暗転の星空 -下-


前回の続き


完全に行き詰まってしまった那由多は、知り合いに唐突に「命の定義とは」と尋ねた。(協力してくれたみんなありがとう)


 友人Aの答え 『生きている意味を探すもの』

Aに対して、「ザ・ワン」のストーリーの詳細を伝えた。(「ザ・ワン」を観ていないnote読者に向けてざっくりまとめると以下のような雰囲気になる)

 彼はAIによる実験対象であり、世界に人間は彼しかいなくなったこと、肉体はクローンであり、実験の度に新たな身体に40GBのCD-ROMに入っている最小限の「彼」というデータを移されていること。それを知った後、ザ・ワンは言う「なんで俺なんだ……」
 そして言われたのが、二択問題で誰とも被らない、たった1人だけが君だった、と。覚えているだろう?あの二択問題を、と言われる。あらゆるところに隠してあった2択問題について、宣伝文句の端々、駅の看板、その他色々なところに、無意識のうちに選ぶように仕向けられていたことを知る。そこで物語は終わる。
 ことはなく、最後の場面で、彼は劇冒頭と同じように二択問題に同じように答えている。同じようにファンファーレが鳴る。照明が光る。
 「おめでとう!君は選ばれた」

  終

 友人Aからの返信 
  「ギガかよ…せめてテラであってくれよ…」
  「生きてる意味も何もないね…」


 友人Bの答え 『自分が自分のことを自分だと認識していること』

ザ・ワンのデータを引き継いだクローンが自分のことを「ザ・ワンである」と捉えているなら、それは「その人の人生」という意味の命は引き継がれていると言える、とBは言った。
Bに「ザ・ワン」のストーリーを伝えた。もし、Bがザ・ワンの立場だったらどう思うか尋ねた。

 友人Bの返信
 「せめてCD-ROMじゃなくてUSBにして欲しい」
 「それはもう、死んでるのと同じだ、と思うのかもしれない。
  なんかMIU404の、トランクルームの回を思い出した」


MIU404 #7 現在地
10年後の時効を待って身を顰める犯人2人の会話抜粋引用。

 大熊「もう少しで、俺たちは自由になれる」
 ケンさん「……自由なんてない」
 大熊「あ?」
 ケンさん「時効が終わっても俺たちの名前は記録に残る。家借りられる?まともな仕事につける?誰かと話をして、一緒にご飯食べて、笑って、そういう生活できる?」
 大熊「……」
 ケンさん「あのとき自主してたら、8年くらいで出られた!」
 大熊「!」
 ケンさん「今頃とっくに罪を償い終わって、堂々と生きられた!普通に生活できたんだよ!俺たちはもう、死んでるのとおんなじだ!」


この一言が引き金となって、ケンは大熊に殺される。
大熊は、ケンの真実味のあるその言葉に激昂したのだろう。
やはり人は「死と同じ」ということに恐怖を抱くのかもしれない。

7話の台本を読み、思い返しながら、SIN最期に荒田が和臣に向けて放った「かわいそう」は、本心ではなく、もう間もなく尽きる命なら和則に殺された方がいいと考え、敢えてトリガーとして使ったのではないかと信じたくなった。くだらないifだが、もし最初に感じた時と同じように「面白いと思ったんだ」と答えていたら、二人とも報われていたのかもしれない。分岐を考えていたらキリがないが、報われて欲しかった、なんてエゴが湧き出てくる。

ザ・ワンの最後に使われた曲、「ないない」の中にこんな歌詞がある。

  何者でもないまま
  何にもできないまま
  生きるのは無駄ですか
  悪い事ですか

無駄だが、悪い事ではないと思う。だが、いざ自分のこととして捉えると違う気もしてくる。今現在何者でもなく何もできない自分は生きる価値がないし、悪くはなくても生きていて誰にも良い事をもたらしはしない。死んだ方がマシだ。

那由多のことはどうでもいい。きっとケンもこの歌詞のように悩み、考え、苦しみ続けていたのだろう。大熊も薄々同じ思いを抱いていたのかもしれない。

MIU404では伊吹藍が、SINでは和臣が、ザ・ワンではザ・ワンが好きだ。
この3人は、生きることに貪欲な人物だ。死にたい人間が生きようとする人間を好きになるのはおかしいと思うかもしれないが、彼らと実際出会うことができたら、何かが変わっていたかもしれないという願いと、現状が変わるなら生きていたいという潜在意識によって引き合わされている気がする。

え?お前本当に一番好きなのは桔梗ゆづるだろって?
今そっちにフォーカスしたらもっと脱線して二度と戻って来られなくなるから目を瞑っていて欲しい。


 友人Cの答え 『自分が自分のことを自分だと認識していること』

 友人Cへの質問「データが完璧に引き継がれていればそれは自分?」
 友人Cの返答
 「データ化されたクローンになったとしても、生きている時周りにあった環境、人間関係、生活が何1つ変わらないのなら、それは何も変わらないただ一つの命じゃないかな。人間として引き継がれる生きているデータ(内容)があった時点で、それは大きい小さい関係無く価値のあるもので、命以上の何ものでもないかな」
 「けれど未来は誰にも予測不可能で、自分ですら思い通りにする事は難しいから、データが完璧に引き継がれていたとしてもそこへ新しい意思が“もしも”生まれてしまったとして、その時はクローンになる前の“自分”の意思だとは言いきれない、かな」

 友人Cへの質問「自分がザ・ワンの立場だったらどう思う?」
 友人Cの返答
 「今ある事実全てを受け止めるしかない、かもな。この命になるまで様々な手が加わっていて、この世にあるものの中で1番自分に近しいものとして作られているのだとしたら、今の命に身を委ねてしまうかもしれない」


さて、ここまで3人の友人に命の定義とは何か、自分とは何かについて聞いた。
そろそろ那由多が答える番だ。

文字に起こし、他人の助けを得、頭の整理はそこそこできている。
乱雑に書き込まれたメモの、答えの欄として用意した『 』の中に書き込んだ。


「命の定義とは、何だ?」
 那由多の答え 『作者の創造物』

誰かは、それを「神の創造物」と言い換えるだろう。自分の舞台の範疇から出たものを「神」と呼ぶのは強ち間違っていないので特に訂正はしない。確かに、神の視点という言葉は的を射ているし分かりやすい表現だ。


「本当にあなたはあなたですか?」
 那由多の答え “To be, or not to be, that is the question.”

“be”をどう訳すのか。一般的なのは「生きるか死ぬか、それが問題だ」だろう。
“be”自体の意味は、「…である、…でいる、…になる、…がある、…が存在する」。
生きることとは、在ることである。
そこにデータだろうと何だろうと自分足り得る何かが在り、存在しているのであれば、「『自分』は生きている」と言える。作者が、那由多という人物をこの脚本から完全に抹消しない限り、那由多は自分を失くすということはない。


命なんて、自分なんて、結局誰かの作り物なのだ。






なんて、退屈な人生を変える勇気のない人間の言い訳。

ここまで読んだあなたは、バカなのか、優しすぎるのか。

あなたがここで費やした時間は全くの無駄でした。おめでとう。



ザ・ワンを通して那由多が “思い出したもの” の一覧を蛇足として置いておく。

・Bendy and the ink machine(ゲーム。本当に面白いので実況だけでもぜひ)
・オルターエゴ(スマホゲームアプリ。無料。自分に向き合える時間)
・ひとりぼっち惑星(スマホゲームアプリ。無料。音楽が素敵)
・MIU404(ドラマ)
・アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(小説)
・銀河鉄道の夜のような夜(ラーメンズ第16回公演『TEXT』より)
 https://youtu.be/C6Xj_pWmTAw

・ONE / パスピエ https://youtu.be/Jw4B9_40iv8
 「白か黒かいずれが混じったか混ざったか
  曖昧なラインは滲んだままかな
  願う君のわたしになれますようにと」
 「前借りした未来の終わりを待てるほど
  強くも弱くもない」

・ディジーディジー / 蜂屋ななし https://youtu.be/5iymwRXrkZA 
 「選んだんだ欠けた様な理想の幸せ。」
 「それがなんだ?
  何が間違いだったなんて
  もう話すには遅すぎた過去の回想。」

・青色が怖くなったんだ / Δ https://youtu.be/qEpvfd2LAGc
 「ねえ君は気付いたかい この世界の本当」
 「もうずっと 繰り返すのは同じ音
  逃げなくちゃ」

・ドーナツホール / ハチ https://youtu.be/qnX2CdOBcDI
 「あなたが本当にあること
  決して証明できはしないんだな」
 「この胸に空いた穴が今
  あなたを確かめるただ一つの証明」
 「あなたの名前は」



舞台はナマモノとよく言う。演劇は、生で観た方がいいことは確かだ。
那由多的、生で観劇最高ポイントというものは、世の中でよく言われているそれとは少し違う。

暗転した時、舞台の床に無数に散らばるバミテが光る。
まるで星の欠片のように。
何よりそれが大好きなのだ。

開演前の緊張感のある煌めき。
休憩前後の胸の高まりに染まった輝き。
終演後の夢のような儚い明り。

その時々の空気によって変わるその光は、

終演後に受け取ったものも、抱えた感情も、時が経つにつれ薄れていく。
あれだけ衝撃を受けていながら、徐々に忘れてしまう。
それが、悔しくて、悔しくて。
今回の「ザ・ワン」だってそうだ。


でも、今でも目を閉じれば、瞼の裏にあの星がちゃんと見える。


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