぬいぐるみのアニメーションには感心させられた。動きの表現は、さながらFlash時代を思い出す。
素材をめまぐるしく動かす作品はのべるちゃんに多々あるが、このタイプの演出は非常に珍しく、かつ頭一つ抜けていると感じた。

今作をはじめ、のべるちゃんの表現領域を使い切った作品を次々に生み出している作者さんなので、豪華な演出に興味のある方は同作者さんの作品をチェックしてみるのもいいだろう。

短編の良さがギュッと詰まった、ちいさな名作

何かを表現する時に短編を選択するメリットは色々あるが、インターネットを媒体にした様々な娯楽が可処分時間を奪い合う現代において、短編の強みはやはり「読了してもらえる可能性が上がること」ではないか。

そういった観点から見ると、この作品は極めて優れている。飽きる間もなく終わり、心には重い感触を残してゆく……理想的な短編のかたちであると思う。
多忙で移り気な読み手の心の一部分を如何にして占めるか、という、ある種の戦いにおいて間違いなく勝利していると言える。

この作品については、読んでいる時間より読了した後でこの作品について考えている時間の方がずっと長かった。そんな作品に、最近どれくらい出会っただろう?

『書かない』妙

では、なぜ後に引く作品になっているのだろうか?
絵本のような雰囲気に反しておもちゃ達の末路は悲しいものばかりであるから、そのギャップが心に残っている?
確かにそれもあるかもしれない。が、やはりそれは些細なことで、最も大きな理由は『書いていないから』ではなかろうか。

出来事を最後まで書き切らない。それによって読み手に考える余地を残す技法は、上手くいけばとても効果的だが、書き手としてはとても勇気の要る決断だ。
「自分が考えた物語の意図が読者に伝わらなかったらどうしよう?」という不安と戦う必要がある。
そして実際、伝わらなくて涙を飲んだ経験のある作り手の方もいらっしゃるのではないだろうか。
どこまでが「説明不足」で、どこまでが「敢えて書かない」なのか。答えのない問いだが、この作品をプレイすることを通して、その答えに一歩近づく助けにはなるかも知れない。

自分なりの解釈を語りたくなる魅力

この作品を読み終わった後は、「一体どうなるんだろう?何の話だったのだろう?」という気持ちになる読者が大半だと思われる。「ちょっともう一回読んでみよう」と、再度読んでみる方も多いかも知れない。自分なりの解釈の余地のある作品というのはなんとも楽しいものだ。
事実、この作品のコメント欄は作品の解釈で賑わっていて、自分も参加したくなる雰囲気が出来上がっている。

短編で、かつ読者に解釈を任せるやり方は、下手をすると本当にただの投げっぱなし、作品未満になってしまうこともある中、この作品はそのあたりのコントロールが本当に上手いな、と思わされるところである。

急に秋らしい気候になってきた今日このごろ、少し物憂げな気分に浸りたいなら、この作品はぴったりだ。ぜひ読んでみて欲しいと思う。

次回も「Script少女 のべるちゃん」で見つけた、素晴らしい作品を紹介していきたいと思う。ここまでお読みくださり、ありがとうござました。

コラム:作品の「楽しさ/長さ」レシオ導入のすゝめ

ここからは紹介ではなく、作り手向けのコラムをお送りする。
『ぬいぐるみのジェシカ』の最高さは「短いシナリオに良さがギュッと詰まっているから」に起因するのだが、それにまつわるお話だ。

さて、早くもノベルゲームから少し話題が離れてしまい恐縮だが、最近弊社ではApex Legendsが流行のきざしを見せている(その前はスプラトゥーンだった)。ともあれ、この手のゲームでは「レシオ(比率)」を気にする人は多い。

【キル数/デス数】【与ダメージ/被ダメージ】を見ることで、客観的な視点を得られるということのようだ。
「敵をたくさんキルしているように見えるが実際は自分もたくさんキルされているので思ったより貢献していないのだな」とか、「あまりダメージを受けても与えてもいないのでレシオは良好だが、消極的なプレイになっているため自分はランクが上がらないのでは」など、客観的な分析の助けになる。

この「レシオ」という考え方、『ノベルゲーム制作にも似たようなものを見いだせはしないか?』と、残業中にテイクアウトのナンをパクつきながら、少し考えてみた。

その後二日くらい考えてみたのだが、作品の満足度を示す一つの指標として、「楽しさ/ストーリーの長さ」というレシオは助けになるかも知れないぞ、と思うに至った。

(楽しい出来事、というのは単にfunだけではなく、interestingでもいいし、とにかく読者/プレイヤーの脳内にセロトニンとかドーパミン等が出る出来事全般を指している)

・面白い瞬間が1回訪れる、プレイ時間20時間のノベルゲーム
・面白い瞬間が1回訪れる、プレイ時間1時間のノベルゲーム

この二つがあったとき、たぶん読み手の満足度が高いのは後者だろう。
楽しい!と思える瞬間を一回迎えるために20時間付き合わされるのと、1時間で済むのとではその差は歴然だ。
しかしながら、これはあまりに極端な例であるため、もう少し現実的にすると、

・面白い瞬間が12回訪れる、プレイ時間8時間のノベルゲーム
・面白い瞬間が5回訪れる、プレイ時間30分(0.5時間)のノベルゲーム

このような感じになるだろうか。早速、レシオを計算してみる。

12回/8時間の場合、レシオは 1.5になる。
5回/0.5時間の場合、レシオは20になる。

面白い瞬間の量は、前者がダブルスコア以上で上回っている。が、レシオで見れば両者には大きな差がある。
もしあなたがFPSやTPSなどのゲームをプレイしているなら、それぞれのキル/デスレシオのプレイヤーのプレイングを想像してみて欲しい。だいぶ、いや、まるっきり世界が違うはずだ(もちろんこれは例え話に過ぎないのだけれど)。

物語を長編にするならば読者を楽しませる瞬間を相応の密度で配置しなければならず、その絶対量は物語が長くなればなるほど膨大になってゆく。これは逃れようのない事実で、長編が「グダる」理由の最たるものではなかろうか。

逆に、物語が短編であるならば、読者に「これを読んでよかった、もっと読みたい!」と思せる瞬間の絶対量は少なくて済む。ただし、物語の長さという「入れ物」が小さいため、書きたい要素のすべてを書き切ることができないかも知れない。だからこれらの選択は一長一短で、正解は存在しない

アイディアを頑張って膨らませて変に長編にしたらグダグダになってしまったのに対して、うまく割り切って短編にしてしまった方がいい感じになった……という経験のある方も多いのではないだろうか。それはきっと上記のような理由なのではないかな、とぼくは思ったのだ。

もちろん、面白さの種類は作品によって違うし、楽しい瞬間なんて人によって千差万別で、そもそも数字で表せるような単純なものではない。ある意味、全てが目分量で、だからセンスが求められる。多くの人は生まれつき高いセンスを持っていない。だからセンスを磨く

20時間読ませた後だから感じさせられる面白さ、感動も存在するとぼくは信じているので、このレシオもあくまでもいち判断材料にしかならないが、しかし先ほど述べた「目分量」を助けるひとつのスケールとして役に立つ瞬間もあるのではないかと思い、ここに書かせて頂いた次第である。

もし元気と興味と十分な余暇があれば、あなたの好きなアニメ、小説、映画、ゲーム、なんでもいいが、鑑賞しながらぜひレシオを出して見て欲しい。自分なりにアレンジしてみる余地は多分にあるが、現代のエンタメはやはり時間の取り合いなので、分母にはやはり時間がいいだろう

そして、自分の作品のプロットを書き出したとき、テストプレイをしたとき、ふとその時のレシオを思い出して「この作品は読者を満足させるに足る楽しさ/時間のレシオを確保できているだろうか?」と考えてみることは、きっとムダにはならないだろう。

だいぶ長くなったが、今回はここまで。
紹介のみならずこの長いコラムまでお付き合い頂いたあなたに、改めてお礼申し上げます。次回もどうか楽しみにお待ち頂けますと幸いです!

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